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今回紹介いたしますのはこちら。

「幻怪地帯」 伊藤潤二先生 

朝日新聞出版社さんのソノラマ+コミックスより刊行です。


さて、人知を超えた(?)とんでもない発想から生み出される怪をひたすら描き続けている伊藤先生。
1年半ぶりの新刊となる本作は、LINEコミックで連載された短編をまとめたものとなっています。
ですが収録話数は4話でページ数は200P以上と、短編と言うにはちょっと長い、ボリュームある短編がそろっているのです!
そんな中から今回は、本作の口火を切る「泣女坂」を紹介したいと思います!



麻子と譲は、二人で婚前旅行を楽しんでいました。
旅も終盤に差し掛かった事、二人は何となく東北のローカル線の、何でもない田舎の駅に降りてみます。
都会にはないのどかな風景に癒される二人。
とはいえ愛し合う二人ならば、どこにいても楽しいのでしょうが…・・
と、そんな時、二人の耳に奇妙な声が聞こえてきました。
何やら、女の人が泣いている声。
それも、尋常ではない悲しさを感じさせる、号泣の声です。
気になった二人は、声の出所へ向かって歩いて行きます。
しばらく歩いていると、どうやらその鳴き声は一軒の民家から聞こえてくるようでした。
民家の玄関へと回り込んでいきますと、そこには忌中の貼り紙が貼ってありました。
成程お葬式だから鳴き声が響いてくるのでしょう。
開きっぱなしになっていた門の間から、そのお葬式の様子が見えたのですが、どうやらお坊さんのすぐ後ろに座っている女性がひときわ激しく泣いているようです。
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その激しい泣き方を見るに、とても大切な人を失ったのでしょうか……?
するとその時、そのお葬式を抜け出て一服していたらしい参列者の一人が、こう声をかけてきました。
あれは泣女(なきめ)だよ。
泣女とは何なのでしょうか。
その参列者によると、旅行者なら知らなくて当然だし、自分も久しぶりに泣女を見た、とのこと。
昔はよくお葬式には呼んだそうで、泣女を呼ぶことが故人への最高の供養だったそうです。
呼ばれて泣いているにしては、この泣き方は真に迫っているような……
聞いてみればなんとこの地方の泣女は泣いたふりをしているわけではなく、本当に泣いているのだとのこと。
本当の悲しみを知らなければ、泣女にはなれない。
確かに彼女の泣いている様子は、本物にしか見えません。
そんな彼女の様子を見ていると……麻子が突然涙を流し始めたではありませんか!
それだけでは収まらず、ついにはしゃがみ込んで大泣きを始めてしまい……!?

その場から去り、少し離れた田舎道の道端で腰かける二人。
何故か急に悲しくなってしまったと言う麻子ですが、今は落ち着いているようです。
するとまたそこに、女の鳴く声が聞こえてくるではありませんか。
そして今度はその声、声の方から近づいてくるのです。
振り向いてみると、先ほどのお葬式で活躍していた泣女が返っていく最中のようで。
彼女はまだ泣き止まず、涙を流しながら帰途についております。
ですが彼女、二人の後ろを通り過ぎるその瞬間に、ちらりと二人の方を見てきまして……?
麻子と泣女の目と目が、その時確かにあいました。
ですが特に何かが起きることもなく、そのまま言葉一つかわさないまま終わるのですが……

それ以来、麻子に変化が起きたのです。
些細なことでも、すぐに泣くようになってしまい、ついには涙が止まらなくなってしまったのです。
理由を聞いてみても、なんだか悲しくて、と言うばかり。
何をしても泣き続ける彼女に譲も嫌気がさし始め、自分との関係に不満があるから泣き続けているのか、いったん婚約解消した方がいいのかもしれない、とまで言ってしまうのです。
すると麻子はさらに大きな声で泣き始めるのです。
別れやしないよとなだめても彼女の涙は止まらず……
翌朝になると、ベッドがびっしょりと濡れてしまうほど涙を流していたのです!

