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本日紹介いたしますのはこちら、「妖怪HUNTER~闇の客人~(ようかいはんたー やみのまろうど)」です。
新潮社さんのバンチコミックスより刊行されました。

作者は原作が諸星大二郎先生、漫画が井上淳哉先生。
諸星先生の各作品の紹介は「諸星大二郎」のテーマにて記事をまとめております。
井上先生は、ゲームメーカーのデザイナーなどを勤めた後、01年ごろから漫画家に転身されました。
ゲーム業界では東亜プランさんやケイブさんで活躍されていまして、そのメーカーからイメージするとおり、「BATSUGUN」「エスプレイド」「プロギアの嵐」など、シューティングゲームを数多く手がけていらっしゃいます。
個人的に「ぐわんげ」が好きです!
そして漫画業の方では「おとぎ奉り」「BTOOM!」などスマッシュヒットを連続してはなっている、マルチな活躍をされているクリエイターさんなのです!

さて、本作はその名の通り諸星大二郎先生の名作である妖怪ハンターシリーズの「闇の客人」(収録されている単行本で現在入手しやすいのは集英社さんの漫画文庫「汝、神になれ 鬼になれ」です!)をリメイクしたもの。
40Pほどの短編であった原作を大きく膨らませて単行本1冊にした本作、その大筋は大体一緒ながら、かなり違った味わいに仕上げられています!

大学の教壇で熱弁をふるう教授、稗田礼二郎。
考古学を教える彼ですが、その論文は神の力やら妖怪だのが盛り込まれているため学会では「妖怪ハンター」などと揶揄されていまひとつ相手にされていないようです。
ですがそういう方向の権威を求めている人も決して少なくはなく、その夏のある日もとある町での祭りの復刻の監修を依頼されていました。
大鳥町の「鬼祭り」。
危険な行事をしているわけでもないのに、なぜか行うたびに犠牲者が発生し、必ず豊作が約束されるその祭り、何より興味深いのは本当に「鬼」を招いたと記録が残されていることでした。
以前その調査をしたときに世話になった青年団がわざわざ稗田の大学まで足を運び、財政難打破のため復活させる鬼祭りの監修を求めてきたわけです。

いろいろ考えた末にその監修を引き受けた稗田。
そもそも稗田が妖怪ハンターと呼ばれはきっかけがこの鬼祭りに関しての論文だったようで、自分の論文の正しさを証明できるかもしれない……と言う考えもあったようです。
祭り当日になり、稗田は現地に足を運びます。
たどり着いた駅構内から既に町は鬼祭り一色。
ポスターに記されている自身の名前に照れくささを感じながらも、レポートに使えるかもしれないとそのポスターやら祭りの宣材なんかを撮影していきます。
すると何の運命のいたずらか、撮影したファインダー内にこそ入っていなかったものの、カメラを構えていた先で女子高生がパンチラをしたじゃありませんか!
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しかもその光景を見ていたおばあちゃんがなんか勘違いをして、この人盗撮したよ!と騒ぎ出したからさあ大変。
我らが稗田先生は駅員に捕獲されてしまうのでした!!

カメラのデータを確認した末、やっと開放してもらった稗田。
巻き込まれただけで何もしていないのに同行させられていた例の女子高生もいろいろと申し分けなさそうです。
そこで女子高生は、稗田がこれから向かおうとしている青年団のいる祭りの実行本部へ案内してあげることに。
そんなこんなで日枝葉、ひょんなことから縁のできた女子高生、大谷綾女と共に実行本部へ行くことになったのでした。

この祭りのために建立された高さ7丈7尺の鳥居を潜り抜け、
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実行本部へ到着。
ですが綾女はその場に着いたかと思うと、逃げるようにそそくさと帰っていってしまいました。
迎えてくれた実効委員の河村もあまり綾女には触れたくないかのようなそぶりを見せ……
何かありそうですが、河村はそのまま何事もなかったかのように稗田をホテルに連れて行くのです。
その道中、稗田はいくつかの疑問を河村に投げかけます。
本来なら豊作を祈願する祭りだから11月にやるべきではないか、あの鳥居は本来常世の方角とされる東を向くべきだが国道をむいていて車を敬っているようだ、と。
ですが河村は、町おこしなんだから人の多い夏休み期間にやるのは勘弁してくれ、我々にとっては車に乗ってやってくるお客さんこそ敬う神様なんだ、と言い訳に終始するのです。
その祭りの決まりを捻じ曲げる=神を冒涜する、とも取れる行為に稗田は口にこそ出せませんが、その顔を不満げに曇らせるのです。

その頃、綾女は自宅の近くまで来ていました。
そそくさと家に帰ろうとする綾女ですが、大きなお屋敷の前で裕也なるいかにも悪人面の男が呼び止めます。
いきなり壁に綾女を押し付け、襲おうとする裕也!
当然嫌がる綾女ですが、分家の娘が本家の跡継ぎに逆らうのか?という裕也の言葉を聞くと大人しくなってしまいました。
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裕也は遠慮なくおパンティをぬがしにかかり、さあペロペロしちゃうぞ!と言うところで、運よくそれをとがめる声がかかりました。
裕也の妹である育子です。
本家の跡継ぎならそれらしく振舞って、と裕也を追い払い、「嫌なことされたらはっきり言え」綾女を心配する声をかける育子。
ですが綾女は「育子にはわからない」といってその場を走り出し、そのままほど近くにある自宅へと駆け込んでしまうのです。
しかし安息の地であるはずの自宅でも、認知症にかかって介護をしなければならない祖父の存在があり……
どこにいても心の休まるときの無い生活に、綾女はほとほと嫌気が差していたのです……

