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今回紹介いたしますのはこちら。

「極東事変」第1巻 大上明久利先生 

エンターブレインさんのハルタコミックスより刊行です。


大上先生は16年にハルタでデビューした漫画家さんです。
読み切りの発表を経て18年より本作を連載開始、この度めでたく単行本発売となりました。

そんな本作は大上先生の得意とするガンアクション。
舞台は終戦直後の東京なのですが、一捻り加えた背景が盛り込まれておりまして……?



終戦間もない9月のこと。
食堂に入ろうと並ぶ民衆の中に、一人の復員兵、近衛勘九郎もいました。
なかなか進まない行列にぼやいていますと、にわかにあたりが騒がしくなり……何かから走って逃げているらしい女性がこの絵にぶつかってきました。
ごめんなさいと言い残し、そのまま逃げ去っていく女性。
そしてそれを、二人の進駐軍が追いかけて行きました。
一体なぜ一般人を……?
居合わせた町の人によれば、最近よくその光景を見かけるのだと言います。
何故か進駐軍が、民間人を捕えている、と。

女性は進駐軍の二人に追い詰められてしまっていました。
やっと追い詰めたぞ、大人しく投降しろ!
銃を構えてそう命じる進駐軍。
ですが女性は何も答えず……どうやら投降する意思はなさそうです。
構わないから打てと上司らしい軍人が部下らしい軍人に銘ずるものの、部下はためらっています。
どう見ても「人間にしか」……
そんなことをつぶやいたその男の背後には……いつの間にか近衛が忍び寄っており、角材で軍人を打ちすえて気絶させてしまいました!!
瞬く間に二人の意識を奪った近衛ですが、そんな近衛に対して女性が言った言葉はこんなものです。
あなたバカじゃないの、と。
いかに人助けだろうと、進駐軍に手を出したらただで済むわけがありません。
そもそもこの女性が本当に被害者側なのかもわからないわけで、もしこの女性が大悪党である可能性もあるのですから!
近衛は、女性に何をやらかしたんだと尋ねるものの、女性は伏し目がちにこう答えます。
何も、何もしちゃいないわよ。
まだね。
と、その瞬間、近くの家からぞろぞろと数名の男が出てきます。
よくやったぞカヤ、と女性に声をかける男達。
近衛が期せずしてとはいえ茅の目的を手伝ってくれたことを知ると、それはそれは、我々からも礼を言うよ負け犬くん、ととてもお礼を言う立場ではない言葉で近衛に礼を言ってきました。
そして男たちはおもむろに銃を取り出し……
意識を失っている進駐軍に止めを刺したではありませんか!!
こんなことをすればただではすみません!
玉音放送も、戦闘停止命令もあり、戦争は終わったはず。
だと言うのに、「元」敵であった進駐軍を殺すなど、大変な事件になってしまいかねません!
ですが男たちは平気な顔で言うのです。
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知ってるさ、だが戦争は書類にサインすれば終わるってものじゃないだろう?
武装解除された君たち復員兵に替わって、続きは我々がやってやろう。
男達、そしてカヤもその場を立ち去っていきます。
私を助けてくれようとしたことには感謝するわ、どうもお節介さん、と言い残して。
……近衛は命を奪われた軍人の銃を拾い上げ、そして……カヤたちを撃ちました!!
が、なんということでしょう。
銃は45口径、こんなものを食らえばひとたまりもないはず。
だと言うのに男たちもカヤも、平然と立っているではありませんか!
彼女達は普通の「人間」ではないと言います。
普通の人間からすれば化け物の様なものかもしれない、でも化け物にだって人間と同じ感情はある。
そう言うカヤの夫もまた、カヤと同じ存在だったようです。
その夫がとある雨の日、殺されたのだとか。
現場には大量の血痕が残されていて……その血液の異常な量と、その場にカヤの夫の死体しかなかったことから、カヤの夫を殺したのもまた化け物である、と言う男達。
カヤは復讐のために、進駐軍を襲っているのです。
そのためならユニット731の力だって借りる、と。
会話の端々に、近衛の知らない言葉が出てきます。
理解は及びませんが、男たちも一から十まで説明してやる義理はないわけで。
攻撃してきたからには殺すしかない、せっかく見逃してやったのに馬鹿なやつだ、と近衛に銃を突き付けてきたのでした。
と、その時、伏せろ復員兵!と言う声が響きます。
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同時に、進駐軍の服を着た小柄な少女が現れ、携えていた銃を乱射!!
男たちのうち二人を瞬く間に仕留めたのです!!
生き残った男の一人が銃で反撃を試みますが、確実に少女の体を撃ち抜いたにもかかわらず、平然としています。
……男たちは確信しました。
こいつが、カヤの夫を殺した犯人だ、と!!
すかさず反撃に出る男達!
彼らもまた普通の人間ではないわけで……タフネスが同じならば、体格で勝る男たちが複数いれば、少女一人を取り押さえることなどわけのない事。
男たちは銃底で少女を殴りつけ、手を踏みつけて銃を奪い、頭に銃口を突き付けて無力化してしまいました。
無力化したところで、カヤは少女に尋ねます。
夫を殺したのはあなたなのか、と。
少女の答えは、知らないというものでした。
知らない、これが僕の仕事なんだ。
つまり彼女は、ターゲットのことまで考えていないし、いちいち覚えてもいないと言っているのでしょう。
あなたも「同じ」なら、私たちの気持ちがわかるでしょう。それとも子供だからわからないの?
そう問いかけるカヤですが、少女はわかるよ、と答えて……!
ならどうして、とうろたえるカヤ。
ですが男たちは、GHQの犬なら野放しにはできない、と会話の余地もなく殺そうと考えているようで。
頭を撃ち抜こうと銃に手をかけたその瞬間、再び近衛が飛びかかりました!
黙って聞いてりゃわけわからん事ぬかしやがって、そんなに殺し合いがしてぇんなら戦場でやれ!!
近衛のパンチは男に直撃し、男は昏倒。
これでこの場に残っているのはカヤだけですが……
カヤは銃口を近衛に向け、あなたに何がわかるの、死にぞこなった負け犬のくせに、と近衛を責め立ててきました。
負け犬で結構、犬死よりはるかにましだ、と近衛が憎まれ口で反論しますと、その隙をついて少女がカヤに向けて銃撃を行ったのです!!
一方のカヤは、その動きにいち早く気づいたものの、一瞬ためらいの様なものを見せたためか、反撃は行えず……
一方的に少女の銃弾がカヤの体を撃ち抜いたものの、致命傷を与える前に銃弾が切れてしまいました。
カヤはそのまま、その場から走り去っていくのです……

