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今回紹介いたしますのはこちら。

「22-26」 藤本タツキ先生

集英社さんのジャンプコミックスより刊行です。


さて、「17-21」に続いての藤本先生の短編集となった本作。
前作はデビュー前の作品もあったため荒削りの作品も多かったのですが、何作か描いてきた後の作品が集まっている本作では、だいぶこなれた漫画が増えてきています。
もちろん藤本先生らしい味わいも増加!
今回はそんな中から「予言のナユタ」を紹介させていただきたいと思います!



こんな予言が齎されました。
母体を貫き、ツノを持つ魔法使いが産まれる。
その者人の心を持たず、残酷で理解不能な言葉を操り、やがて世界を滅ぼすだろう。
その予言とほぼ同時期に、ツノを持つ少女が産まれます。
予言を信じる人々は大挙してその少女の生まれた家に押しかけ、予言の子を殺せと罵ります。
ですが予言はあくまで予言、起きていないことですし、起きるとは限らないわけで。
警察が出動し、興奮する人々を何とか収めようとするのでした。

そんな様子を窓越しに見ていたのが、ケンジでした。
ケンジはその「予言の子」である、ナユタの兄。
祭でもやっているのか、とのんきに外の様子を見ていたケンジですが、ケンジの父は慌てて、窓の外は危ないから離れなさいとそれをとがめます。
そして、ケンジにこう問いかけました。
ナユタが産まれてきたとき、世界中の魔法使いがナユタを世界を滅ぼす悪魔の子だと予言したんだ。
でもナユタは母さんが命を落としてまで産んだ、俺たちの家族だ。
ケンジは、ナユタがお世界を滅ぼすと思うか?
その問いかけに、ケンジは答えます。
……わかんない。どう銅だろうと俺はナユタを守るよ。
ナユタは俺の妹だから。
……ケンジがそう答えて、ほどなくでした。
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父が予言を信じる輩に殺されてしまったのは……


それ以来、ケンジは必死で働き、ナユタを育てるために頑張っていました。
ですがいくら予言が本当かどうかわからないとはいえ、よくない感情を抱く者が少なくない「予言の子」の兄であるケンジは、その素性が知れるたびに仕事を辞めざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。
生活は困窮し、今日食べるものにも困る有様ですが……
そんなケンジの苦労も知らず、予言を唱えた魔法使いたちは今日も元気に予言の子を殺せと声高に叫び、信心深いものを先導するのです。
ケンジは思い起こします。
ナユタはネズミの首を大量にちぎったり、犬をバラバラにしたり、とんでもないことをすることもあった。
かと思えばひたすら本を読み続けるなど、何を考えているのかわからない。
本当に世界を滅ぼしてしまうのかもしれない……
それでも、ナユタが悪い人間でも、俺の妹だ。
兄として俺がそばにいるんだ。
たとえ少し怖くても……
ケンジが家に帰ると、そこにはナユタが

大量の剣と、動物の死体に囲まれた状態で待っていました。
銃殺血肉、煉獄激痛嘔吐……
ナユタはそんな、いかにも恐ろしげな言葉しか口にすることができないようで。
まともに意思の疎通ができないナユタに、ケンジはどうしても恐怖を抑えることができないのです。
この剣はナユタが魔法で出したのでしょう。
そして周りの死骸を、ナユタはケンジの方へ投げつけてきます。
ケンジは、動物を殺すのはいけない、俺たちは肉を食べるけど、こんな殺し方はよくない、あと俺に死骸を投げてはいけない、とナユタを諭そうとするのですが、気づけばそこにナユタはおらず。
見回すとナユタは食卓に着き、箸を持って待っているのでした。
ナユタは大食いだから俺の分も食え、とただでさえ少ないご飯をナユタにあげるケンジ。
それ以外にもアイス食べたいといってみろだとか、仕事を首になったから明日からアイスは食べられないだとか、いろいろと話しかけたりはしてみるものの……やはり本当に自分の言葉がナユタに通じているのかもはっきりわからずじまい。
机にかじりついて本を読んでいたかと思えば、動物を残酷に殺し、それなのに夜は一人では眠れない。
恐がればいいのか可愛がればいいのか、と困惑しながらも、ケンジはナユタを可愛がるのですが……

