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今回紹介いたしますのはこちら。

「もっこり半兵衛」第1巻 徳弘正也先生 

集英社さんのヤングジャンプコミックスより刊行です。 


さて、 徳弘先生の最新作となる本作。
「黄門さま」最終巻刊行後ほどなくしてグランドジャンププレミアムで第1話が発表された本作ですが、単行本1巻分のページ数がたまったのは17年の11月!
単行本刊行までに大変時間のかかってしまったこの作品、徳弘先生の好む時代劇となっております。
その気になる内容はと言いますと……?



半兵衛は自宅で眠りについておりました。
ですが何か良くない夢を見ているのか、わけあっていなくなった妻の名前を呼んでは、目から涙を漏らし、股間からいやーんな液体を漏らすのです。

そんな半兵衛は38歳。
今は独身ではありますが、貧乏長屋で娘と二人、それなりに幸せに暮らしております。
そんな彼がしている仕事は、普通の人とはちょっとだけ違います。
彼が動き出すのは、暮れ六つ、午後6時半ごろ。
この時代、部屋を明るく保つことにとんでもないコストがかかる時代でしたので、暗くなってくれば町民たちは早々と床に就いていました。
夜の江戸の街で歩くのは、おばけかいわくつきの連中くらいのもの。
そんな夜の街を、ちょうちんをぶら下げて歩くのが半兵衛なのです。
まだ幼い一人娘のさおりはおるすばん。
もちろん女の子一人を家に残していくのは不安もありますが、さおりは気丈にふるまってくれますし、貧乏長屋のボロボロの壁からは隣に住んでいるばーさんが顔をのぞかせて様子を見てくれていますので、とりあえずは安心です。
さおりとばーさんに見送られ、半兵衛はちょうちんの灯りを頼りに街を歩き始めました。
これが半兵衛の仕事。
半兵衛は、夜の江戸の治安を守る夜回りを生業にしているのです!

事の起こりは8年前でした。
赤子だったさおりを背負い、まだ来たばかりの江戸の街を歩いていた半兵衛。
すると、夜の闇にまぎれ、誰かが襲われている場面に鉢合わせしてしまいました。
そんなシーンに直面しても、江戸はすげえな、とどこかのんきな半兵衛。
襲われている人がいよいよ危ない!と言うところで、半兵衛はその人を助けてあげたのです。
過去いろいろとあったのですが、半兵衛はものすごい剣術の腕前を持っていまして。
瞬く間にその襲い掛かってきた男を始末したのですが……助けてあげた人と言うのが、徳川綱吉時代の大老である柳沢吉保だったのです!
綱吉の死とともに失脚した彼は、人々からは無能な老中として評価されていました。
ですが世間の評判とはちょっと違い、彼は彼なりに江戸のことを考えている人物だったようです。
半兵衛の腕に惚れこんだ吉保は、まず半兵衛を柳沢家への仕官をしないかと誘って来るのですが、ここに至るまでの過去のいろいろのせいで、半兵衛は侍暮らしにほとほと嫌気がさしていまして。
あっさりとその仕官の道を断ると、吉保は変わりとばかりにこう提案してきました。
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ならば江戸の用心棒はどうじゃ、と!

江戸の町は、250人の町奉行の役人が治安を守っています。
ですが、その中で街を歩いて見回る同心はたったの6人だけ。
いくら江戸の町が狭いとはいえ、流石にそれでは手が回りきるはずもありません。
政治家として庶民のために何一つできなかったと悔いていた吉保は、せめて何か一つくらい人のためになりたい、と半兵衛に私財をなげうってお願いをしたのです。

それ以来、毎月キッチリと納められる30本のろうそくと、給金となる1両。
それはお願いされて5年後に吉保がなくなった後も今もなお続いているのでした。

毎月一両、貧しさにあえぐと言うほどではありませんが、決して多くないそのお給金。
半兵衛はその金で文句ひとつ言わず夜回りを続け、そして時には貧しさにあえぐ夜の街角に立つ女性、夜鷹の病気の治療代を恵んであげるなど、周囲には「仏の半兵衛」とまで呼ばれていました。
……まあちょっと……いや、だいぶスケベなところがありまして、何かにつけていろいろ想像して股間を元気にしている為、「もっこり半兵衛」とも呼ばれていたりするのですが!

