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今回紹介いたしますのはこちら。

「ちょっと社会不適合者さん」第1巻 ウシハシル先生 

少年画報社さんのYKコミックスより刊行です。


ウシハシル先生はイラストなどの仕事で活躍したのち、15年にKADOKAWAさんのweb漫画でデビューした漫画家さんです。
「えい!えい!!営業ちゃん」「ハニートーチカ」と言った、女性キャラを主人公にしたコメディを得意とされているのですが、今回の作品はその流れでありながら、ちょっぴり毛色の変わった作品になっているようで……?



ごく普通の会社員、木下。
彼にはちょっとした趣味の様なものがありました。
それは、仕事終わりにお弁当を買って、アパートの屋上で食べること。
今日はお気に入りのから揚げ弁当に加え、ビールも持ってウキウキです!
ですが今日はどうも先客がいる様子。
それだけでも珍しいのに、その先客は女性で……
しかも、靴を脱いで、フラフラと柵の方へと歩いていっているではありませんか!
木下は慌てて……!!

202号室の中で、一人の女性が何かに怯えておりました。
静かに近づいてくる足音。
来た、とつぶやく彼女。
やがて玄関の鍵を開ける音、ドアノブを回す音が聞こえてきますと、彼女はさらにオドオドとおびえ始め……
やがてドアを開けて入ってきたのは、木下でした。
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帰りました、いやー、暑い暑い、涼しくなったとはいえまだまだ蒸しますね、つく無かったですか、ちょっと心配で……
入ってくるなり、そう彼女に声をかける木下。
彼女はと言いますと、なぜか縦にしたテーブルの陰に隠れた状態で、もじもじしながら……ごうも、ご無事で……と、奇妙な言葉で御出迎えするのでした。
木下は笑いながら、なんスかご無事でって、そういう時はお帰りって言ってくださいよ、後毎回帰宅するたびに緊張しなくていいんスよ?と優しく語りかけます。
すると彼女はちょっぴり照れながら……う、あの、えと、ハイ、おかえり、なさい、です、と答えてくれるのでした。

この妙にオドオドとした彼女は、小犬丸。
ある理由がありまして、本来はお隣の部屋に住んでいる彼女は、この木下の部屋で暮らしています。
その理由によって彼女は自分の部屋に戻ることができず、今も仕事着のままなのです。
部屋着を貸そうかと持ち掛けても、もにょもにょと言い訳……も出てこず、何も言えない小犬丸。
なかなか目も合わせてくれない彼女は、その名前通りまるで心を許してくれない子犬のようです。
そんな子犬を絵付けする……と言うわけでもないのでしょうが、彼女のためにお昼を買ってきておりまして。
みんな大好きから揚げ弁当を差し上げますと、小犬丸の顔はパッと明るくなるのですが……
彼女の中で葛藤もありまして。
女なのにから揚げが好きとか引かれないだろうか?
でもお腹はすいている……
そんなことを考えた結果、小犬丸は
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お腹、すいてないです、とお腹を鳴らしながら嘘をついてしまいました。
どうも彼女、追い詰められると嘘をつく癖がある様子。
そんな彼女の癖もすでに看破している木下、嘘はつかなくていいですからね、とにこやかにいってから、もしかしてから揚げ苦手でしたか、と警戒を解くように話題を繋げていくのです。
すると小犬丸、巣すすと音もなく近寄ってきまして、そっと両手を広げてきました。
木下は
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その手をきゅっと握ります!
小犬丸はお弁当をいただこうと手を伸ばしたわけで、予想外の行動にびっくり仰天、大慌てしてしまうのでした!

その後も今一つ二人は空回り。
弁当を一緒に食べるものの話は弾まず、小犬丸が飲み物を取ってあげようと思えば派手にこぼしてしまい、そのあげくに拭こうと思って手に取った布が木下のパンツだったり……
何もかもが木下のテンパり具合といいますか、不器用さといいますか、そんなもろもろの招いた結果ではあるのですが……
ともかく木下は小犬丸にお風呂を勧め、適当な服(ゲームのTシャツが気に入ったようです!)を着てもらい、床に就くことになりました。
木下の部屋は二つ部屋があるのですが、もう一つの部屋は今物置同然の状態でして、同じ部屋で眠ることになってしまいます。
とりあえず片づけるまでは、テーブルを立てて仕切り代わりにすることで我慢してくれ、と木下。
小犬丸は、ありがとうなかなか言えず、もにょもにょちやっている間に木下は電気を消してしまいました。
……やはり真っ暗になると、いろいろと考えてしまいます。
小犬丸の胸に不安が押し寄せるのですが、そんな気持ちも知らず、木下は速攻で就寝!!
何やら仕事でもしているかのような寝言をつぶやき始めるのです。
寝ている木下が聞いているはずはないのですが、だからこそなのでしょう。
小犬丸は、目も合わすことができなかったはずの木下に語り掛けることができました。
夢でまで仕事してるんですか?
疲れますよね、毎日毎日。
その上、私みたいのまで面倒見ようとして……
私、私みたいなのが生きてて……
……あの日、自ら断とうとした命。
自分などこの世界に生きている価値がないんじゃないか、と追い詰められていたのであろう彼女。
自分でその事を口にすると、その不安が重くのしかかってきて……
再び絶望に押しつぶされそうになってしまったその時でした。
生きててよかったっスね。
そんな木下の寝言が聞こえてきたのは。
その言葉を聞いた瞬間、小犬丸の目からは自然と涙があふれてきて……
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ありがとうございます、私、生きます。
後ろ向きな自分に決別するための第一歩を踏み出すのでした。
……いつから起きていたのでしょうか。
そんな様子を確認し、木下も安心したようです。
ひとしきり泣いて落ち着いたのか、やがて小犬丸も寝息を立て始め……二人の夜は静かに拭けていくのでした。



と言うわけで、小犬丸と木下の奇妙な同居生活が幕を開ける本作。
この後徐々に語られていくのですが、小犬丸はいろいろあってかなり追い詰められた精神状態になってしまっています。
さらにその為といいますか、逆に精神的に追い詰められたのはその環境のせいといいますか……仕事などの状況的にも追い詰められているのです。
そんな限界を超えてしまっていた彼女の前に現れたのが木下。
生来のやさしさもあって彼女に声をかけ、様々な事情で自分の部屋に戻ることすらできなくなってしまっているのを知ると、快く自分の部屋に招き入れた彼、恐ろしいことに(?)下心的なものは本気で一切ひとかけらもなし!!
ひたすらいい人である木下の下で、少しずつ癒され、少しずつ踏み出していく小犬丸の様子を、時にコミカルに、時にシリアスに描いていくのが本作なのです!

今まではコメディやフェチ色の強い作品を得意とされてきたウシハシル先生ですが、本作はコメディではあるものの、シリアスな成分が多くなっているのが特徴でしょう。
ところどころにギャグを織り交ぜて少し和らげながらも、かなりシビアな出来事が続々と描かれていき……
この後本作は小犬丸のモラトリアム的なお話になるのか、さらなる試練が降りかかるよりシリアスなドラマとなるのか、あるいは木下とのラブコメ的な色合いになっていくのか?
お話自体がどのようにもなりうる本作、今後にも注目です!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!