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今回紹介いたしますのはこちら。

「マガマガヤマ」第1巻 小池ノクト先生 

幻冬舎さんのバーズコミックスより刊行です。
 


さて、原作付きに、オリジナルにと精力的にホラー漫画を描き続けている小池先生の 最新作となる本作。
本作ももちろん(?)ホラー漫画でして、そのタイトル通り「山」にまつわる恐怖を描いていく作品です。
が、いわゆる「山の怪談」とでもいうような、山で起きた恐怖を描いていくだけではない、小池先生ならではの悍ましさにあふれる作品になっていて……
今回は一話完結型のお話が6話掲載されている今巻の中から、本作のすべての始まりともいえる物語、「すそ」を紹介したいと思います!



花山は、山道を歩いていました。
自らを「オレほど不幸な人間も珍しい」と言うほど不幸にまみれた人生を送っていた彼、その不幸の始まりは2年前の母親の失踪でした。
母が失踪したかと思えば、姉は交通事故で死亡、父も病気で亡くなりました。
さらに幼馴染だった連中も同窓会で温泉に向かうバスが谷底に転落して全員一緒に無くなってしまい……
その帆以下の親戚も冗談のように次々と死に、気が付けば2日前に亡くなったいとこで、彼の親族や友人は皆いなくなってしまったのでした。

そんな花山が地元である山奥の村に帰ってきたのは、いとこが管理していた父親の山と屋敷の相続の為でした。
花山が村にたどり着きますと、なぜかそこには彼が昔地元で通っていた学校の校長先生が待っています。
懐かしい、お久しぶりです、と花山が近づいていきますと、校長先生は花山と旧交を温める……ようなことはせず、後ろを振り向いて大きな声で、花山の息子が帰って来たぞ、と叫びました!
一体なんなんでしょうか。
その声を聞きつけた村の人々が、本当じゃ、花山のせがれじゃ、とどこからともなくぞろぞろと姿を現します。
益々訳が分からなくなってきた花山は、何か約束とかしてましたっけ?とあるはずもない記憶をたどってうろたえることしかできません。
あまりに異常な歓迎だったため、焦ってしまった花山は気づくこともできませんでした。
背後から、村人が思い切り自分の頭を打ちすえて来ることに。
そして、意識を失ってしまった花山は、村人のこんな言葉にも気が付けなかったのです。
これで村も救われる。

目が覚めるとそこは、井戸の底でした。
とりあえず花山はけがもなく五体満足なようですが……
水も溜まっていない井戸の底に、なぜ自分は寝かされているのかが分かりません。
とりあえずぽっかりと空いた井戸の天井に向かって、大きな声で誰かいるか、助けてください、と問いかけるのですが、何も返答はありません。
そして花山は、自分の足元にとんでもないものが転がっていることに気が付いてしまうのです。
それは、
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人間の頭蓋骨……!
人骨と共にこの狭い空間に閉じ込められるというのは気味の悪いなんてものではありません。
更に声を張り上げて助けを求めますと、井戸の口からひょっこりと校長先生が顔を覗かせます。
校長先生は助けを求める花山の言葉を無視して、一言だけ声をかけて消えてしまうのです。
それ、鎮めてください。
その骨を鎮めてください。

校長先生が姿を消してからはもう何も変化は起きず、ただただ時間は流れ、井戸の中は漆黒の闇になってしまいます。
まさかこんなところで一夜を明かすことになるなんて、と文句を言うくらいしかするいことの無い花山だったのですが……
気が付けば、目の前に何やら大きなしみのようなものが、あるような。
良く目を凝らすと、それは
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どす黒く変色した、人間の姿ではありませんか!!
助けて、と声を上げることすらできない恐怖に追いやられる花山!!
幸いその人間の姿をした何かは、花山に何かしようという気はないようで……
恐怖におびえているうちに夜は明け、人影も消えるのでした。

鎮める、と言うのはあの黒い人影を除霊しろ、と言うようなことのようです。
ですが花山は特に何の能力もない普通の人間。
そんな自分が鎮めるなんてことができるわけない、そもそもなんで俺なんだ、と花山は思いを巡らせます。
すると井戸の口に、今度は老婆が二人顔をのぞかせたのです。
老婆は、口々に何かを罵倒するような言葉を吐き捨てました。
ですがそれは花山に向けていった言葉ではなさそう。
三食食わせてもらって、雨雲はしのげて布団で寝られて、それ以上何を望むんだい!
この村の女は昔からやって来た事なんだよ!
浮気は男の甲斐性みたいなもんなのよ!
あんたは牛馬にも劣る扱いっていうけどね、牛馬の方が思えさんよりよっぽど稼ぐんだよ!
皆迷惑してるんだ、死にたきゃ一人で静かに死にゃいいものを、よくもこんな!
老婆は言いたい放題言った後唾を吐きかけ、去っていきます。
そしてその後はやはり何の音沙汰もなく……

花山にできることは、骨を鎮める努力をすることだけ。
作法や何かなどまるで知りませんが、とにかく両手を合わせ、お願いです、安らかにお休みください、お静まり下さい、と繰り返しつぶやく花山。
いつしか日はとっぷりと暮れ、骨はあの黒い人影へと変化。
花山は涙をこぼしながら、勘弁して下さい、もう許してください。お静まり下さい、と懇願するのです……が!
そのとき、ずっと空を見上げるように顔を上にあげていた人影が、ぐるんと正面を向いたではありませんか!!
今まで見えていなかった顔が見え、驚いたのは花山です。
なぜならその顔は、2年前失踪した母親のそれそのものだったのですから!!
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母は2年前失踪したのではなく、何らかの理由で死に、この井戸の底に転がっていたという事なのでしょう。
一体母は何をされてこんな姿になったのでしょうか。
骨を鎮める係として花山に白羽の矢が立ったのも、相手は母だったからなのでしょうが……
よくよく耳を澄ましてみると、母は何かをブツブツとつぶやいています。
集中してその言葉を聞けば、こう言っているようです。
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死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……
とどまることのない母の呪詛。
そしてその呪詛に呼応するかのように、井戸の外からは地獄のような悲鳴が聞こえてくるのです!!
何が起きているのか、井戸の底にいる花山に知るすべはありません。
が……かすかに聞こえてくるその悲鳴は、いまだ呪詛を漏らし続ける母親にまがまがしい笑みを作らせて……!!




と言うわけで、「山」にまつわる恐怖を描く本作。
冒頭でも書きましたように、ただ単純な山がらみの怪談の短編連作ではないの最大の特徴!
この後紹介させていただいた「すそ」のオチが描かれるわけですが……それが本作のいくつかのお話、あるいはすべてのお話が々「山」を舞台にしていることがわかるのです!!
全てが々山のお話だということになると、それぞれの話の間にも物語性も出てくるというもの。
一体この山には何が起きて、これだけの怪異が巻き起こってしまうのか?
それらの謎に迫るという要素も見逃せない一点になっているというわけです!!

そしてもちろん、一話一話の恐怖譚も楽しめます。
小池先生の持ち味と言えばやはり君の悪さ、悍ましさ、まがまがしさ。
本作でも生理的な嫌悪感をあおるような気味の悪い描写がたっぷりと記され、あまりに理不尽に登場人物たちに牙をむいていきます!!
小池先生の得意とする、ホラーとしての恐ろしさとビジュアルの気味悪さが両立した、しっかりとした恐怖が堪能できる作品になっているのです!!


今回はいこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!