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今回紹介いたしますのはこちら。

「スキップとローファー」第1巻 高松美咲先生 

講談社さんのアフタヌーンKCより刊行です。


高松先生は12年に四季賞で佳作を受賞してデビューした漫画家さんです。
別名義でいわゆるBL漫画を手掛けられるなど、様々な活躍を見せておられます。

本作は学校生活をメインとした日常ものです。
一人の少女が新しい学校生活に挑む様子を描いているのですが、その少女はちょっとだけ変わった子のようで……?



岩倉美津未(いわくらみつみ)、15歳。
石川県の端っこの中学から、この度東京の高校に進学することとなりました。
町を出る電車の車窓から身を乗り出し、ホームで見送る友人に「夏休みには戻るから」と手を振る。
……そんなテンプレートのようなお別れを夢見ていたみつみでしたが、残念ながら近所の駅は10年以上前に敗戦になって亡くなってしまっていまして。
東京まで送ってもらう車に乗り込む前、道路で友人との別れを惜しむと言う、あまり情緒のない決別を迎えることとなったのです。
幼馴染で親友であるふみちゃんは、餞別としてみつみにパンダのヘアピンを渡してくれました。
パンダ好きやろ、シャンシャン見たら写真送ってよ。
そう笑う彼女の友情に感謝するみつみは、幼馴染が親友だなんて素敵だ、と胸を高鳴らせながら東京へと向かうのでした。

今日は初めて高校に登校する日。
駅まで送ってくれたのは、お父さんの弟であるナオちゃん。
みつみナオちゃんのおうちに居候しながら、高校に通うことになっています。
ナオちゃんはみつみが心配でならないようで、三番目の駅で乗り換えだからね、変な人に声かけられても無視よ無視、と二度三度とみつみに注意事項を重ねて忠告。
ですがみつみは、こんなことを言うのです。
大丈夫、予感がするの。
今日はきっと完璧な一日になる……!
自身満々にそう言って電車にのりこんだみつみ。
彼女は、ナオちゃんにこそ言わなかったものの、さらにこう思っていました。
京だけじゃない。
私はこの高校生活、一度だって失敗しない。
何故なら私は明確な人生設計があるから!!
大学はもちろんT大、お法学部を首席で卒業。
総務省に入省し、キャリアを積んで過疎対策に大きく貢献する。
定年後は地元に戻り市長を務め、官僚時代のノウハウを生かし財政を御幅に改善。
死んだらお骨は日本海に撒いてもらう……
この三年間はそんな夢の土俵に立てるだけの学力を身に着けるためにある!!
ただうちの家族はそんなことよくわからないから、学校は楽しいか、友達はできたか、とかが気になるでしょうから、そこもまぁほどほどにこなしましょう。
待ってて皆、小さな町に奇跡的に生まれた神童の私が、立派になって帰るから!!
……そんなことを考えながらも、ちゃんとみつみは三番目の駅で降りる、と言う事はしっかり覚えていまして。
三番目三番目、と心の中で何度も繰り返すみつみ。
自信も伊達ではないと言ったところでしょう。
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……今乗っている電車が、大分駅をすっ飛ばして進む、快速急行だと言う事に気がついてさえいれば……!

入学式が始まったと言うのに、学校についていない新入生。
見るからにチャラそうな男子、志摩聡介です。
友人からの電話で一応頑張って来い、と言われるものの、聡介は今からじゃあ、と全然やる気がなさそう……
なのですが、その駅で偶然、壁に向かって突っ立って沈み込んでいるみつみを発見したのです。
ヤバい人かな?と一瞬思ったものの、なにせ相手は同じ制服の女子なわけで……
こんなはずではなかった、消えたい、と沈みまくっているみつみに、聡介は

大丈夫ですか、と声をかけたのです。
自分を幽鬼のような形相で見つめる彼女に一瞬ひるむ総介。
そんな彼の腕をとっさに掴んでしまうみつみなのですが……
よくよく考えてみれば、同世代のしらない人としゃべるのが何年ぶりかわからないことに気がつきまして。
うろたえまくってしまうものの、それでも何とか声を振り絞り、学校へはどうやって行くのですか、と尋ねるのでした……!!

俺も遅刻、一緒に行こうよ、とにこやかに応じてくれた聡介。
地獄に仏ですが、まだまだみつみの不安はぬぐいきれません。
間に合わなかったらどうしよう、今日は絶対実家から電話がかかってくる、そのままいったら心配するに決まってる……!!
ガクガクと震えるみつみに、聡介はたかが入学式じゃん、と元気づけようと軽い言葉を投げかけるのですが……
みつみはおもわず、それはあなたにとってはでしょ、と突き放すような発言してしまい……!!
慌てて謝ろうとするみつみですが、ちょうど電車は目的の駅へ。
聡介はまるで気にしていないかの表情で、歩いたら10分くらいだけど、急いでるんでしょ、走る?と聞いてきまして……

走りながら、みつみは反省します。
簡単に波にのまれ、動揺して事態を悪化させ、親切な人に八つ当たりしてしまった。
たった半日で自分の正体を見た気分で恥ずかしい……
でも今はとにかく、
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走ります。
みつみはなりふり構わず、履きなれない靴を脱いで駆けだしました。
そんな彼女のがむしゃらな姿を見て……聡介の気持ちもなぜか高揚し始めて……!

