本日紹介いたしますのはこちら、「A・O・N エーオーエヌ」です。
03年に集英社さんのジャンプ・コミックスにて全2巻が刊行されました。
作者は道元宗紀先生。
道元先生は92年にジャンプでデビューした漫画家です。
94年に「奴の名はMARIA」で連載デビューしましたが、あえなく打ち切り。
その後99年に「大好王(ダイスキング)」、02年に「A・O・N」と連載したものの全てが打ち切りに終わってしまいました。
現在では和月伸宏先生のアシスタントをしているとのことですが、真偽の程は定かではありません……
本作はプロレス漫画です。
ジャンプでのプロレス漫画の歴史は深く、古くは平松先生の「リッキー台風」、厳密に言うとプロレス漫画ではないのですがやっぱり知名度から考えてはずせない「キン肉マン」、にわの先生の出世作「THE MOMOTAROH」など人気作も多く生まれています。
その裏で突き抜けていった作品も多く、いまやチャンピオンで人気をおさめている山根先生の「JOKER」、いまや関連商品のおかげで長者番付に載るほどの成功者になった高橋先生の「天燃色男児BURAY」といった作品が消えていきました。
そんな歴史の最後を締めくくる漫画となっているのがこの「A・O・N」。
今後プロレス漫画がはじまらないとも限りませんが、昨今のプロレス人気の落ち込みようから考えると週刊少年ジャンプでのプロレス漫画連載は難しそうです……
本作の主人公は15歳であること、身長168センチということ以外のほとんどが謎に包まれている少年、ギュン。
彼は日本一のプロレス団体であるプロレスリング赤鴉の入門テストにもぐりこみます。
まっとうにテストを受ければまず年齢ではじかれるだろうと履歴書持参でいきなり当日にやってきたギュンは、
あろうことか「プロレスはいんちきだから格闘技の経験は関係ない」「自分は人を楽しませる天才だからだましのテクもすごい」などと暴言を吐き散らすではないですか!
当然レスラーの怒りを買って追い払われてしまうギュン。
その日はこのままおとなしく引き下がったのですが……
4日後、赤鴉に大事件が起こります。
赤鴉一の人気をもつ覆面レスラーのアオンとして活躍していた選手が街で一般人とけんかをして傷害罪で逮捕されてしまったのです!!
ですが赤鴉の社長は動じず、アオンは正体不明のレスラー、逮捕された選手が「アオンだと勘違いされている」と言う誤解を解くために「アオンの中に入れる人」を呼び寄せることに!!
しかしアオンの元中の人は身長168センチと小柄。
現場監督的立場の選手はそんな小柄の選手など都合よくいるはずが無い……と答えた瞬間脳裏によぎったのがギュンでした!
赤鴉の社長はギュンを呼び出し、2ヶ月ほどアオンになってくれと大金を積みました。
2ヶ月の間に次の「本物のアオン」を作るまでの仕事料と口止め料です。
ギュンは汚い「大人のやり取り」に釈然としない様子ですが、アオンとなることを決意。
そして早速試合の日がやってきます!
相手は身長190センチを越える巨漢、スカラベリオ。
試合開始のゴング……というところで赤鴉の社長に電話がかかってきました。
アオンの元中の人に殴られたと被害届けを出したのも、そして彼がアオンの中の人だとリークしたのも……全てギュンの仕業だと言う電話が!!
もはや試合を止めるような段階ではなく、ゴングは打ち鳴らされてしまいます!
始まるや否や目を疑うような凄まじいキックを連打し、スカラベリオをサンドバッグのように打ちのめしてしまうギュン!
そしてそのままマイクを取り、「プロレスはいんちきではない」と宣言!
その証明のために日本中のプロレス団体40、その所属選手336人をリスト化し、その全てを自分が倒すと言い出したのです!
アオンを倒した選手には賞金6億!
更にもしアオンが負けたらその場でマスクを脱いで引退するとまで言い切るのでした!!
あっという間にアオンの存在を自分のものにしてしまい、プロレス界を混沌の渦に巻き込んでしまったギュン!
日本中に潜む隠れた実力者や名声に餓えたインディーレスラー、そしてチャンピオンの座についている有名選手までがすべてギュンに牙を剥く激闘の日々が始まるのです!
このようなジャンプ漫画では非常に珍しい「大人のやり取り」が目いっぱい行われる本作。
なんせ15歳の主人公が、見るからに悪役である社長の上を行く策略を張り巡らせてますからね!!
それに加えて「やりたいことに全力で取り込むこと」「あきらめないこと」「信念を貫くこと」が大切であると言う道元先生の主張がプロレス描写よりも熱く描かれているのも特徴。
実際この辺がジャンプの色とはかなり違っていた感が否めず、人気を得られなかった一因となっていたのではないでしょうか……
絵の方もかなり力の入った作画がなされているのですが、気合が入っているゆえか決め技のシーンでどこがどうなってるのかわかりづらい状態になっていることがあるのも惜しいところ。
オリジナルでインパクトの強い技を作ろうと言う意気込みが感じられるだけに更に残念です……
誤解の無いように言っておきたいのですが、絵柄自体は丁寧かつ奇麗で、女性も可愛く描かれてますし構図も豊富で画力の高さを感じ取れるんです!
何より社長をはじめとした悪役キャラのいやらしい顔つきは特筆もののいやらしさ!
もっとこういう見るからにワルな人が見たかった……
全10話で打ち切られてしまった本作、ページ数の補填のために第1巻には1本、第2巻には2本の読みきりが収録されています。
内訳は主人公がひょんなことから異様な姿の変身ヒーローになってしまう「煩悩装甲ゼンカイザー」、400年にわたる構想を繰り広げる2家の抗争をコミカルに描く「ゴージャスファミリー」、そして真面目な生徒会長が不良女子に好かれるために間違った方向に頑張ってしまう「ゼンリョク少年」……となっています。
残念ながら一部ファンの間で掲載が熱望されていた「いちごちゃんストロベリー」は収録されていません!
……いつの日か単行本に収録される日が来るといいんですけどね……
どす黒い大人の世界に真っ向から立ち向かう、「A・O・N エーオーエヌ」は全2巻で発売中です!
説教くさい感じがするとか、プロレスが題材であるとか、人を選ぶ要素は確かに多いのですが、実は見所も多い本作。
ネット上ではつまらない打ち切り漫画として有名になっていますが、そういう評価を下すのは読んでみてからでも遅くは無いはずですよ!
さぁ、古本屋さんとかに急ぎましょう!!