翌日。
ケンジが目を覚まして外に出ると、そこには
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大量の牛を殺して家の前に立っているナユタがいました。
昨日もあれだけ言ったのに、ナユタはなぜこんなことをしたのか。
なんて言えばいいのか、ナユタがわからない……
そこに、ナユタが殺した牛を飼育していた牧場の従業員たちが現れます。
ケンジにできることは、もう謝ることだけ。
牧場の従業員たちは、ケンジがこんなことをしでかしたわけではないという事をよくわかっています。
そしてやったのがナユタであろうことも。
ナユタの魔法だろう、ナユタを警察に引き渡せ、今まで我慢していたがもう我慢できない。
犯人にけじめをつけさせなければならない。
そう言ってケンジに迫る従業員たち。
詰め寄られたケンジは……
俺がやりました、夜に牧場で殺して、ここに持ってきました、金に困って、俺が!
頭を下げ、そう謝罪したのです!
……普通の人間にそんなことができるはずがありません。
それでもなお、俺です、ナユタは関係ないです、と頭を下げ続けるケンジ……
ですが相手も商売で牛を飼っているわけで。
ケンジの思いを受けて許してあげようとみんなが理解を示してくれるはずもなく、一部の過激な考えを持つものは、こう言い放ちました。
ナユタに人の心はない、お前たち兄妹はわかりあえない。
庇うなら庇うで、お前にけじめをつけてもらう。
……そんな様子を、ナユタは物陰から見つめていて……

机に座り、牛の肉を食べながら本を読んでいるナユタ。
そんなナユタに、ケンジはちょっと出かける、朝までには帰る、机に飯があるから適当に食えよ、と言い残し、出ていきました。
その間もナユタは本を読み続け……そして、何かを書こうとしているようです。

ナユタの脳裏に浮かぶのは、ケンジとの思い出でした。
ナユタは一人で外に行くなよ、危ないからな。
いつも一人にさせてごめんな。
犬を殺すのはいけないことだ。
ネズミを食べちゃダメだ、ナユタは女の子なんだから。
俺はもう腹いっぱいだ、ほら、これも食え。
ナユタはみんなと世界の見え方が違うのかもな、何がよくて何が悪いのかわからないんだろ。でも俺はな、ナユタが誰に迷惑をかけたっていいと思ってるんだ。
ナユタが元気なら、他はある程度どうでもいい。
ナユタが死ぬのだけは絶対にダメだ、たった二人の家族なんだからな。
そんな思い出を思い起こしながら、ナユタが書き終えたのは……
何度も何度も書き間違い、それでも何とか書き上げた、
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「ゴメンナサイ」の文字でした。
ようやく書き上げたその時、ケンジが帰ってきます。
ですがケンジの体はぼろぼろで、家に帰ってくるのもやっとの状態。
他人の買っている動物を殺すのはいけないことだ、と告げると、倒れこんで気を失うように眠ってしまうのでした。
ボロボロになった兄の姿。
ナユタには、誰がこんなことをしたのかがわかっています。
ほとんど変わることのないナユタの表情は、その時もほとんど変わりませんでしたが……
その心の中には確かに、激しく強い感情が渦巻いていて……!!



と言うわけで、世界を滅ぼす魔法使いと呼ばれるナユタと、そのナユタを愛そうとするケンジの物語を収録した今巻。
この後物語は一気にクライマックスへと向かっていきます!!
ナユタはぼろぼろになったケンジを見て、何を思うのか?
本当にナユタは人の心がなく、世界を滅ぼしてしまうのか?
ケンジはナユタを愛するのか、恐れるのか……?
その結末は、皆様の目でご確認ください!!

本作にはそんな「予言のナユタ」の他、3編が収録されております。
藤本先生が「普通の話」を書こうとして普通になってしまったとコメントされているものの、やっぱり藤本先生節が隠し切れない(?)「人魚ラプソディ」。
突然「目が覚めたら女の子になっていた病」にかかってしまい、女の子になってしまった主人公と、その彼女の物語を描く「目が覚めたら女の子になっていた病」。
そして、「ルックバック」の原型になったという「妹の姉」。
それぞれ違った味わいの、それでも藤本先生らしい味付けがしっかり感じられる作品ぞろい!
前巻の「17-21」よりもさらに洗練された作品を楽しめる本作、藤本先生ファンならずとも必見ですよ!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!