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今回紹介いたしますのはこちら。

「髑髏は闇夜に動き出す」 TETSUO先生 

少年画報社さんのYKコミックスより刊行です。


TETSUO先生は本作がデビューとなる漫画家さん……ですが、どうも画風の感じから「トモダチ×モンスター」「WONDERFUL WONDER WORLD」の乾良彦先生の別名義のような感じがします。
まったく公式の発表はないので今のところ確定ではありませんが……!

そんなTETSO先生の描く本作は、とある老人の決意と戦いを描くドラマ。
老人に何が起こったのか?どんな運命が巻き起こるのか?
気になるその内容はと言いますと……



公園のベンチで、一人腰かける老人、藤村銀三。
彼はつい先日……がんの宣告を受けてしまいました。
治療を受けなければ、持って5ヶ月。
がん保険の治療のアドバイスなどの冊子を受け取りはしたものの、藤村はまったく闘病しようと言うきもちはありません。
やりたいこともやり残したこともない、89歳のおいぼれに今更どうすればいいというのか。
未婚の藤村には、守るものも、大切にしたいものもないのです。
人生……こんなもんか。
藤村はしみじみとそう漏らし……公園で遊ぶ母子をぼうっと眺めるしかないのでした。
と、その時、藤村の前に黒い影が現れます。
胸に大きな穴をあけた、得体のしれない黒い人影。
明らかに人間ではないそれですが……何をするでもなく、藤村の前に立っているだけ。
藤村もその存在が姿を見せるのは慣れっこのようで……哀れなワシを見に来たのか、と漏らすのです。
ですがその人影、結局何をするでもなく、消えていくのでした。

藤村が家に帰ると、見慣れない少女が柵越しに藤村の家を覗いておりました。
ワンちゃん飼ってるの?それ、ワンちゃんのおうちでしょ?
彼女の視線は、庭の片隅にある古ぼけた犬小屋に向かっています。
20年も前に飼っていた犬小屋で、片づけないまま来てしまっていただけだ、と答えますと……
少女は、戻ってくるのかと尋ねてきました。
藤村は、遠くに行ってしまったから、ともう死んでしまっていることをぼやかしてその少女に教えるのですが、少女は無邪気にまた会えるかなと聞いてきまして。
藤村は……伏し目がちに、もうすぐ会えるかもしれない、と答えるのです。

少女の名前はマコ。
6歳だと言う彼女は、今日藤村の家のお隣に引っ越してきた、持田一家の一人娘でした。
とはいっても、来月に弟か妹が生まれるとのことで。
持田さんの奥さんも騒がしくなるかと思いますがよろしくお願いします、とご挨拶してきてくれました。
お隣さんができたとはいえ、もともと社交的ではない藤村、その生活が変わることはないと思われたのですが……
藤村が買い物に行った帰り、無礼な若者にぶつかられて荷物をばら撒いてしまったところに、助けの手を差し伸べる男性が現れてから、その毛色が変わってきました。
その男性は、まさかの持田さんの旦那さん。
せっかくですからと一緒に帰路につき、世間話をしているうちに、よろしければ一緒に晩御飯を食べませんかと誘ってくれます。
にこやかに招き入れてくれる、持田さん一家。
マコのお絵かきを見てあげている間に食事もでき、それをいただく藤村ですが……
自分の家とは違う匂い、新しい家、炊き立てのご飯……
そこに、
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はじめて感じる、「家族の幸せの匂い」を見るのでした。
自分が持田家の祖父だったらどうなっていたのか。
そんなことを考えているうちに、藤村はどうしてもいてもたってもいられなくなり。出産祝いの品物を色異を買って持田家にプレゼントすることを思い立ちました。
持田家は素直にそれを喜んでくれ、それ以来、仲良くご近所づきあいをしてくれるようになります。
マコもなついてくれまして、自分を慕ってくれましたし……
人生に絶望していた藤村に自然と笑顔が増えていくのでした。

そんなある日のこと。
おすそ分けしてくれたもののお皿を返しに持田家に向かいますと、まだ起きているはずの時間なのに電気が消えていることに気が付きました。
留守だろうか、と漏らしていますと……中から何やら、食器の割れるような音が立て続けに響いてくるのです。
何事かと玄関に手をかけてみますと……空いているではありませんか。
そっと中に入り、大丈夫か、と声をかけても返事はなし。
そっと中に入ると、ちょうどその時、二人組の男が窓から逃げていくのが見えたのです。
男の一人は、逃げる際に携帯電話を落としていきまして……藤村はそれを拾い上げ、男の姿がもう見えないことを確認した後……恐る恐る後ろを見ると、そこには……
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マコを守るように、折り重なって死んでいる持田家の無惨な姿があったのです……
あまりにも衝撃的な事件を目の当たりにして、全てを失ってしまった藤村は、絶望に打ちひしがれてしまいました。
警察に通報はしたものの、まともに受け応えることもできません。
悲観に暮れ、顔を覆って後悔の言葉しか紡ぐことのできない藤村の前から、警察もこれ以上は話が効けないだろうと立ち去った後……あの、黒い人影が現れたのです。
藤村は、その人影に問いかけるのです。
どうすればいい、ワシはどうすればいい……
するとその人影は……藤村の姿へと変わっていきます。
そして一言、こう答えました。
殺せ。

逃げ去った男二人の姿は、藤村の脳裏にしっかりと焼き付いています。
その憎い姿と、幸せだった持田家三人の顔が交互に脳裏に浮かび……
そして、藤村は決意するのです。
あいつを、あいつらを、家族をうばった、犯人を
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この手で殺してやる!



と言うわけで、89歳、余命5ヶ月の老人が復讐の炎を燃やす本作。
この後、手にした携帯電話と目に焼き付いた記憶とで、犯人に復讐をしていく様子が描かれていくこととなります。
ですが藤村はあくまで89歳の老人。
拳銃か何かでもあれば別でしょうが、普通に復讐しようとしてもできるはずがありません。
もし本当に復讐するとするならば、戦略と……そして、堅い熱い決意が必要となるでしょう……!!
一体藤村の復讐劇はどのように展開していくのか?
その復讐は結実するのか?
そして藤村はどうなるのか……!!
一瞬たりとも見逃せない、息を飲むドラマが展開していくのです!!

幸福、絶望、憎悪、悲哀。
様々な感情が渦巻く本作は、全1巻で非常によくまとまった読み応えのある作品となっています。
唾棄すべき悪に、煮えたぎる復讐心で立ち向かう藤村の姿は、殺すと言う決して応援してはいけない目的であっても自然と感情移入してしまうこと間違いなし。
復讐劇好き以外の方も間違いなく楽しめる一冊となっていますよ!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!