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今回紹介いたしますのはこちら。

「噓つきユリコの栄光」第1巻 田中現兎先生

講談社さんのマガジンエッジコミックスより刊行です。


田中先生は、おそらく14年に商業デビューされた漫画家さんです。
デビュー作は講談社さんがかつて運営されていたweb漫画サイト、新雑誌研究所にて掲載された読み切り「はないろ二膳」。
本作が連載デビューとなり、初単行本刊行作品となるようです。

そんな田中先生の描く本作ですが、そのタイトル通り「嘘つき」の主人公の、思わぬ出来事で輝き始める日常を描く作品となります。
主人公はどんな嘘をつき、どんな輝きを放つのか?
気になるその内容はと言いますと……



小石川ユリコは、常日頃から「主役」になりたいと思っていました。
ほめられたい、目立ちたい、選ばれたい、愛されたい、上に立ちたい、中心を取りたい、一番になりたい。
ですが何の変哲もない普通の家庭に生まれた、何の変哲もない少女であるユリコにとって、その望みはなかなかかなえがたいもので。
ユリコはそれでも主役になりたいという思いが消えず……主役になる為に、何度も嘘をついてきました。
霊感がある、夏休みはヨーロッパに行った、UFOをみた、原宿でスカウトされた……
またある時は、結果がわかりきっているのにクラス委員長に立候補してみたこともありました。
ですが、上っ面だけで取り繕った嘘がバレないはずもなく、そうして日々を過ごしてきた彼女がみんなに選ばれることも当然なく……
ユリコは面白いとは言えない学校生活を送ってきたのです。

そんなユリコも、中学生になりました。
中学では、今度こそ主役になる。
部活も勉強もがんばって、生徒会とかにも入って、と、小学校時代の暗い思い出を振り払うべく、彼女胸の中にはやる気と希望が満ち満ちています。
……が。
その思い描いた未来図は、初日のクラスの自己紹介で一気に崩れ落ちてしまうのです。
その原因は……満月院家康です。
クラスメイトになった彼は、誰もが知っている大会社の息子な上、イケメンで趣味は英語とピアノ、ともう何と言いますか、「主役」要素の塊のような存在でした。
彼と同じクラスになってしまった以上、主役に躍り出るのは並大抵な努力では足りないでしょう。
中学になっても端っこの存在なのか?
そんな絶望に暮れている中、自己紹介はユリコの番になってしまいます。
霊感がある、芸能人と親戚だ、宇宙人にあったことがある、スカウトされた……
今までついてきた嘘が脳裏によぎるユリコ。
ですが中学ではくだらない嘘をつかず主役になると誓ったユリコ、その嘘を口に出すことができません。
何も言えず、立ち尽くしていると……後ろの席のクラスメイトから、頑張れコイシカワさん!という、からかい半分……いや、からかい全部の応援が飛んでくるのです。
一気に笑いに包まれる教室。
なんで自分ばかりこんなに惨めなのか?
追い詰められてしまったユリコは……こういいました。
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私、満月院くんの婚約者です。

勿論その嘘を信じる者はおらず、本人も中学校生活がもう終わってしまったと後悔する始末。
それでもまだ嘘だと確定はしていないのが救いですので、自己紹介が終わると、ユリコはそそくさと教室から逃げ出そうとしました。
が、そこで家康がユリコの腕をつかみ、問いかけてくるのです。
婚約者ってどういう事かな、と。
クラス皆の目が二人に注がれます。
うける、ざまぁ、とこのあとやってくるユリコの嘘の照明を期待する声が聞こえてくる中で、ユリコの頭の中には嘘だとごまかして笑えば許してもらえるかもしれないが、そうしたところでこの状況は変わらないんじゃないか、という考えがよぎりました。
これから一生皆に笑われて引かれて、脇役のまま?
そう考えた瞬間……ユリコの中で、何かのスイッチが入ってしまいます。
ユリコは落ち着き払った表情で、家康にこう言うのです。
家康こそ、何の冗談?
あなたに嘘つきみたいに言われるなんて、私とっても悲しいわ。
……クラスメイトのいい加減にしろという声が聞こえてくる中、ユリコはそれでもなお表情を崩さず、なんと
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家康にキスをしたではありませんか!!
とんでもない出来事が起きたと、クラス中を驚きの声が響き渡ります。
すると今度は家康が笑いだし、ごめんごめん、悪ふざけが過ぎたよ、百合子さんにこんなことまでさせるなんて、婚約者失格だ、どうか許してほしい、謝ってきて……!!

