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今回紹介いたしますのはこちら。

「東京伝説」第2巻 原作・平山夢明先生 漫画・鳥山英司先生 

講談社さんのシリウスKCより刊行です。


さて、謎多き少女・誘に都市伝説の記事を書いて提供する約束をさせられてしまった保奈美。
そんな彼女に惹き寄せられるかのように、様々な怪異が現れて……?



ある日の事。
保奈美は、誘の蔵書が納められている書庫に通してもらっていました。
原稿執筆のために資料を借りたい、と保奈美が言いだしまして、それは殊勝な心掛けだとばかりに誘は喜んでその蔵書を解放したと言うわけです。
良ければお勧めの物を見繕ってあげてもいい、と乗り気の誘。
それもそのはず、先日保奈美の提出した原稿はその出来に疑問符がつくもので、偉大な文豪たちの素晴らしき技を学んでもっとましな文章を書くように、と言う事のようなのです。
それではあとはご自由に、お帰りの際は私に一言おかけください。
そう言って、執事は誘の車いすを押して立ち去って行ったのでした。
二人を見送った後、保奈美はしっかり彼女たちが立ち去ったことをしっかりと確認。
そして本棚から適当な本を何冊か見繕って椅子の上に積み上げると……ここに来た本来の目的を達するための行動を取るのです!

不識財閥。
明治時代に横浜の承認の家に生まれた不識伯郎が、文明開化の檻に貿易省敏江起業したのが始まりです。
その後高度経済成長の追い風を受けて一気に事業を拡大、国内有数の大企業になりました。
ですが13年に、当時の社長一家三名が行方不明になり、発覚10日後に娘の誘だけが都内のマンションの一室で発見されると言う事件が起きました。
生き残った誘も心神喪失状態で有力な情報は得られず、未だ誘の両親は行方不明のままなのです。

誘に出会うまで忘れていましたが、その事件は日本中を騒がしていたセンセーショナルな事件で、もちろん保奈美も知っていました。
全てを失い一人生き残った大財閥の令嬢、そんな悲劇のヒロインが夜な夜な街をさまよって狂気を蒐集している。
それも目的のためなら手段を択ばず、時にはその命すらもやすやすと奪って見せる。
こんなスキャンダルが他にあるでしょうか!?
なんとかこのスキャンダルの証拠をつかみ、自由を手に入れてやる!!
ですが……狂気の蒐集をしている、と言うからには、これまで集めてきたもののデータがしっかり保管してある、と予想していた保奈美なのですが、どうもそう言った類の物はここにはないようです。
他の部屋も見るべきなのか?
本当に重要なものは地下室にあるのだろうか?
そんなことを考えながら書庫を探し回っていると、机の上にポータブルDVDプレイヤーと、一枚のDVDで置いてあることに気が付きます。
そのDVDには、白い盤面にマジックでこう記してありました。
「IZANA 2013」。
2013年と言えばあの事件の起きた年。
一応チェックしておこう、とそのDVDを再生すると……
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「都会の遭難」、そんなタイトルのついていた動画が入っていました。
そこに映し出されていたのは、お風呂の中に親子と思しき二人が入っている……いや、入れられている動画でした。
それを、加藤と鈴木と名乗る、おそらく偽名の二人が実況付きで解説しているようなのです。
手錠で繋がれ、どす黒い液体で満たされた湯船から出られなくされている少女。
幼い日の誘であろう彼女は泣き叫んでいるのですが、そこから出ることは出来ません。
その向かい合わせに座らされている父親は……すでに死んでしまっているようです。
これはやはり、あの世間を騒がせた事件の、空白の10日間の記録でしょう。
その映像はその後も容赦なく続いていました。
すでにこと切れた父親と、湯船につかったまま経過していく時間。
水を飲もうとしても蛇口をひねることは出来ず、かといってすでに鎖崩れかかっている父親も一緒につかっている湯船の水は……
そのうえそこから出られない以上、垂れ流し、をするしかありません。
ただでさえ直視に絶えないその映像ですが、大きな動きがあったのは7日目のことでした。
とうの昔に死んでしまったはずの父親。
その父親が、ピクリと動いたのです。
始まりましたね、来るよくるよ、と動画を撮影している者たちが囃したてると、それに呼応するかのように父親の体はビクンビクンと大きく揺れ動いて、膨らんで……
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破裂!!
中に詰め込まれていたであろうスポンジのオモチャが飛び出すその様を、誘は否応なくそれを目の前で見させられてしまいました。
もはや何も入っていないであろう胃の中身を、それでも吐き出さずにはいられない誘……
幸か不幸か、そこで執事がその部屋に飛び込んできて、誘だけは命が助かったのですが……

