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今回紹介いたしますのはこちら。

「衛府の七忍」第7巻 山口貴由先生 

秋田書店さんのチャンピオンREDコミックスより刊行です。


さて、徳川幕府と桃太郎の支配する江戸へと降り立ってしまった沖田。
勝手のわからない時代で生きる道すら見失いかけた沖田でしたが、様々な出会いによってこの時代に溶け込みつつありました。
ですがこの江戸は、圧政を強いる徳川と、その徳川幕府に強い怨念を抱く鬼の跋扈する世界。
そのどちらにも対抗しうる力を持つ沖田には、この動乱に巻き込まれない平穏な暮らしをすることなど、許されはしないのです。



沖田は、紆余曲折の末、結局町道場の指南役に収まっていました。
人あたりが良く、腕は抜群に立つ沖田ですから、指南役としては言うことなし。
さらに町道場の一人娘、一果にも気に入られており、すっかりこの立ち位置が板につき始めていたのです。
そんなある日、一果が突然、普段着ることなどない振袖を着て現れたのです。
なんと、過労の屋敷で催される旗本ご息女限定の「お能」に招待されたとのこと。
一果は、「いか娘」はあーしだけよ、とにこにこしております。
いか娘とは何なのかと言いますと……招かれている他の娘たちはみな、御目見得以上の家柄の持ち主で、御目見得「以下」娘は自分だけだから、と言うわけです。
粗相をしないように、気をつけて、と言う父と沖田の声を背に受け、一果はペロッと舌を出してこう言い残します。
総司、一果を侮るなかれ。
そのしぐさに思わず笑みが漏れる沖田。
そんな沖田に、一果の父親がこんなことを言いだしました。
総司君、うちのいか娘と寄りて添う心根はあるかね。
町道場如きでは役不足かな。
……沖田はその言葉を聞いて……
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迷いませんでした!
誠にかけて!!
何より大事な誠の字にかけ、一果と添い遂げる!
そんな覚悟をすぐさま示して見せたのです!!
大事なことはあれこれ考えず即答しろ。
そんな、土方の教えに従って!

老中大久保忠隣屋敷。
ここで、旗本の子女を招いての勧能が催されました。
周りはみな、美しく家柄の良いご令嬢ばかり。
そんな中で一果は、あーしだけいか娘、と内心誇らしく思っておりました。
一果やご令嬢たちの視線が注がれるその演目は「殺生石」。
巨石に取り付いて悪事をなす鬼を、高僧が祈りを捧げて仏道に導かんとする。
そしていよいよ石が割れ、「野干」なる貴人が姿を現す……
そんなシーンで、殺生関を模した仕掛けから出てきたのは
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怒りに狂う鬼、虹鬼(ななき)だったのです!!
当然それが本物の鬼であることなど知らないご令嬢たちは、なんと凄い能面なのだ、と驚くばかり。
そして予定外のものが出てきたの打役者たちは、驚きのあまり固まってしまい……!!
そんな中で、憎悪の炎を燃え上がらせているのが虹鬼です。
虹鬼は、河原に住んで自らの体を使って日銭を稼ぐ、川原女の一人、雀が変化したモノ。
そんな立場にいるだけで当然幕府に恨みが募るわけですが……幕府はこの観能の少し前に、川原女達にとんでもない非道を振るっていたのです。
その憎悪の炎は、もはや一瞬たりとも納めることは出来ず……!!

道場の外で水浴びをしていた沖田。
そこに門下生たちが、西門近くの大名屋敷が焼けているらしい、見物と洒落込みま将と駆けつけてきました。
今の時代よりももっとこの時代の方が、お役人への不平不満が多いわけで。
役人の家が燃える様は、最高の酒のさかなだったのでしょう。
ですが……その屋敷が、一果の向かった屋敷だとなると……

「現場」を調べるのは柳生宗矩。
能役者たちは何も覚えておらず、焼け落ちた現場には座ったまま炭と化した48人の女性の亡骸があるだけ……
宗矩は、これは火炎放射器を使ったのだろう、と言います。
他の武士たちは当然そんなもの知るはずもありませんが、宗矩だけは何故か知っているようです。
三百年先の武器を用いる、それが「鬼」である。
……この惨劇は、鬼が招いた物。
恐怖する武士たちの中で、宗矩だけは違う気配を感じていました。
素早くその気配の元へかけつけますと……
そこには、ぼりぼりと音を立てて「添い遂げる相手」を体に入れている男がいました。
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沖田です。
沖田は、涙とおさえきれない憤怒の炎をその瞳から迸らせながら、宗矩に言うのです。
柳生さん、聞こえたよあんたの話。
鬼だってな。

……そして、その後。
この街に二体の鬼がいることを重く見た大久保と宗矩、そして服部半蔵がどうすべきか話し合っている場所に沖田も乗り込んできます。
そして、大軍で取り囲んで集中砲火しようというその相談結果に異を唱えるのです。
太平の江戸を戦場にするなんてことがあってはいけない。
柳生さん、
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俺とあんたの二人でやるんだ。
沖田の中に、ひとつの確信が生まれていました。
土方さん。俺が時を越えて江戸へ来た理由、今日わかりました。
鬼退治です。



と言うわけで、いよいよ鬼と沖田との戦いが幕を開ける今巻。
この時代で生きる理由を探していたところのある沖田でしたが、その望みは思わぬ形で結実してしまいました。
誠をかけたいか娘の仇を討つ。
それだけのために、沖田は立ち上がることとなるのです!!
そしてその相棒は、稀代の剣豪柳生宗矩!!
宮本武蔵に続き、生身の剣士が人知を超えた鬼に挑むことになるのです!!

そして山口先生の最近の作品らしく、沖田たちと鬼たち、どちらにも相手を殺し尽くすほどの恨みを抱くに足りる理由があります。
沖田にはいか娘の敵討ちが。
そして、この少し前には二人の鬼たちが鬼と化した時の事件、そして勧能の場を焼き尽くす恨みを抱く更なる惨たらしい出来事が描かれているのです!!
沖田と鬼たち、そのどちらも復讐劇の主人公たるドラマがあり、どちらを応援すべきか迷うような構造ができていまして。
本作の絶対的な敵役は徳川幕府と桃太郎ですから、沖田たちの方が敵側と言えるはずなのですが、かといって沖田が悪だと言うわけでもなく……!
どちらが生き延びても、どちらが死んでも、すっきりとはしないであろうこの残酷な物語。
このシリーズも、最後の最後まで目が離せませんね!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!