そんな半兵衛が、商人の大店が並ぶ、庶民の街の中でも裕福な者達の住むあたりに差し掛かった時のことです。
その中の一軒から、いかにも泥棒、と言った感じの人物が一人出てきたではありませんか!!
こらぬすっと!とその人物をつかみ、身ぐるみをはがしますと……
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なんとそこから出てきたのは、美しい顔と見事なお胸!!
思わず興奮してしまった半兵衛、その隙をつかれて後ろから思いっきりだれかにどつかれて倒れてしまいます。
そのどついてきた男は、盗人の女を「お嬢様」と呼び、服を取り返してその場から立ち去ってしまいました。
……が、実は半兵衛、気絶などしておりません。
密かに様子をうかがっていたようで、立ち上がり、ええおちち見たなと別のところも立ち上がらせて先ほどの出来事に首をかしげるのです。
腑に落ちないな、女盗賊にしちゃおちちが綺麗すぎるし、相棒がお嬢様何て呼んでた。
彼女が出て来たところを見てみれば、大黒屋と言う大きな米問屋。
彼女の服の切れ端からは、高給な白粉の匂いが漂ってきています。
その素性が推察できた半兵衛は、そっと彼女の後を追いかけました。
すると彼女は、相棒と一緒に船に乗って川を下り、貧民街のほうへと向かっています。
そして群がる貧民たちに、おそらく自宅からとってきたものであろうお金を投げ、恵んでいたのです。
享保の義賊か、楽しそうに恵んでやがる。
女ドロボー、今夜は見逃してやるよ。
半兵衛はそうつぶやいて立ち去るのですが……その際に、気になる言葉も残していました。
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だが、貧民がみんな善良とは限らねーぜ、と。
……半兵衛の心配は、ほどなく現実のものとなってしまいます。
米の大問屋の一人娘であるお米は、その日も貧民たちに施しをしようと出かけ、そこで……!!



と言うわけで、本作は半兵衛が遭遇する様々な事件を描いていきます。
徳弘先生の持ち味である、コミカルにエロスとバイオレンスを描いていく作風は健在。
ものすごい実力を持つ主人公が、様々なワケありの女性や、内に秘めたもののある男たちと出会いっては巻き起こっていくトラブルを解決していきます。
女性の色香に迷ったりもしながら、決める時は決める!というお話の基本系の中で、シリアスでいてくだらない、人情溢れていながらブラックでもある、登場人物もレギュラーになるかと思われたキャラがパッといなくなってしまったりと、ドライなところもある……
そんな感じで、徳弘先生ならではの読み味の作品に仕上がっていくのです!
人情モノでありつつ、ひとつ間違えば死んでしまうような、緊張感があふれるはずの状況を、深刻にならないあっけらかんとしたコミカルさで描くのは流石と言わずにはいられません!

基本的には一話完結型の本作ですが、半兵衛の過去のことなどの大きな物語の鍵も用意されていまして、ベテランらしい細やかな物語展開も嬉しいところ。
しっかりオチの効いたそれぞれのお話に、気になる半兵衛の過去、さおりの絡む半兵衛のこれから尚など、見どころは満点。
第2巻がいつになるのかはわかりませんが、今からその日が楽しみでなりません!!

とはいえ、あとがきによれば本作が掲載に至るまで、いろいろな雑誌で「時代劇は厳しい」と(丁寧に)言われて雑誌掲載にこぎつけるのが難しかったとのこと。
結局本作は掲載時のアンケートで人気1位を取ったりもしているようなのですが、「ふぐマン」のころから徳弘先生はアンケートは取るけど単行本が売れない感じが続いているようで……
第1巻とは言っていても、2巻が出るかはきっとこの単行本の売れ行き次第!
ご興味のある方は、是非ともご購入下さいませ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!







……ところで徳弘先生、時代劇が描きたいなら「コミック乱」系って手もありますけど、そっちはどうなんでしょうか……!?