屋上で二人きりになり、家康に今の件について尋ねるユリコ。
すると家康は、面白そうだから話に乗ってみた、自分を楽しませてくれる限り、この嘘を秘密にしてあげる、とこともなげに言うのです。
指切りして約束した二人。
主役としての日常を守る為、嘘の婚約者を装うことになったユリコ、その後教室に戻ってもその設定を守る為、家康の持ちだしてきた「子供の頃の思い出」などに合わせて話をしていきます。

ですがしばらくたったある日、いきなり家康は教室で、婚約者ごっこに飽きてしまったから、もうゲームオーバーにしよう、かわいそうだから付き合ってあげたけどもう疲れちゃった、と言い出すのです!
やっぱりか、とクラスメイト達にあきれられるユリコ。
ですがここでもまた、ユリコは自分の中のスイッチが入るのです!
主役は生まれながらに主役だし、脇役は生まれながらに脇役。
でも、脇役が主役の王冠を奪うところ、見たくない?
何より腹が立ってしょうがないのは、私がつまらない人間だと思われたこと。
ふざけるな。
……直後、ユリコは余裕の表情を浮かべて言うのです。
その冗談好きね、家康。
昔から私の困る顔見るの好きなのよね。
あなたがプロポーズしてくれた日のこと、はっきり覚えてる。
私の目を見つめて、私を幸せにするって言ってくれた。
あの日私もあなたを幸せにするって決めたの。
だからもし本当に私のことがいらなくなったなら、その時ははっきりそう言ってね。
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それが家康の気持ちなら、私受け入れるから。
……ユリコはその言葉を、大粒の涙をこぼしながら言いました。
その迫真の演技は、今までのユリコのことを知っている生徒たちですら、ユリコが正しいのではないかと信じてしまうほどで……
そしてクラスのみんなの視線は、ユリコがかわいそうだ、家康はみんなを下に見ているんじゃないか、と……家康に注がれたのです!
まさかの嘘八百を、真実の様にしてしまったユリコ。
そのとんでもない状況を、家康は楽しくて、うれしくて仕方ないとでもいうような表情で見ていました!
そしてユリコに駆け寄って手を取ると、大事な話があるから、と授業そっちのけでユリコを連れて屋上に向かいます!!
ありがとう百合子さん、涙が出そうなほどわくわくした。
ボクは、百合子さんが主役になるところを見たい。
これはそのお守り。
家康はそういうと、ユリコに本物の指輪を差し出したではありませんか!
それを受け取るという事は、これから先、少なくとも中学時代は常に家康を楽しませなければならないいばらの道を進むという事を意味するのでしょう。
ですが拒否をしたら、主役になれる勲章を手にするチャンスは一生訪れないかもしれません。
ユリコは……もらっておくわ、とその指輪を左手の薬指に通しました。
家康は微笑み、ユリコの左手を手に取りながら、こういうのです。
そう言ってくれると思った。
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これで改めて、婚約成立だ。



と言うわけで、まさかの展開でクラスの主役に躍り出たユリコ。
真っ赤な嘘を並べ立てたユリコですが、その嘘がまさかの本当になるかもしれないチャンスが目の前にぶら下げられたわけですが……もちろん簡単に手に入るものではありません。
クラスのみんなにぼろが出ないようにしなければならないのは勿論ですし、なにかつまらない行動をして家康の機嫌を損ねればそこで終わりになってしまうのです。
前途多難な主役の道を歩み始めるユリコ、果たしてこの道をどれだけ歩き続けられるのでしょうか?
スイッチが入ることによって、普段とは全く違う「主役」に変身するユリコ、本作はそんな彼女のトラウマまみれの人生を打破できるかどうかの物語になるわけですが……
もう一人の主役と言える、家康にものっぴきならない事情があるようで。
まさに曲者と言える家康、はたから見ると主役そのものの彼が、何故裏ではユリコをもてあそぶような性格になってしまったのか?
彼の背負う思い定めとは?
そして、家康がユリコに興味を惹かれた理由とは……?
今巻のラストで明かされる、家康の本当の目的。
主役となったユリコの物語、そして家康の戦いの物語。
今後どうなっていくのか、どちらも目の離せないものとなりそうです!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!