3階の者だ!!

DEBがお送りするネタバレありのコミックス紹介ブログです。 短編物では一話にスポットを当てて、長編物ではこの後どうなるの?と言うところまで紹介しているつもりです! ※作品記事につきまして、権利者様が問題があると感じられた場合はご一報ください。対応いたします。

カテゴリ: 丸尾末広

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本日紹介いたしますのはこちら、「瓶詰の地獄」です。
エンターブレインさんのビームコミックスより刊行されました。

作者は丸尾末広先生。
丸尾先生の簡単な紹介と、その著作「芋虫」の紹介は09年10月27日の記事にて記載しております。
よろしければあわせてご覧くださいませ。

さて、本作は丸尾先生の持ち味であるエロスとグロテスクを退廃的な香りとともに描く短、中編集です。
収録されているのは4作品。
まず掲載されているのは表題作でもある「瓶詰の地獄」。
原作はかの夢野久作先生の「瓶詰地獄」で、原作へのリスペクトもあってか、丸尾先生らしからぬグロ要素を控えた作品となっています。
そして同じく同名の作品をモチーフに、丸尾先生独自のテイストを混ぜ込んだ「聖アントワーヌの誘惑」、本巻中唯一の完全オリジナル作品である「かわいそうな姉」などが収録されているのです。
そんな中で今回紹介したいのは、こちらも同名の作品、というか落語が原作となっている「黄金餅」。
原作では金銭欲に取り憑かれた者の妄執をブラックに描く、落語には珍しい毒の強い作品になっているのですが、そこは丸尾先生。
より一層どす黒い味付けを施していらっしゃるのです!!

夜道を按摩の男が1人。
目が不自由らしく、杖で探りながら道を歩いています。
目の前にある大きな水溜りを前に思案している、そんな彼の様子を見かねたのか、通りすがりの女性がこの辺は道が悪いからと先導役を買って出てくれました。
ですがただでその先導役を務めたわけではないようで。
そのまま按摩と女性は、一夜をともにしてしまうのです!

貧しい人たちが、貧乏を嘆きながらも賑やかに暮らしているうらぶれた貧民街。
その中に先ほどの按摩、亀の市の家はあります。
家、と言っても貧乏長屋の一室ですが!
その亀の市、周囲の人間にある疑惑をもたれています。
目が不自由なのは、偽装ではないのかと言うこと。
実際冒頭の水溜りのシーンでも見えないはずの蛇を認識していたようですし、道端に転がっている何かの糞もこともなげに避けて歩いているのですから、その疑惑も真実味も帯びると言うものです。
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そんな亀の市が自室で食事をしていると、壁に開いた穴から隣の部屋の住人が様子を窺っています。
どうやら亀の市には、大金を隠し持っていると言ううわさがあるようで。
その大金を探り出し、盗んでしまおうと隣の部屋の夫婦は目論んでいたのです!!
ところがいつ様子を窺っても金は見えませんし、思い切って空き巣にはいってみても、床下から天井裏まで何一つめぼしいものはなく。
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犯罪に手を染めるにしても、その大金があると言う確証が得られぬままいるのでした。

一方の亀の市はと言うと、その夜やってきた金を貸してくれと言う親子の申し出を断ったあとにとある行為に没頭していました。
壁に開いた穴から、あの隣の夫婦の情事をのぞき見ること……!
やはり亀の市の目はしっかりと見えていたのです!

翌朝、亀の市と隣の夫婦の元に変化が訪れました。
亀の市の頭に出来た、チクチクと痛むできもの。
そして、隣夫婦の奥さんに親しげに話しかけている、彼女の兄だと言う男性の訪問。
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この二つの出来事をきっかけに、物語は大きく動き出すことになるのです!!

