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今回紹介いたしますのはこちら。

「往生際の意味を知れ!」第1巻 米代恭先生 

小学館さんのビッグコミックスより刊行です。



さて、「あげくの果てのカノン」で話題を呼んだ米代先生の最新作となる本作。
前作はSF要素とインモラルラブストーリーをミックスした再起の読めないストーリーを見せてくれましたが、本作はと言いますと……?



元カノと結婚したいです。
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市松海路は、合コンでそう言ってのけました。
新たな出会いを求める場であるはずの合コンで言うセリフとは到底思えないその言葉、参加していた女子たちはみんなびっくり。
別れたてで傷心モードなのか、と女子たちも首をかしげながら市松に尋ねるのですが。なんと別れたのは7年までだと言うではありませんか!
何でも市松は、付き合っていた当時、彼女を被写体にして「降伏」というタイトルの映画を撮ったそうで、その映画は国際映画賞も撮ったのだと言います。
ですがそれ以降、市松はその映画撮影すらしなくなっています。
どうして撮らなくなったのか?
その質問に対しての一抹の答えもまた、こうなのです。
元カノにフラれてから撮るれなくなりました。

7年も前にわかれた元カノと結婚出来るわけなんてない、現実を見ろ。
同僚にも何度こう言われたかわかりません。
ですがその同僚は妻帯者でありながらそれを隠して合コンに参加しておりまして、それに比べればまだ自分の方がまともではないか、と……口には出さないまでも考えてしまい、素直に聞き入れる気にもなれません。
もやもやした気持ちを抱えながら自室に戻りますと、壁越しに隣の部屋から男女の最中の音が漏れ聞こえてきます。
となり、また彼女来てんのか。
幸福なのはいいことだ、俺も幸福になろう。
そう言って市松は、おもむろにプロジェクターのスイッチを入れました。
映し出されたのは……
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「降伏」でした。
市松はフィルムの中で今も微笑んでくれる元カノ、日和の姿を見て、彼女に話しかけて、ささやかな幸福に浸るのでした。

市松の元カノ、日下部日和は7年前のある日に突然姿を消しました。
さんざん期待させて思わせぶって、あっさり自分を切ってしまう。そんな女性だった日和。
ですが市松はそんな日和を深く深く愛していて……
いつか日和が泣いて縋って自分の元に戻ってくるかもしれない、などと考え、学生時代に借りたこのアパートを出ることができないのです。
もしそうなったら過去のことは水を流し、優しく彼女を受け入れ、唯一の理解者になってやるんだ。
そんな都合のいい妄想を働かせておりますと、市松は腕時計が止まってしまっていることに気が付きました。
その時計は、日和がくれたもの。
明日修理に出すか、と泊まった時計を眺めていると……ふつふつと悪い想像もわいてくるのです。
戻ってきた日和はきっと俺の好きな日和ではない。
7年もすれば人は変わる、俺の記憶も美化されているのだろう。
よって、好きだった日和はどこにもいない。
……それがわかっていても、市松はなお囚われ続けるのです。
そして市松はそれでもいいと思っています。
仮に日和が自分の知らないところで働き、知らない男と結婚して家族を作っても。
市松は日和のことを静かに思い続けるだけ。
だから日和も自分に構わず幸福な人生を歩んでいて欲しい。
……そんな、奇妙な愛を抱き続けるのですした。

事件が起きたのはそんなある日でした。
何やら空に何度も何度も稲光が走る不穏な空模様の中、昼休みに会社から出て時計の修理に向かおうとした市松。
あまりの雷の多さに、どこかに落ちているんじゃないかとSNSで調べてみると、落雷でアパートが燃え盛っているニュースの映像が出てきました。
……そのアパートは……一抹の自宅!!
会社のメンバーにいったん帰るとメッセージを送り、とにかくダッシュする市松!!
お金や貴重品の類は、市松にとってはどうでもいいのです。
問題は、一番大事な映画のデータ……は誰かがコピーを持っているでしょうから、マスターがなくなったとはいえまだセーフ。
それよりも、写真、日和のあれこれが保存されたPC、日和を思ってせっせと集めていた、会えたらプレゼントしよとしていたもろもろのものや手紙、当時の日和を記録してある日記……
全てが
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火の中に消えてしまったのです。
絶望した市松の手に残されているのは、あの時計だけ。
振り始めた雨の中、時計を見つめて涙をこぼす市松なのですが……
雨から逃げるように走ってきた学生とぶつかり、その時計を落としてしまいます。
そして運悪く車が通りがかり、時計はバキバキに割れて再起不能に……
実際はそうではないのでしょうが、市松にとっては全てが失われたと同じ。
気付けば市松は、線路をまたぐ歩道橋の上に立っていました。
電車が来るタイミングを見計らって手すりを乗り越えた時、携帯に着信が入ります。
知らない番号からの着信でした。
死ぬ前の気まぐれでしょうか、あるいは虫の知らせの様なものでしょうか。
何となくその電話に出てみますと……
電話口からは、こんな声が聞こえてきたのです。
市松くん?よかった繋がって。
覚えてなくてもしょうがないよ、最後に会ったの7年前だもんね。
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久しぶり、日下部日和だよ。
雨を降らせていた暗雲が徐々に晴れ、日が差し始めます。
まるでそれは、市松の心を表しているようで……!!



と言うわけで、7年間恋い焦がれた元カノの全てを失った直後に、元カノからの連絡が来た市松。
絶望してその命を投げ捨てようとすらしていた市松ですが、彼女の声は士の決意を捨て去らせるのに十分な力を持っていました。
勿論彼女の声は幻などではありません。
この後市松はすぐさま日和と会う約束を取り付けまして、実際に会います。
そしてそこで、日和は市松に自分を撮ってくれ、と言いだすのです。
が、それは昔の様な映画ではないのです。
日和がしてきた要求は、耳を疑うような……以上、と言ってもいいような内容で:……!?
とはいっても、なにせ市松は日和にベタぼれ。
彼女の言うことは何のかんの聞いてあげたくなりますし、何よりせっかく和えた彼女との関係を終わらせたくはありません。
その内容は……ぜひとも皆様の目でご確認を!!

そんな奇妙な関係が始まる本作ですが、あまりにミステリアスな日和の動向に注目せざるを得ない所。
彼女の言いだしたとんでもない要求の真意は何なのか?
7年前のお付き合いと、お別れの真相は?
本作の物語の鍵といいますか、全てが彼女の中にある予感が漂っておりまして……
市松の物語として幕を開ける本作ですが、日和の物語でもあるのは間違いありません。
今巻のラストではそんなことも示唆されておりまして……
これからの展開からも目が離せませんね!!




今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!