170
今回紹介いたしますのはこちら。

「藤本タツキ短編集 17-21」 藤本タツキ先生 

集英社さんのジャンプコミックスより刊行です。


さて、「チェンソーマン」で大ブレイクを果たし、先日は突如発表した100ページを優に超える読み切り「ルックバック」で話題をさらった藤本先生。
本作はそんな藤本先生のデビュー前からの初期の読み切り作品を収録した短編集となります。
今回はそんな作品の中から、藤本先生が17歳の時に執筆された作品、「庭には二羽ニワトリがいた。」を紹介させていただきたいと思います!



けたたましく鳴り響く目覚まし時計。
陽平は目覚まし時計を止め、学生服に着替えて食卓に向かいます。
朝食のパンを食べ、いつも家まで迎えに来てくれる萌美ちゃんと一緒に学校へ登校する……
話だけ聞いていますと、なんてことのない漫画のワンシーンと言った感じの日常です。
ですが実際にそんな日常を過ごしているのが、どう贔屓目に見ても人間には見えない怪物の様な者たちとなると、とてもなんて事のないシーンだとは言えないでしょう!
それでも彼らは当たり前のように、人間のような日常を過ごしていきます。

陽平は飼育係。
授業が始まる前に飼育小屋に生き、鶏の世話をしなければありません。
萌美は暇だから私も付いていってあげる、と半ば強引に陽平についていきました。
飼育小屋には、2羽の鶏が飼われています。
それを見た萌美は、こんな感想を言うのです。
すごい、写真と同じだわ、鶏冠もあるし。
でも、鶏って案外大きいのね。
陽平が餌のトウモロコシを差し出す、その鶏は……
171
安っぽい鶏の被り物をした、人間ではありませんか!
白々しくコケコッコーと言いながらトウモロコシを受け取る鶏の格好の男。
陽平や萌美はそれに何ら不信感を抱くこともなく、餌の入ったバケツを置いて飼育小屋から立ち去て行ってしまったのでした。


少し前に宇宙人と地球人類の戦争が行われました。
宇宙人は「変形」して強くなることができ、人類はあっさりと敗北してしまいます。
ですが本当に運が悪かったのはその後でした。
人類の「味」は、宇宙人にとってものすごくおいしいものだったのです。
人類はどんどんと食べられていってしまったのでした。
ですが宇宙人は、人間とその他の動物の区別をつけるのがあまり得意ではないようで、先ほどのような雑な扮装でも人間だとはバレません。
この辺りに住み着いた宇宙人は鶏を食べる習慣がないようで、あの二人は何とか生き延びることができているのです。

人類を猛烈に喰らっていった宇宙人ですが、人間の文化は気に入った様子。
いまや今まで人類がしていた文化をなぞるようにして、宇宙人たちが生活をしているのです。
そんな状況でかろうじて生きているあの二人は、ユウトとアミ。
こうして飼育されていくことで命をつないでいるわけですが、何をきっかけにして自分たちが人間とバレるかわかりませんから、気が気ではありません。
アミはうなだれながらユウトに、宇宙人はいつ自分たちの星に帰るのかな、と答えのわかるはずもない問いを投げかけます。
ユウトは……少しでもアミを力づけようとしたのでしょう、案外早く帰るかもしれない、宇宙人たちがお腹いっぱいになったら帰る、もう少しの辛抱だ、と楽観的な言葉で返すのです。
そんな気休めの言葉でも、アミの力になったようです。
うん、と返事をしたアミの顔は、だいぶ力を取り戻したようでした。
……ですがそう言ったユウトの顔色は今一つすぐれないのです。

陽平のもとにこんなうわさ話が舞い込んできました。
絶滅したといわれていた人間はまだ生きている。
どこかのバカな宇宙人がかくまっているせいで場所はわからないが、群れを作って隠れているらしい……
その噂を聞いた陽平は、こんなことを言いだします。
人間を一方的に殺すだけなんて、僕らは酷くないのかな。
人間も高い知能を持ってるわけだし……どう思う?
そんな陽平のもとに、萌美が登場!
人間だって牛や豚を食べていたんだ、それと同じだ、と指摘し始め、なんだかそのままに議論は中断されてしまうのでした。