近いうちに大金を掴んでみせる!と、奥さんの兄、次郎に誓う隣の旦那。
そのあてと言えばもちろん亀の市のあれしかありませんが……そんなことを知るよしもない亀の市がその日も自宅に帰ってきました。
ですが、その日の亀の市はいつも以上に無愛想。
どうも機嫌が悪いようですが、その原因は頭に張られた大きな絆創膏の下にあるのでしょうか。
その原因は、程なく明らかになるのです。

安飲み屋で管を巻いていたと言う亀の市。
その飲み屋で彼がぼそぼそと打ち明けたと言う事実……
それは、あのできものが癌で、余命がもはや幾許もないと言うものでした!
どこからかその情報を聞きつけてきた次郎に、隣夫婦の旦那はその件を聞き、より一層監視の目を強くします。
金を溜め込んでいるなら、きっとその整理をするはずですから……!
監視されている亀の市、再び金を貸してくれとやってきた親子に奇妙なお願いをしています。
前回は50銭を貸す事さえ体よく断っていた彼が、餅を20個買ってくると言うおつかいをしてくれれば5円も駄賃としてやると大盤振る舞いをしたのでした!!

程なく届けられた餅。
その餅を前にして、亀の市は奇妙な行動を始めました。
まずてにしたのはいつも使っている杖。
仕掛けが施されているようで、引っ張ると一部が外れ、杖の中の空洞が顔を出しました。
その空洞からのびている、1本の紐。
それを引っ張ると、中から大量の紙幣が出てきたではないですか!
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そう、彼は肌身離さず自身の財産をもって歩いていたのです!!
次に亀の市は、餅をてにして中にはいっているあんこを丹念に捨てていきます。
それが終わると、今度は大量の金のにおいをかぎ、涙しながら感触を味わって惜しみ……その金を餅へと包み込んでいきます!
そしてその餅を
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次々に丸呑みにしていったのです!!
けちすぎる亀の市は、とうとうその金をまともに使うこともなく、あの世へと持っていってしまうことにしたのでした!!
ですがその強欲の代償はすぐにやってきてしまいます。
有り余る金を腹におさめた餅。
その餅は、すべて自身の腹におさめるには多すぎたのです!
息も絶え絶えになりながら最後の一つを飲み込むと、亀の市はもだえ苦しみだし……
そのまま絶命してしまったのでした……

様子を窺っていた隣夫婦と次郎は、すぐさま亀の市の死体を桶に入れて人気のない紺屋へと運びました。
次郎に渡された包丁を手に、脂汗を流しながらもその刃を突き立てる旦那。
その腹の中からは、出てくるわ出てくるわ餅また餅!
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真っ赤に手で染まった、金の入った金餅を手に旦那は歓喜するのですが……
すぐさま彼もまたその包丁で絶命することになるのです!
奥さんの兄だといっていた次郎。
彼はやはり彼女の兄などではなく、いい人でして……
この金を元に次郎と商売を始めると、旦那を冷たい目で見下ろしながら冷酷な真実を打ち明けるのでした……

その金で開業した餅屋、「黄金餅」の名物である黄金餅は大人気。
連日売り切れが続出し、次郎たちは順風満帆な人生を送っていました。
誰一人心を許さず、自分ですら使わないままあの世にもって行こうとした金を、結局まるまる縁もゆかりもないものに奪われて成功の礎にされてしまう。
ケチの末路なんて無情なものだ……と、そんな教訓めいたオチで物語を終わらせる丸尾先生ではありません。
幸福の絶頂の彼らの前に現われた、恐怖の光景……!!
破滅を予感させるラストは、その目でご確認ください……

と言うわけで、落語のブラックな名作を、よりブラックにリメイクした作品を収録した本作。
本作はもちろんのこと、他の作品のどれをとっても丸尾先生らしさが非常に強く出されています。
前述した「黄金餅」でもその一端が知れるかとも思われますが、とりわけその味が強いのは「かわいそうな姉」。
人を選ぶといわれる丸尾先生の作品ですが、この作品は収録作中最もその傾向が顕著に出ていまして。
退廃的な空気、どす黒い人の心、あまりにも無残な結末。
そのすべてがこれでもかとつめられた「かわいそうな姉」もまた、お好きな方ならば必見の内容になっていると言っても過言ではありますまい!!