入学式自体には間に合いませんでしたが、みつみの「大一番」には間に合いました。
実はみつみ、この進学校の主席入学だったりします。
主席と言う事は、新入生代表としてあいさつする身だったりするわけです。
なるほどしっかりした(?)未来のビジョンを持っている彼女にとっては入学式は重要!
そして彼女は、その潜在能力をいかんなく発揮しまして、しっかりとした長い演説を、完全に暗記してはきはきとキッチリと披露して見せたのです!!
……これで終わればよかったのですが……
ド緊張の演説を終え、緊張の糸がほぐれたみつみ。
さらにそこに、前日のわくわく感からくる睡眠不足、そして先ほどまでのダッシュの影響が一気に襲い掛かってきまして……
壇上から降りてそのままダッシュでトイレに駆け込もうとするものの、当然発表後直でどこかに行こうとする生徒がいれば、先生はどうしたのかと心配して止めようとするのが当然。
彼女の担任である花園先生が、どこへ行くのとその前に立ち塞がり……
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結果、みつみは担任の先生にいきなりお見せ出来ない彼女のお腹の中身をプレゼントしてしまうのでした!!

大失敗、と言ってしまってもいい結果になったみつみの入学式。
ですがずれたところはあるものの、基本ポジティブなみつみはまだ取り返せると信じております。
後ろの席のなんだかおしゃれな女子が、彼女の後ろの席の女子と連絡先を交換しているのを見まして、よし自分もとばかりに意を決して声をかけてみたものの……彼女はみつみとお近づきになっても得るものはないと考えたのでしょう。
よろしく、と適当に流してしまうのです。
さしものみつみも雑に扱われた?と気が付くのですが……
そこに彼、聡介が現れまして……
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同じクラスだね。
体調平気なの?
そうだ、スピーチよかったよ堂々としてて!
岩倉さん、俺たち友達になろうよ。
そう言って、すんなり連絡先を交換してくれたのです!!
イケメンと何やら仲がいいらしいと言う場面を見て、後ろの席のおしゃれな子の打算も働いた様子。
席前後ろなんだし仲良くしたい、と彼女も連絡先を求めてまいりました!!
みつみは、なんださっきはタイミングが悪かっただけなんだ、と素直に納得し……

とりあえずその日の実家からの電話は、完璧だったと答えたみつみ。
とはいえ家族も、みつみが勉強以外はズレてるから、駅で迷ったりしてないか心配だった、と考えていたようで……
なんだかんだ見透かされてはいたものの、友達が(一応)二人できた事も聞けて、大分安心していました。
みつみの前途は揚々……と言いたいところですが、後ろの席の江頭ミカはちょっぴり曲者の匂いがしますし、あのやさしいイケメン、聡介もいろいろと抱えているものがありそうな。
いろいろ問題もありそうなみつみの学園生活ですが……きっと大丈夫!
みつみの、見た目だけではない魅力があれば、これから先は楽しいことが待っているはずです!!



と言うわけで、みつみの状況高校生活が幕を開ける本作。
勉強はとてもできるものの、そこ以外はだいぶずれたところのあるみつみなのですが、そんな彼女だからこその素朴で純真な魅力が物語を動かしていきます!!
一見すると爽やかイケメンな聡介、なんだか裏表のありそうな江頭と、この時点で出てきているキャラクターだけでも一癖ありそうな人物ばかりなのですが、それに加えてみつみはこの後ももう一発やらかしまして、あまりいい意味でなくクラスで目立ってしまいます。
普通の(?)漫画ならばここでぎくしゃくしたり、鬱っぽい展開になっていきそうなものなのですが、みつみの持ち前のキャラクター、そしてそんなみつみにあてられた周囲の優しい人たちによって、結果を見れば平和な日常が繰り広げられるのです!!
いつの間にか増えて行くみつみの交友関係や、そんな中で彼女なりに頑張って一生懸命過ごしていく様子は何だかほほえましい限り!
そんな日常を眺めているだけで楽しい作品です!!

が、それだけではもちろんございません!!
これからの展開次第では恋愛に発展していきそうな聡介とみつみ。
ですが聡介はイケメンでモテる為、そのあたりで何かトラブルが起こる可能性も無きにしも非ず。
さらに聡介が抱えている問題も、今のところ本人が華麗にスルーして大事にはなっていかなそうなのですが、お話が進むにつれてそのあたりが掘り下げられる日も来そう。
それでもきっとみつみと、彼女を支えてくれる友人たちならきっと何とかなってしまう……そんな安心感がなぜか感じられる、素敵な空気に溢れるお話なのです!!



今回はこんなところで!
さぁ。本屋さんに急ぎましょう!!