あまりの衝撃的な映像に、保奈美は気を失ってしまっていました。
気が付けば、誘と執事がすぐそばにいます。
いけない子ね、糧に他人の過去を覗き見るのはいかがなものかしら?
こう見えて私もお年頃なのよ?
幼いころのお風呂のシーンなんて見られたら恥ずかしいじゃない。
そんな冗談交じりの誘の言葉を聞いても、保奈美の気分が晴れることはありません。
あんな、ひどい、ひどすぎる。
そうすすり泣く保奈美に、誘は言うのです。
そうね、ひどいわね。
でもすっごい興奮したでしょ?
……当時はもちろん恐怖し、命こそ助かったものの廃人同然になってしまった誘。
ですが散歩ができるくらいにまで回復したものの、そんなタイミングで交通事故に遭ってしまいました。
その結果、誘は今四肢が不自由になってしまい、絶望に絶望を塗り重ねられ……廃人が生ける屍になったそのころ、あのDVDが届いたと言います。
そして執事の静止を振り切ってそのDVDを見ると……誘は思いだしてしまったのです。
あの極限状態の中。
腐り崩れて行く父の亡骸を眺めながら……
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自分が達してしまっていたことを……
あなたにもいずれわかる時が来るわよ。
この世で最高の快感とは、禁忌のその先にこそあるものだと。

降りしきる雨の中、自宅へ急ぐ保奈美。
思わず笑いがこみ上げてしまうほど、自分と誘との差を思い知らされた彼女は、あんなの出し抜いてスクープをものにするなんて絶対無理!と人目もはばからず叫んでしまいます。
誘に聞いた話と、自分が見た映像のことを記事にすれば、確かにスクープになるのは間違いありません。
そうすれば世間は大騒ぎになり、自分も自由になれる、かもしれませんが……
私が本当にすべきことは、彼女を貶めるようなことじゃない。
彼女自身を追いかける事。
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その方が絶対「面白い」。
保奈美に訴えかける記者としての勘は、彼女の表情を自然と笑顔へと変えるのでした……



と言うわけで、謎多き少女・誘の過去が明かされた今巻。
ただならぬ過去とただならぬ精神の持ち主である誘、そんな彼女から解放されるのは容易なことではなさそうです。
ですが保奈美もまた、もともと持ち合わせていた記者としての気概なのか、あるいは誘と遭遇してきた狂気の影響なのか……「面白い」ものを求める探求心を沸き上がらせているようです。
保奈美はこの狂気から逃れることができるのか。
それとも、誘の陽に呑み込まれてしまうのか……?
物語は様々な狂気を描きながら、誘の、保奈美の物語を描いていくのです。

今巻ではこれ以外にも、様々な狂気が描かれます。
奇妙なルールのあるラーメン屋に通った者が遂げる変貌を描く「ラーメンの男」。
一見すると弱々しい老婆に見えた人物に手を差し伸べると、とんでもない選択を強いる怪人の正体を現す「だるま老人」。
異常なまでに走ることに執着する「ランナーの男」……
そしてそんな狂気が共通して関係しているらしい、ある組織。
その組織が動き始め……一話完結型の物語だった本作が、一本の大きな軸を据えながら展開していくこととなるのです!!

新たな局面、新たな展開を迎える本作。
これからも描かれていくであろう怪人や誘の心の中とともに、予想を超えるものを見せてくれることでしょう!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!