この銃火器を大量に持ち歩いている進駐軍の服を着た少女は何者なのでしょうか。
彼女は先ほど近衛が殴り倒した男に向けて、いきなり銃を乱射!!
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あいつらを殺したいなら弾をケチっちゃダメだよ、ハチの巣にしないと。
こともなげにそう言う彼女は、「砕花」と名乗ります。
砕花はGHQにやとわれて戦争の後片付けをしている、と言うのですが……

どうやら砕花はカヤたちと同じ普通ではない人間で、今はGHQ側についてその普通ではない人間を排除しているようです。
思わぬとんでもない人物と出会った近衛ですが……そんなことより自分が原因で進駐軍が二人死んでしまい、これがバレればただでは済まないことに戦々恐々としております。
砕花は、じゃあ僕の仕事を手伝ってくれる?と持ち掛けてきました。
近衛は砕花を助けてくれた、だから今度は逆に助けてあげる、と言う事のようです。
彼女の仕事を手伝う、とは、何をするのでしょうか。
いくら考えても、楽しい仕事ではなさそうですが……

その後、砕花と近衛の二人による初仕事は、あっさりと、そして意外な形で終わりました。
そして、カヤや砕花のような普通ではない人間、「ヴァリアント」が何なのかを知ることとなります。
間接的にとはいえ進駐軍を殺し、そのうえ何から何までを知ってしまった近衛。
こうなってしまっては、ただですむはずもありません。
お先真っ暗だぜ、とうなだれる近衛なのですが……そこで砕花は言うのです。
さっきも言ったでしょ、僕が守ってあげるって。
近衛、
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君は今日から僕の部下になるんだ。


と言うわけで、不可思議な「ヴァリアント」砕花とともに、新たな戦いに巻き込まれることになる近衛。
砕花は同じ境遇の仲間と言っていいはずのヴァリアントを狩っていく仕事を請け負っています。
それもすべて、生き延びるため。
いわば旧日本軍の残党であるヴァリアントを排除せんとしている進駐軍。
砕花も例外ではなく、その排除対象になっているのです。
その標的から外してもらい、堂々と生きて行く権利を得るため、砕花は進駐軍の手足となってヴァリアントを狩る道を選んだわけです!
もちろん進駐軍側につく道を選んだのは砕花だけではありません。
この後、近衛が仲間入りすることとなった組織のメンバーが次々登場。
そして、敵となるヴァリアントの組織のメンバーも登場し、この第1巻で物語の構造がしっかりと組みあがっていきます!

そんなキャラクターの掘り下げもしっかりと行われております!
この第1話では巻き込まれ型主人公かと思われた近衛ですが、お話が進むにつれてそうではない、彼の驚きの背景や、過去に秘められたドラマなどが明らかに。
砕花の過去はまだ語られませんが十分その魅力は発揮しておりますし、徐々に近衛と打ち解けていく様子はしっかりと描かれ……感情移入がはかどることでしょう!
他のサブキャラクターも個性豊かな曲者ぞろいで、お話を彩ってくれるのです!

戦後間もない日本で行われる、ヴァリアントの血を血で洗う戦いと絡み合う思惑。
しっかりとした世界観にしっかりとしたガンアクション、しっかり楽しめる作品になっておりますよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!