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今回紹介いたしますのはこちら。

「異世界もう帰りたい」第1巻 ドリヤス工場先生 

小学館クリエイティブさんのHCヒーローズコミックスより刊行です。


ドリヤス工場先生は00年代中盤ごろから活躍されている漫画家さんです。
先生の作風で最も目を惹くのは、70年代後半くらいの水木しげる先生の画風を模したようなその絵柄でしょう。
当初はその絵柄で人気作品のパロディ漫画を描くのがメインの活動でしたが、最近ではオリジナル作品にも挑戦。
「あやかし古書庫と少女の魅宝」では、水木先生のタッチでライトノベルのようなストーリーを描くと言う、いろいろな意味でチャレンジブルな作品も発表されております。
知る人ぞ知ると言ったセンセだと思われていましたが、「文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む」シリーズで小ブレイク。
一般的にも注目度が高まって来た……様な気がします!

そんなドリヤス先生が挑む最新作は、今はやりの異世界転生系の作品。
ですがそこはドリヤス先生、先生の得意とする一味も二味も違った「異世界転生」を描いております!



うだつの上がらない平凡なサラリーマン、下山口一郎。
彼はトラックに荷物を積み込みながら、今日の仕事が終わった後のお楽しみに思いを馳せておりました。
今日は給料日。
高給取りとは言えない下山口ですが、この日ばかりはちょっと贅沢を楽しみます。
ちょっぴり早めに仕事を終え、本を買い、映画を見て、すこしだけ高いお店で夕飯を食べる。
そんなささやかな幸せを思い描き、幸せそうに笑いながら仕事に打ち込むのでした。
気分良く仕事をしていた下山口でしたが、あたりを見回してみるとあるはずの伝票がありません。
トラックの運転手さんに尋ねてみますと、二台の中に置いてきてしまったとのこと。
やれやれとぼやきながらトラックの荷台に乗り込み、伝票を見つけ、拾い上げると……どうしたことか、突然トラックの扉が閉じられてしまいました。
真っ暗なトラックの荷台で、どんどんと扉をたたいて中にいることを主張する下山口。
ですが誰も気が付かないのか、エンジンをふかすような音が鳴り響き、そして二台は大きく揺れ始め……!!
このままでは荷物もろともいずこかへと連れて行かれてしまいかねません!
せっかくの給料日にこんな事件に巻き込まれてしまうとは、下山口はどこまでもついていない男だ……と、そのくらいの笑い話で終わっておけばよかったのですが……!

何やら光が見えたかと思うと、気付いた時には
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まったく見も知らない場所に座っていた下山口。
足元には魔法陣のような何か、周りにはなんだか中世のヨーロッパといいますか、よくあるファンタジーRPGといいますか、そんな感じの王様ら兵士やらが下山口を取り囲んでいます。
状況が全く理解できない下山口ですが、なんとか事態を整理することに。
周りの外国人のようなコスプレのような人たちは何なのか?
こんな場所、ウチの会社にあるわけないぞ?
映画撮影か何かなのか……?
ほどなくしますと、周りの人々が何やらざわつき始め、そして一気に沸き立ちました。
……そんな様子を見て、下山口はピンときます。
これはひょっとして、ライトノベルによくある異世界に召喚されたと言うやつなのでは!?
なぜ自分が、という疑問もありますが、いわばこれは自分がライトノベルの主人公になったようなもの。
興奮は隠し切れず、やがて大臣らしき男がたどたどしい日本語で、「お前日本人か、名を名乗れ」と問いかけてくるのに対し、ちょっとカッコをつけて
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我が名は下山口一郎である、と決め顔で名乗っちゃうのです!
その名前を何やら事典のようなもので調べる大臣ですが……
何やら王様たちとひそひそやり始め、「ノブナガ」でも「ヨシツネ」でもない事を確認すると、あからさまに落胆。
言葉の意味はよくわかりませんが、下山口を「ドブ」と評し……扱いがぞんざいになってまいりました。
ドブ……要するに、レアリティの最も低い、いらないキャラを示す蔑称なのでしょう……
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嫌が応にも自分がドブであることを察する下山口、自嘲気味に笑ったあと……帰りたい、と漏らすのでした。
正直言って必要とされていないらしい下山口。
それならせっかくの給料日ですし、出来ることなら元の世界に帰りたいところです。
どうすればいいのか尋ねようとしたところ、大臣が不便だからと言葉が自動的に通じるようにしてくれる精霊をつけてくれました。
そこでいろいろ話を聞いてみますと、要するにこの世界では数万の軍勢に匹敵する「聖訪者(フレムダ)」を召喚する秘術がばら撒かれていまして、各国が我先にとフレムダを呼び出して覇権を争うになっているのだとのこと。
この弱小国、サンキルガルでも召喚に一縷の望みを託したのですが、出てきたのはドブ。
他のフレムダを呼びたくても、召喚に必要な魔法石は非常に高価で、魔法石の流通を管理している魔法年帝國がきまぐれに配る無料石をこつこつためてようやく召喚した……のgは下山口だったとのこと。
また集め直しだ、と肩を落として去っていく大臣と王様。
下山口派と言うと、放っておかれてしまいました。
仕方なく大臣の元へ向かい、帰る方法を尋ねる下山口。
ところが大臣、その方法は知らないし、あの事典のようなものにもなにも乗っていないとのことで。
公文書管理係ならば知っているかもと言われて向かってみてもそこでも何もわからず、宮廷魔術師なら、王立学問所の歴史学者なら、とたらいまわしにされたあげく、待っていたのは「担当者が不在」の一言……
下山口は改めてこう呟くしかありませんでした。
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もう帰りたい、と。


と言うわけで、誰も望まない異世界転生をしてしまった下山口を描く本作。
この後下山口は、元の世界に変える方法を探しながら、この世界で日常を過ごしていくことになります。
戦闘能力がほとんど皆無な下山口の異世界の日常とは……城の雑用なんかをこなし、城の宿舎で寝て、城の食堂で食事をとると言う住み込みのサラリーマンのような日常……
まさか異世界でもこんなうだつの上がらない日々を過ごすとは、さすがの下山口も想像だにしていなかったことでしょう。
ですが下山口、ほんの少しでもこの世界で楽しく生きられるよう、いろいろと行動範囲を伸ばしていきます。
お小遣いのようなものをもらって外に食事に行ってみたり、訓練次第で誰でも使える魔法をちょっと練習してみたり、害虫駆除レベルの低級な魔物退治に行ってみたり……
かといって何事も起きないかといえばそうではありません!
もはやお約束と言っていい「また俺なんかやっちゃいました?」をしてしまうレア度の高そうなフレムダと遭遇したり、歩いて数日かかる他国へのお使いと言う下山口にとっては大きなクエストに挑んでみたり、他にも呼ばれて放置気味にされているフレムダたちと知り合っていろいろしてみたり、まさかの「ノブナガ」にあってみたり!?
夢も希望もないようなちょっとはあるような異世界転生を、意外に(失礼!)ドラマチックに、且つドリヤス先生ならではの肩の力の抜けた作風で描いていく……
まさに本作でしか味わえない面白さが堪能できる作品となっているのです!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!