mn0
今回紹介いたしますのはこちら。

「見かけの二重星 完全版」 つばな先生 

幻冬舎さんの幻冬舎コミックスより刊行です。


さて、「惑星クローゼット」を連載中のつばな先生。
本作はそんなつばな先生が講談社さんの「Kiss」にて09年から連載し、11年に単行本が刊行されたのが本作。
その作品に加筆修正を加え、完全版として刊行されたのが本書です。
12年にはラジオドラマ化された、隠れた名作と言える本作、その内容はと言いますと……?



その日まで白樺綾子は普通に暮らしていました。
いつも通り朝を迎え、いつも通り授業を受けて、何の変哲もない自分。
世界に一人だけの、自分でした。
そう、その日までは。
今の綾子は
mn1
何故か、二人いるのです。
二人はそっくりそのまま、来ている物から持っている物までまるで同じ。
一体これはどう言う事なのでしょうか。
話は、彼女が下校していた時に遡ります。

道端に落ちていた一万円札。
綾子はごく普通の女子高生、当然そんな大金が落ちていれば、その後どうするにしても飛びつかずにはいられません。
サッと拾おうとしますと、一万円札はぴょんと跳ねまして……逃げて行く一万円札を追いかけて行った末、ようやく捕まえると……一万円札に糸がついていて、誰かが綾子を釣り上げていたことに気が付きました。
綾子を一本釣りして見せたその人物は、「科学実験」の手伝いをして欲しい、と言いだしました。
手伝ってくれればその一万円をあげる。
そう言われてはもう選択肢などないでしょう!
その男は、何やら大きな箱が二つ並んで、パイプのようなもので繋がった奇怪で何かをしようとしているようで。
綾子をその片方の、「IN」と書いてある方の箱の中へと入れるのです。
……これは一体何の実験なのでしょう。
男は、物質転送期の実験だと言います。
INと書かれた箱から、隣のOUTと書かれた箱に転送させる。
詳しく聞いてみれば、INの箱でいったん分子レベルに分解して、OTの箱で再度組み立てられる、んだとか。
それって……ものすごくおっかないことを言っていないでしょうか!?
綾子が異論を唱えようとしたときにはもう手遅れでした。
INの扉はしっかり閉められ、出ることは出来ません。
さらに、「良い」って言うまでは絶対に出ないこと、と言われまして……
綾子は恐怖におびえながら、その時を待つしかありませんでした。
そして、あっさりとその時はやって来ます。
男がぽちっとスイッチを押しますと、
mn2
綾子の体は小さな泡のようなものにばらけて行き……
気が付くと、OUTの箱の中にいたのでした!!

実験は成功……ではありませんでした。
無事転送された綾子でしたが、
mn3
INの箱からも綾子が出てくるではありませんか!!
何故二人に分裂してしまったのか?
男に問い詰める二人の綾子ですが、男は全く分からない、と彩子の話を全く聞かない姿勢。
そして、ちょっとストップと言ったかと思うと、時間の流れを自分と綾子たちとで変える、と言う「加速器」を使い、あっと言う間に逃げ出してしまうのでした。

そんなことがあった綾子、どうしていいかわからず、とりあえず二人で自宅に帰ってきたわけです。
自分たちが二人になってしまったことを何とかはぐらかしながら夜を迎え、二人(一人?)は一緒に布団に入りました。
せまい布団に二人で入っていると、昔のこんなことを思い出してしまいます。
怖いことがあった時はいつもお姉ちゃんの布団潜ったよね。
お姉ちゃん、いつもせまそうにしてたね。
あっち行け、とか言いつつ、結構ギュッと抱いてくれたからおかしかったよね。
……そして二人は、ご飯のことについての話に移行していきます。
二人になったことを隠していたら、夕ご飯も一人しか食べられない。
お母さんにこのまま黙っていたら怒られてしまうだろうし、朝ご飯を二人一緒に食べない?
実は綾子、ある理由があって今は朝ご飯が食べられなくなっているのです。
三年前のあの日。
朝ご飯を食べようと思って席に着いた途端に電話が鳴って……
mn4
すぐに病院に駆け付けたのに、お姉ちゃんはもう勝手に死んじゃってて……
その後帰った時の食卓の寂しさ。
それが原因となって、綾子は朝ご飯が食べられなくなってしまっていたのです。
このままではいけない、と綾子もわかってはいました。
だから……
二人はじゃれ合いながらも、いつかのように、ギュッと抱き合って眠るのでした。

翌朝。
分裂をカミングアウトした綾子を見て、流石に両親は驚きましたが、意外にすんなり受け入れてくれたようです。
二人の姿を見た瞬間、一瞬だけ……死んだお姉ちゃんが帰ってきた、と思ったのだとか。
綾子は、お姉ちゃんへの思いを馳せます。
私、いつの間にかお姉ちゃんの年齢に追いついちゃっていたよ。
横に並んでたら、やっぱりちょっと似てたのかな?なんてさ。

と言っても、これでハッピーエンドにするわけにはいきません!
綾子は例の男を見つけると、息の合ったコンビネーションで追い詰め、元に戻せと迫りました。
ですが男の方もどうにもその手段が見つからないようで……
一応努力はしてる、と玉虫色の返答をするばかりなのです。
が。
その男も、何故か二人に増えているではありませんか!
どうやら男自身、例の装置の実験台になってみたようで……
綾子と綾子の二人の生活は、まだ続くようです!




と言うわけで、幕を開けた二人の一人の少女の物語。
姉との別れと言う辛い過去を背負った少女が、もう一人の自分と向き合うことで再び前に歩きだしていく。
そんな様を描いた作品……なのは間違いないのですが、そう一筋縄ではいかないのが本作です。
姉との思い出とともに本作の柱となっているのが、恋愛と、もう一人の自分の中身に関してです。
綾子が二人になっても、好きな相手は当然一人のまま。
そんな状態で、安心して恋愛できるでしょうか。
もしもう一人の自分が、自分に内緒で恋する相手にアプローチをかけたら?
そんな不安が生まれてきても当然でしょう!
さらにもう一人の自分の中身。
最初は全く何もわからないと言っていた例の男ですが、徐々にその正体がわかってきたようで。
その正体を知った時、綾子の心の中に生まれる感情とは……?
そしてそれらの様々な要素が絡み合って、クライマックスで一つになる様子は見事と言うほかありません!!
つばな先生の持つコミカルな雰囲気で少女の成長と感動のドラマを描いていく、だけではない、シリアスな展開や不穏な雰囲気もしっかりと混ぜこまれ、見事なフィナーレでまとめ上げた読み応え満点のお話になっているのです!!

巻末にはおまけの「パラレル」が収録。
こちらはちょっとだけ「惑星クローゼット」を思わせる要素が入っているファン向け要素の強い作品となっていますが、それだけではない本作のエピローグ的な要素もしっかり入っている短編にもなっております!!
読後感がさらに爽やかになる、こちらも是非とも併せて読んでほしいエピソードなのです!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!