丸尾先生による短、中編集「瓶詰の地獄」は全国書店にて発売中です!!
原作月作品から完全オリジナルまで網羅した本作。
人を選ぶ作品であることは間違いありませんが、その幸か不幸か選ばれし者たちならば引き込まれること間違い無しですよ!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!


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本日紹介いたしますのはこちら、「芋虫」です。
エンターブレインさんのビームコミックスより刊行されました。

作者は丸尾末広先生。
丸尾先生は80年にデビューして以来、強烈な個性を放つ作品を発表し続けている漫画家です。
レトロな絵柄と性的にもグロテスクな意味でも過激な描写を得意とし、熱心なファンも多くついています。

本作はかの文豪、江戸川乱歩先生の同名小説を漫画化したものです。
当時から色々と話題になったらしい原作で、さらに丸尾先生が漫画家。
と言うことで非常に刺激が強く、差別的だと感じてしまう描写があるかとは思いますが、こちらではそういった意図は持っておりませんのでご了承の上ご覧くださいませ。

主人公の時子は戦争で武勲をあげる須永中尉の妻です。
彼女は結婚後子宝に恵まれず、養子をとっても病死してしまうと言う満たされない日々を送っていました。
そんなあるとき、須永はシベリアへと出兵します。
時子は夫が今までのように武勲を挙げ、さらに昇進をするのであろうと思っていました。
ですが夫は戦死こそ免れたものの、大怪我を負って帰ってくることになります。

内耳と声帯を損傷して聞くこともしゃべることも出来ず、四肢のすべてを根元から失うと言う惨たらしい姿となって……
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ショックを受けた時子は心神喪失状態になりますが、須永の兄夫婦の経済的支援や、上官から無料で宿を借りうるなどの支えもあって夫の世話を続けます。
食事から下の世話、そしてことあるごとに見せろ要求してくる自身の勲章とそれをたたえる新聞……
献身的に世話をする時子ですが、そんな彼女に須永はまるで動物のように猛烈な食欲と性的欲求をぶつけてくるのでした。

やがて時子は自分の介添えなしでは何も出来ない夫を「芋虫」にたとえ、歪んだ愛情……いや、情欲を浴びせ始めます。
あるとき、誰かが……自分がいなければ額に止まった蚊さえ追い払えない、何も出来ないと須永に侮蔑の声をかけていた時子。
須永はそんな時子を怒るわけでもなく、蔑んでいるわけでもなく、どこか遠いところをみるかのようなまなざしをたたえているのみ。
そんな瞳に時子は言いようのない憤りを感じ、
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驚くべき凶行に走るのでした。
この凶行をきっかけとして須永と時子の運命が大きく動くことになるのです……


原作が短編と言うこともあり、本作も140Pほどにまとめられています。
発表当時である1929年と言う時代を感じさせる、淫猥で背徳的、退廃的なムードをそのままに丸尾先生がその個性的な絵柄で更なる異様さを加えて新たな世界を作り上げられた本作。
なんとも言いようのない後味の悪さや不快感が充満しているストーリーもさることながら、丸尾先生の描くおぞましくも美しい幻想的な作画もすばらしいの一言!
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エログロ描写が激しい物が多いのでウチではちょっと紹介しづらいのですが……
とにかくその美麗作画を楽しむにふさわしい豪華なハードカバーに216x152の大型サイズ!
圧倒的存在感を有するカラー口絵も収録した豪華な一冊です!
読み手を不思議な世界に引き込んでくれることでしょう!

巨匠の問題作を現代の奇才によってさらなる領域へと踏み入れた「芋虫」は全国書店にて発売中です。
癖、と言う一言ではいえないほど好き嫌いの激しく出るであろう世界観ですので、万人にはとてもとてもお勧めできません。
それでも丸尾先生作品でしか味わうことの出来ない味を持っているこの作品、苦手な方でなければ抑えておきたいところではないでしょうか!
さぁ、本屋さんにいそぎましょう!!


芋虫 (BEAM COMIX)
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