ホテルから外を眺め、伝統からかけ離れた祭りを憂えていた稗田。
物思いに耽りながら外を見いていると、河村と、綾女の祖父がなにやらもめている光景が目に入りました。
認知症にかかっていながらも、この祭りに反対しているらしい綾女の祖父。
その場に駆けつけた稗田の耳に、「人身御供」と言う言葉が入ってきてびっくり!
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その言葉を発した綾女の祖父に事情を聞こうとするのですが、病気のせいかなかなか言葉が出てこないようです。
そんなことをしていると、そこに綾女が駆けつけてきました。
河村は早くこのボケジいさんを連れて行けと冷たくあしらいます。
いくらなんでも冷たすぎる態度が気になった稗田は、彼の人身御供発言が気になったのもあるのでしょう、綾女と彼女の祖父を家に送っていくことに。
冷たくされることに対して、綾女は自分達と町の人は「身分が違う」と説明してくれたのですが、そのことを詳しく聞く前に綾女は続けて先ほどの祖父の行為についての説明を続けました。
祖父はずっと祭りに反対していた、綾女たちが誰かもわからなくなるくらいボケても毎日抗議に行って実行委員に迷惑をかけていた、だから邪険に追い払われても仕方ない……
皆賛成した祭りの復活に、たった一人異を唱えていたらしい綾女の祖父。
何が反対なのか、何が危険なのか?稗田は必死に問いかけますが、綾女の祖父の口からは言葉にならないうめき声が漏れてくるだけなのでした……

稗田の不安は一切拭えないまま始まった祭り本番。
本来姿の見えない「客人(まろうど)」を招くこの祭り、祝詞は稗田の調べによって正式なものが使われましたが、見えないはずの客人をかたどった巨大な人形が町を練り歩いたり、それを導く「鬼踊り」は正式なものがわからないので地元のダンススクールに振付けてもらった適当なものだったりと、やはりいい加減な内容です。
それを嬉々として説明する河村に、稗田は愛想笑いしかできないのですが……やはりこの祭りはいい加減な思い出復活させてはいけなかったものだったようです。
なぜか突然吹き出した、鳥居からの突風。
倒れそうになる巨大人形ですが、それは祭りの参加者によってなんとか支えられました。
ところが良く見ると、巨大人形の後ろの道路に何か凹んだ跡が付いているではないですか。
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そしてそれはまるで目に見えない巨大な何かが歩いているように、ドカンドカンと音を立てて増えていき……
なにか気味の悪い虫がうごめくその跡をみて、何かやバイト気が付いたものがいた時にはもう既に遅し!
突然巨大人形が胴体の真ん中から真っ二つにちぎれ落ちてしまったのです!!
更にたまたまその瞬間を撮影していた稗田のカメラ。
その画像データには
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人形を噛み千切る巨大な「何か」の姿が……!!!
一体この「何か」は何なのか!?
落ち着いて考えるまもなく、目に見えない巨大な何かは町を壊し歩き、恐怖と混沌をもたらします!!
これは鬼祭りを愚弄した罰なのでしょうか!?それとも……
祭りに秘められた恐怖の真実が、今明かされます!!

と言うわけで、名作のリメイクとなる本作。
話の大筋自体はもう鉄板の面白さなわけでして、良くも悪くも大改変をしていない本作がつまらないわけがありません!
奇妙な祭りと、そこでもたらされる豊作、その代償。
秘められた謎の数々と、徐々に明かされていくその真実は読み手をグイグイ引き込んでくれるのです!
大改変していない、となるとどこを変えたのか……といいますと、やはり最近の流行に乗った女の子成分!
諸星先生作品には無い……とは言いませんが、非常に薄いエロス成分なども盛り込まれ、名もなき女性キャラであったキャラもきっちり名前とエピソードがつけられているのです!
可愛い&美しい女性キャラの他、男性キャラや「客人」も井上先生の手でキレイにリファイン!
諸星先生ならではのおどろおどろしさ、おぞましさはそのキレイさによって薄れてしまっている感はありますが、こちらはこちらで十二分にアリだと思います!!
稗田先生もイケメンのメガネさんになっただけでなく、常に丁寧語なやや弱気な感じの性格に。
さらに女の子の発言に照れてみたりと、原作には無い新たな稗田先生像を作り出しています。
賛否はあるかもしれませんが、基本的に冷静でどんな状況でもわりと難なく生き延びてしまう原作の稗田先生より人間味が増しており、狂言回し的ポジションからちゃんと「主役」になっていると考えればこちらもアリではないでしょうか!!

名作を現代風にリメイクした、「妖怪HUNTER~闇の客人~」は好評発売中です!
諸星先生ファンならばいうまでもなく必見の本作。
どうしても強い諸星先生の絵の癖が受け付けなかった方なども、この作品は抵抗なく読めるはず!
そしてそのままあまりにも深い諸星先生ワールドに突入してみてはいかが?
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!


妖怪HUNTER~闇の客人~ (BUNCH COMICS)
新潮社
2011-07-08
井上 淳哉

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