これは異常だと悩んだ末、病院や占いなど方々を頼った結果、やはり原因はあの東北の町にあるのではないかとなりました。
藁にもすがる思いであの町を訪れ、あのお葬式の行われていた家を訪ねるのですが、そこの住民の老婆は「泣女なんて呼んでない、そんな風習は当の昔になくなっている」というのです。
さらに他の町の住民に聞いてみても、みな一様に知らないの一言。
そうしている間にも麻子は泣き続けていて、もう譲すらも泣かずには耐えられないほど打つ手がなくなってしまうのでした。
……が、その時、どこからともなく女の泣き声が聞こえてくるのです。
これはおそらくあの時の泣女の声!
その声を頼りにひたすら歩いていくと、何やら陰気な滑へとたどり着きました。
そこには得体の知れない
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「何か」が渦めいていて……!
その何かに襲われたか、と思ったその直後、今まで気が付かなかった
「涙女坂」なる集落が見つかったのです!!
その集落は異様そのもので、経っている建物のほとんどから泣き声が漏れ聞こえ、そしてまるで川でも流れているかのように、何筋もの水の流れが出てきています。
驚くべきことにその水は、それぞれの建物にいる泣女が流している涙のようで……!
やがて一軒の家から出てきた客らしき人に話を聞いてみると、彼女が出てきた家の泣女がパワーが強い、とのこと。
早速尋ねてみれば、そこにいたのは、あの日の泣女でした!
そして彼女は、麻子が来るのを待っていたと言うのです。
麻子の様な「本当の悲しみ」、「根源的な悲しみ」を知っている人はめったにいないそうで。
この世の根源的な悲しみは凡人には見えないものの、魂が肉体から離れた時に見えてくるのだとか。
人は死んでから本当の悲しみを知るのが普通ですが、この泣女や麻子はそれを生きているうちに知ることができていて、その死者の涙が麻子の体を通して出てきていると言います。
こうして涙を流すことで、死者を成仏させることができると言う泣女。
麻子の才能は「お類」に匹敵するかもしれない。
彼女によれば、二百年前に干ばつで多くの死者が出たころ、残されたお類は泣き続け、その涙によって大地が湿って作物が実り、やがて湖となって人々ののどを潤したのだとか。
二人が最初にたどり着いたあの沼、「類ヶ沼」はその湖の名残だと言うのです。
泣女は麻子に見せたいものがるから来てくれ、と咲きに立って歩き始めました。
外に出ると、早くも噂が広まってきていたようで、あの子がお類様の生まれ変わりなのか、と泣女坂の泣女達がぞろぞろと後をついてき始めました。;
やがて辿り着いたのは、一件のお堂。
中には
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女のミイラが安置されているではありませんか!!
しかもその双眸の下は、死後も流し続けたと言う涙でボロボロに崩れてしまっていて……!
ですがその死後の涙は、去年枯れてしまったと言います。
寿命と言えばそれまでですが、それによってここに集まって生きている死者たちが成仏できなくなってしまっているとか。
このまま類ヶ沼まで枯れてしまえば、どんな冷笑が起こるかわからない……
そこで、泣女は麻子に言うのです。
貴女ならお類に再び涙を流してもらえるかもしれない。
自分達と一緒にお類の前で泣いてくれ。
……そう言う泣女のお願いを、麻子は二つ返事で受け入れるのでした。

やがて始まる泣女達の号泣。
すると麻子の両眼からは、異常と言ほかないものすごい勢いの涙が溢れ出てきて……!!
そして彼果てたはずのお類の両目からも、滝のように波が流れてきたのです!!
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さらに驚くべき出来事は続きます!
お類の亡骸は……突然声を発し、起き上がり、そして……





と言うわけで、奇妙な「泣女」の世界に引きこまれてしまう麻子と譲の物語が描かれる本作。
この後、物語はまだまだ驚くべき展開が続いて行きます!!
涙を蘇らせたお類ですが、立ち上がって声を揚げ始めたと言うことは、実際によみがえったとでも言うのでしょうか?
彼女がよみがえったことで、死霊たちはどうなるのでしょうか?
さらに、泣女の世界に引きこまれる麻子は……!?
クライマックスを迎えるこのお話ですが、さらに二転三転の後、驚くべき結末へ!!
伊藤先生作品らしいおぞましさと、理解不可能な奇怪さがたっぷり収録されながらも、珍しく(?)人の悪意と言うものがほとんどないこの「泣女坂」。
衝撃の結末をぜひその目でご覧ください!!

さらにその他のお話も読み応えたっぷりです。
「泣女坂」にほとんどなかった人間の悪意をこれでもかと詰め込んで見せた「魔怒女」。
伊藤先生のもう一つの持ち味ともいえるギャグと紙一重の異様さを描く「青木ヶ原の霊流」。
悪夢のが招く恐ろしさと、圧倒的な読後感の悪さが味わえる「まどろみ」。
どのお話も伊藤先生ならではといる世界観を誇る、読み応えあるお話が揃っております!!
ファンならばもちろん見逃せない、ファンならずとも独自の世界観が楽しめること間違いなしですよ!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!