そのころユウトとアミはこんな話をしています。
私はクラスでやる演劇の主人公だったんだ。
宇宙人たちがみんなお腹いっぱいになって帰ったら、演劇出来るかな。
ユウトも見に来てね!
そう笑顔を見せるアミに、またユウトは何も言えず黙ってしまうのですが……そこに陽平がエサをもってやってきました。
そして陽平はいきなりこう言うのです。
172
やっぱり、君たち、人間だよね、と!
ユウトはとっさにアミだけは守らなければとアミを抱きかかえるのですが、陽平は慌てて安心するように言うのです。
本で調べたら鶏は羽毛だしもっと小さかったんだ、他の宇宙人たちは気付いてないみたいだけど。
君達を食べる気は全くないよ、ただ君たちを助けたいだけなんだ!
……陽平はそう言ってくれたものの、人間からすればその言葉を素直に受け入れられないでしょう。
ここに君が来て「餌」をくれればそれだけで助かるんだ、他に何を助けるって言うんだよ!
そう叫ぶユウトですが……陽平がこのことを持ち掛けたのにはわけがあったのです。
実は今日転校してくる転校生が、鶏を食べる習慣のある宇宙人なのだそうで。
つまりユウトとアミが鶏を装っても、食べられてしまうかもしれない、というのです!!
そしてその不安は的中することになります。
その転校生、我慢の聞かないらんぼうもので、鶏を飼っていると聞くとすぐさま食べたいとわがままを言いだして……!!
行内では禁止されている「変形」で体を強化し、止める言葉も聞かずに飼育小屋に猛進!
あっという間に三人の元に来てしまうのです!!
予想以上の速い展開に戸惑う一同ですが、陽平は機転を利かせ、これは鶏ではなく猫だよ、と誤魔化します。
宇宙人は動物の見分けが苦手なので、取り急ぎくっつけた猫耳で騙せると踏んだのです。
実際その作戦はぴったりはまり、転校生はユウトとアミを猫だと認識したのですが……
転校生、
173
僕、猫も食べれますから!とアミをむんずとつかみ上げたのです!!
ギリギリのところで、「変形」した陽平が転校生をぶっ飛ばし、二人を助けることができたのですが、その時に鶏のかぶり物が取れてしまい、アミが人間であることがばれてしまいました。
学校中の生徒が集まってきて、人間を食べさせてくれと寄ってきます。
止む無く陽平は、二人を抱えて逃げ出しました。
向かう先は山です。
実は陽平、こうして人間を幾度となく助けていたようで。
人間をかくまうバカな宇宙人と言うのは、他ならぬ陽平だったわけです。
その助けた人間が山の奥で密かに暮らしているとのことで、陽平はそこに二人を連れて行こうとするのですが、街はすっかり人間がいたと大騒ぎになってしまいます。
それでもとにかく山の奥の人目につかない場所まで連れて行けば、と陽平はダッシュを続けるのです!!
が。
174
そこに巨大な拳が振り下ろされました。
アミは何とか無傷で住みましたが、その拳によって陽平はバラバラになり、ユウトも巻き込まれて大けがをしてしまいます。
拳の主は……見上げるほど巨大な、警察でした。
警察は、人間に生きている権利はない、処刑する、と無慈悲な宣告をします。
大怪我を追いながらも、アミに逃げるよう促すユウト。
アミは、ユウトも一緒に逃げなきゃ、ユウトがいなきゃ無理だよ、と涙を浮かべて叫ぶのですが……
ここまで連れてきてくれた陽平はもうおらず、人間の足で逃げることも難しいでしょう。
絶体絶命のその時……ユウトは思いだすのです。
アミを絶対に守らなければならない。
そう誓った、あの日の事を……




というわけで、宇宙人と人間が手を取り合った記憶を描いた本作を収録した今巻。
藤本先生らしさがすでに発揮されているこの「庭には二羽ニワトリがいた。」ですが、なんとネームも書かずにいきなりペン入れをしたとのこと!
ストーリー部分はもちろん、そういった部分からも藤本先生の非凡さがうかがえると言うものです!

それ以外の作品も読み応えあるものばかりです。
川口先生を神の様に妄信しする佐々木くんが、とんでもないことをしでかす「佐々木くんが銃弾止めた」。
告白すると決めた少年が、よりによってその日にとんでもないことに巻き込まれまくってしまう「恋は盲目」。
凄腕の殺し屋の少女と、その少女をもってしても殺すことができないある男の物語「シカク」。
どの作品も今の藤本先生の作品にまでしっかりと感じられる、藤本先生ならではの味がしっかりと味わえます!
それでいて「チェンソーマン」「ファイアパンチ」等とは一味違う、ストレートなストーリーだったり、一発ネタを膨らませるタイプのの物語だったりの違った味も楽しめるのです!
さらに11月にはこの後発表した短編集「22-26」の発売も予定されておりますので、お楽しみはまだまだ残されていますよ!!

先生自身の開設も含めた、藤本先生の原点に触れることの出来る本作。
藤本先生ファンのみならずとも必見の一冊ですよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!