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今回紹介いたしますのはこちら。

「孔雀王ライジング」第10巻 荻野真先生 

小学館さんのビッグコミックスより刊行です。


さて、地獄で様々な人物と出会い、様々な知識と力を手にしていった孔雀。
地上ではクマラと日光が怪しげな動きを見せ、邪悪なる欲望を加速させていって……?



長い地獄の旅を終え、現世に戻ってきた孔雀。
仲間とともにクマラの所業を止めようとしたものの、既にクマラは月読を手に入れ、その身を真の姿……悪魔へと変じさせてしまっていたのでした。
その力でクマラは横浜に悪魔の大軍を呼び寄せ、地上を地獄絵図へと変えてしまったのです。

唯一残ったランドタワーで孔雀を待つクマラ。
孔雀はクマラと決着をつけるために屋上へと向かい、仲間たちは跋扈する悪魔たちを地獄に送り返すための戦いを始めました。
一人で無茶するな、絶対死ぬな、もしもの時はみんな一緒だ、自分たちは友達以上の家族なんだ……
そんな言葉に送り出されてクマラの元へ向かう孔雀。
孔雀の仲間を越えた家族は、共に修業をした仲間たちだけではありません。
友達になると約束した、クマラも同じなのです!!

そのクマラは、ランドタワーの屋上で日光と対峙していました。
日光の目的は、闇曼荼羅を完成させて人造の、人間に従順な神仏を作り上げ、日光の望む極楽をこの世に作らせることでした。
やり方はあまりに乱暴ですが、それもすべては人間の世を平和にするため、ではあったのです。
ですが闇曼荼羅の末に生まれたクマラは、神仏ではない本物の悪魔……大魔王ルシフェルの生まれ変わり、ルシフェルそのもの。
その目的は人間を従順なしもべの悪魔に変えてこの世を悪魔世界にすることだったのです。
それでは日光の目的とは全くの逆。
それならばクマラが本当の大魔王として目覚める前に、俺が止める!と、日光はクマラに戦いを挑むのです!!
若くして裏高野を事実上統べるだけあり、その実力は確かな日光。
その守り本尊は日光菩薩で、太陽の力で不浄のものを焼き尽くす強大な力を持っています。
その激しい炎熱で一気にクマラを倒す……とはいきませんでした。
クマラは何と、その右手から強烈な光を放ちました。
悪魔が、「光」の力を使える……!?
ですが、クマラが日光菩薩すらも一撃で葬るほどの光の力が使えるのも不思議ではありません。
ルシフェルはかつて「明けの明星」と呼ばれた、天使たちを統べる最高位の熾天使だったのですから!
借り物の神仏の力で勝てるわけがないだろう、と一転して日光を圧倒するクマラ。
そしてその魔力で日光を悪魔へと変えてしまおうとするのですが、それを必死で月読が抑えようと印を結びました。
あたしたちの守り本尊、日光、月光菩薩が使える薬師如来は癒しと呪を祓う力を持つ仏。
諦めないで、愛する兄様の強い心を信じてる!!
そう言って日光を支えようとする月読ですが、ならばもろともに地獄に落ちろ、とクマラは無慈悲な権を振り下ろしたのです!!
が!
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そこに、孔雀がたどり着きました!!
友人にしてライバルと言っていい孔雀。
クマラにとって、最も大事な存在だったと言ってもいいでしょう。
だからこそ、自らの手で全力をもって勝ちたい!!
お互い同じ思いを抱く二人、早速全力をもって戦いに挑みます。
クマラはルシフェルではない、神敵として貶められた大魔王サタンとしての力を顕現!
孔雀も自らそのものともいえる孔雀明王を降臨させ……
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激突が始まるのです!

かたや悪魔の頂点に立つ大魔王、かたや如来や菩薩の下に位置する第三位の明王。
戦いはクマラに分がある、かと思いきや……以外にも、孔雀が圧倒しています。
何故なら、孔雀明王ははるか大昔には「孔雀大魔王」として恐れられた悪魔だったのです。
アフラ・マズダ、マラク・ターウース……
土地によっては今でも最高神と崇められている孔雀明王、ルシフェルと同じように貶められ、亜大悪魔の汚名を着せられました。
長い時を経て、孔雀明王は神としてもう一度地上に復活するため、人の子とともに生まれて、共に成長して一からやり直す道を選びました。
その子こそが……孔雀なのです!!
そして孔雀は、クマラも同じだと言います。
ルシフェルが再び神として舞い戻るため、人となってやり直す。
それがクマラである、と……!!
そんなクマラを、こうして再び貶めたのが親代わりになっていた裏天台の座主、不空でした。
不空は自らを新たな世界を支配する悪魔教の大教祖にするため、クマラを幼いころから洗脳し、悪魔の道へと導いていたのです!
……孔雀に破れ、己の歩んで道も操られた末の歪んだ道だった。
そして、選ぶべき道を何となくわかっていたにもかかわらず、呪われた道を選んだのが自分自身だった。
そう悟ったクマラは……自らの翼を切り落とし、そしてランドタワーの屋上から自ら身を投げたのです!!
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もう二度と会うこともあるまいが、こんな形でなかったら、君の言う通り人の子として供になれたのにね。
そう言い残して……
その落下する先には、持続への穴がぽっかりと口を開いています。
このままクマラは地獄に落ち、自らの行動を喰いながら永遠を過ごすのでしょう。
……ところが、そこで孔雀がクマラの手を握ったのです!!
放せ、話さないと二人とも地獄落ちだぞ!!
そう叫ぶクマラに、孔雀は優しい笑顔を浮かべて言うのです。
放せばもう二度と君は現世に戻ってこない!
だったら二人で行こう、地獄でもどこでも……
クマラは戸惑いながら、孔雀にといかけます。
今でもまだ、友達だと思ってるの?
孔雀は、頬笑みを絶やさぬまま……
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当たり前だよ、クマラ。
そう答えるのでした。
……真っ逆さまに地獄へと落ちて行く二人。
ですが、その時……!!



と言うわけで、完結を迎える「孔雀王ライジング」。
長らく休載をしていた本作、以前から荻野先生の体調がすぐれないこともあって、先生のおからだともども心配されていましたが……
19年に荻野先生がお亡くなりになられました。
初代「孔雀王」からファンであった自分からすると本当に残念で、哀しくてならないことなのですが、先生はその病床で本作の最終回と、同時に連載されていた「戦国転生」の最終回を描き切ってくださいました。
「孔雀王」本編との設定の食い違いなども見られた本作ですが、それも本作の最終回を見ればなぜそうなったのかも何となくわかる気がします。
救いのない最期を迎えた本編のクマラ、この「ライジング」ではそうはならないであろう姿を見せてくれるのです。
本作は「孔雀王」へとつながる作品にして、新たな「孔雀王」の始まりでもある……そんな作品だったのかもしれません。


最後になりましたが、荻野先生のご冥福を心よりお祈りいたします。