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今回紹介いたしますのはこちら。

「人間失格」第3巻 伊藤潤二先生 

小学館さんのビッグコミックスより刊行です。


さて、葉蔵の数奇な転落人生を描いていく本作。
葉蔵は純真無垢なヨシ子と結ばれ、とうとう人並みの幸せを手に入れる……かと思われたのですが、そこにちらつくのは竹一の、いや、自らの背負ってきた罪。
逃れても逃れても逃れられない罪の責め苦。
それに苦しめられ続けることとなる彼に待っている運命とは……?



葉蔵が地獄をもがくような悪夢から覚めると、そこには見慣れない光景が拡がっていました。
部屋中に垂れ下がっている、からからに乾いた草花。
そしてその中央に座る、優し気な笑みを浮かべる女性。
葉蔵は地獄の中かと錯覚するものの、その女性、ヒロ子が言うにはここは薬屋だとのこと。
ぶら下がっている草花は薬草だそうで、薬の材料にするために乾燥させているようです。
ですがその様相はおどろおどろしく、とても体にいいものだとは思えません。
実際この中には用法次第で毒になるものも含まれているそうで。
地獄の光景と言うのもあながち間違いではないかも知れません。
とにかくその地獄の中に薬屋のお嬢さん、地獄に仏とはこのことです。
先日初めて喀血してしまった葉蔵は、彼女に現在の症状を打ち明け、いい薬はないかと尋ねました。
症状を聞いたヒロ子、とにかくお酒はいけないと葉蔵を諭すのですが、本題に入る前に隣の部屋から呼びつけられてしまいます。
となりの部屋には寝たきりになってしまった彼女の義父がいるようで、下の世話を求めてきた様子。
すぐにヒロ子は駆け付けようとするのですが、持病の足痛がうずき、立ち上がることもままなりません。
そこでヒロ子は、葉蔵に引き出しの上にあるアンプルを取ってくれと頼みます。
指示されるままアンプルと注射器を取って渡す葉蔵。
すると彼女は痛む部位にその注射を打ち……
うっとりとした瞳を浮かべながら、今までの苦しみ方が嘘のように義父の元へと向かうのでした。

ヒロ子は様々な薬を処方してくれました。
造血剤、カルシウムの錠剤、ビタミンの注射液と注射器、胃腸薬。
お金はいつでもいい、ただお酒だけはだめです。
祖薬を受け取った葉蔵はうなずき、降りしきる雪の中を帰ろうとするのですが……そこに、現れるのです。
葉蔵を襲う、罪の意識からくる幻覚が……!
恐怖のあまりうずくまってしまう葉蔵は、たまらず先ほどの薬屋に逃げ込みます。
そこで待っていたのは
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あの薬草の干し草で作られた、禍々しくもどこか艶やかな生け花……!!
それは葉蔵の心をたちまち引きつけました。
まるで地獄の馬のようだ。
思わずそう呟いてしまう葉蔵でしたが、ヒロ子は私にとって最高の褒め言葉だとよろこにます。
華やかに咲く生花よりも死んでしまった独創に惹かれる、滅んでいく物の中にこそ本当の美しさがあると思う。
そうほほ笑む彼女に、葉蔵は強いシンパシーを感じました。
彼女もまた同じものを感じていたのかもしれません。
酒が欲しくてたまらないと泣きごとを言う葉蔵に、お酒よりはましだろうと、あの打てばうっとりとするあのアンプルも処方してしまうのでした。

確かにあの薬は抜群の効果をもたらしてくれました。
酒が飲みたくてどうしようもなくなったら打て、と言われたその薬、注射をすればたちどころに気分は爽快、晴れやかに。
漫画の仕事もはかどった……のですが、その薬を打つ量が徐々に増えていくのはいただけませんでした。
やがて葉蔵は、ヒロ子に縋りついては甘い言葉を囁き、薬を無新するようになってしまったのです。
その様子を見ていたヨシ子、とにかく葉蔵が元気になったようで、当初は喜んでいたのですが……
徐々に葉蔵に異常が出てきてからはそうもいかなくなったようです。
二人で幸せな気分に浸りながら散歩をしていたその時、薬の作用が悪い方に効いてきてしまいます。
街中をかける子供を見ては竹一を照らし合わせておびえ、子供ってかわいい、私も欲しい、と言うヨシ子の言葉すらも自分を追い詰めるかのように感じてしまう。
そうすると葉蔵はもうヒロ子に頼るほかなく、薬を求め。そして彼女の体をも求めてしまうのです。

……葉蔵は完全にその心を薬に侵されてしまっていました。
店中で足痛に苦しむヒロ子に、薬を持ってくるように言われた葉蔵。
すぐさま彼女に薬を渡す……その前に、
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一本を自分で楽しんでしまうのです。
そんなことも知らないヒロ子は、その後求められるまま葉蔵と体を重ね合わせます。
情事を終えた後、ヒロ子は自分を呼ぶ岐阜の元へ。
その応対をしていると、今度は薬屋に客がやって来たようで、そちらから呼ぶ声が聞こえます。
その声、聞き覚えがあるような。
恐る恐る店の様子をうかがうと、そこにいたのは……
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ヨシ子だったのです……!!


と言うわけで、ひたひたと崩壊が近づいて来る本作。
原作では比較的あっさりと描写されていた薬屋さんとのくだり。
そのくだりが伊藤先生の筆によって大きく膨らみ、葉蔵の呪われた人生に呑み込まれてしまうことになってしまうのです。
どちらも優しく穏やかな美しい女性であるヒロ子とヨシ子。
薬欲しさの欲望と、自分と同じ美醜感を持った女性に溺れた翻弄された葉蔵、ヨシ子はそんな姿を見て、徐々に猜疑心を強めていくことに。
純真無垢で人を疑うことを知らなかったヨシ子。
ですが葉蔵のがヒロ子の元へ駆けこむ姿を見ては、何も疑わず暮らすことなどできようはずもありません。
このままヨシ子はそのうちに抱えた闇を肥大化させていってしまうのでしょうか。
そのさきに待っているのは、間違いなく……破滅です。
そしてヒロ子もまた、葉蔵の欲望に呑み込まれていき……!!

最終巻となる第3巻で、とうとう大きく物語を変えてきた伊藤先生。
ここからクライマックスにかけて、大筋だけはそのままに、それ以外の部分にかなり手を入れてくださいます!
葉蔵はこの後原作通りある場所に行くことになるのですが、そこで思いもよらない人物と出会うこととなり……!!
本作の幕開けを飾った、原作者である太宰先生のパート。
そのパートが、ただ存在していたわけではないことがわかるクライマックスは絶対に見逃してはいけません!!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!