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今回紹介いたしますのはこちら。

「僕たちの新世界」第1巻 せきやてつじ先生 

秋田書店さんのヤングチャンピオン・コミックスより刊行です。


せきや先生は97年にちばてつや賞で準入選、99年に入選を果たし、00年でデビューした漫画家さんです。
代表作は2シーズン8年28巻にわたる長期連載となり、ドラマ化も果たした料理漫画「バンビ~ノ!」。
講談社さん、小学館さん、竹書房さんと様々な雑誌で精力的に作品を発表してきたせきや先生ですが、今回の作品は秋田書店さんの別冊ヤングチャンピオン。
新天地で描くせきや先生の新作、その内容はと言いますと……?



電車が駅に到着しました。
西寺遼太がその駅に降りますと、ホームで立っている顔見知りを発見します。
眼鏡をかけたショートカットのその女性は、神薙絢女。
絢女は遼太と英文のクラスが一緒、なだけでなく、ちょっと目立つ存在であったことから、遼太はすぐに彼女に気が付きました。
この辺に住んでるの?俺今日は親せきの家に行くとこなんだけど、と世間話をしようとしたのですが、彼女は人と待ち合わせをしてるから、と取り付く島もありません。
遼太もその雰囲気を感じ取り、悪いね、とすぐに別れを告げて立ち去るのです。

遼太は、高幡に住む大学一年生です。
高校時代に思い描いていた大学生活とはちょっと違う日常が待っていたものの、住めば都とはよく言うもので、今はすっかりこの高幡の何温変哲もないところが好きになっていました。
……が、そう思っていたのは、彼女と知り合うまでのことだったのです。
神薙絢女と。

その日も彼女は講義中に居眠りをしておりました。
毎回、毎日のように授業中眠っている彼女、先生にまで何しに学校来てるの、と言われてしまう始末。
遼太の友人である有馬照彦も、ちゃんと化粧したら相当美人だぞ、などと彼女をなんだかんだチェックしていたようです。
そんな二人の絢女の印象は、ナゾの女。
二人は興味にかられ、何となく彼女を尾行してみることにしました。
すると彼女……コンビニで1時間も何やら立ち読みしています。
若い女のやる事か、暇なやつだ、と自分たちのことを棚に上げてそんなことを言いながらその様子をうかがっていた二人ですが……ほどなくして、思いがけない事件が起こってしまったのです!
コンビニから一人の少年が飛び出し、そこに車が突っ込んでいく、と言う……!!
二人が危ない、と叫んだ時にはもう手遅れ。
少年はなすすべなく惹かれてしまう……と思われた瞬間、
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絢女がその少年を引っ張り上げて助けたのです!!

少年を注意し、お店にも飛び出し防止のポールを立てるようにしてくれとお願いしさっそうとその場去っていった絢女。
その翌日は何をするかと思えば……公園のベンチでただ座っています。
お菓子を食べ、ジュースを飲んで時間を潰しているように見える彼女、時折双眼鏡で何かを確認しているようですが……
やがて、何かを見つけたのでしょうか、彼女は立ち上がり、双眼鏡で覗いていたほうへ走り出しました!
彼女は一軒の家へ着くと、一心不乱に呼び鈴を鳴らし始めるではありませんか!!
そして家主が出てこないと見るや、バッグの中から金づちを取り出し、迷いなく窓ガラスをたたき割るではありませんか!!
そしてできた穴から手を突っ込んで鍵を外し、中へと踏み込んでいったのです!!
一体何をやってるんだと驚愕する遼太でしたが、照彦はその家に起きている異常に気がついていました。
家から黒煙が立ち上っている……!?
絢女は消火器でその家に発生したボヤを消し止め、中で苦しんでいたおばあちゃんを助け出したのでした!!

二人は彼女に称賛の声を投げかけました。
凄いね、昨日も今日も。
君がいなかったら子供もおばあちゃんも危なかった。
そう言われた絢女は……他人のふりをして逃げようとしたものの、流石にそれは無理と言うもの。
ようやく追いついたところで、改めて彼女に疑問を投げかけたのです。
あの人達が危ない目に会うのがわかっていたのか、と。
彼女は、くだらない好奇心で首を突っ込むな、好きでこんなことをしているわけじゃない、と不機嫌そうに言うのですが……ちょうどその時、彼女のお腹が鳴ってしまいました。
二人は、とりあえず追いかけてしまったお詫びにとご飯をごちそうすることにするのでした。

ご飯をおごったおかげで彼女の気も緩んだのでしょう、彼女はあの二つの事件が起こることがわかっていた、と言うようなことをこぼしてしまいました。
いよいよその理由を聞こう、と言うところで、調子に乗ってガンガン酒をあおっていた絢女、トイレに駆け込んでいってしまいます。
その際、床に荷物をぶちまけていってしまい、二人はそれを拾ってあげるのです、が……そこに、とんでもないものが混ざっていたのです。
それは一冊のスクラップブック。
中にはびっしりと写真、地図のコピー、そしてその写真に関してのメモが刻み込まれています。
どうやらそれはすべて事故、事件現場の写真のようなのですが……写真の右下に表示されている時間が妙でして。
特にひどい事件である、高幡不動駅前35人死亡、と言う事件に至っては……2018年、10月18日と記されているではありませんか!
一体これはどう言うことなのでしょう。
勿論過去そんな事件なんて起きていないのですが……
首をかしげながらページをめくると、そこには今日の日付で、先ほどのぼやが起きた家が燃え盛っている写真が出てきました。
寝たばこで炎上、1名死亡。
そう書いてあるのですが、実際には先ほどの通り、未然に彼女が防いだおかげでこんな事態にはなっていません。
ますます謎の深まるスクラップブックですが……何勝手に見てるのよ、トイレから帰ってきた彼女がそれを奪い取ってしまいました。
が、正直を言えばこの件は彼女に実際聞いてみるのが一番確実でしょう。
どう言うことなんだ、と尋ねてみると……彼女はしぶしぶとんでもない真実を明かしてくれたのです。

彼女の話はこうでした。
彼女の祖父には予知能力があり、未来の事件を写真に取ることができた、と。
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このスクラップブックには未来が予言されてる、でもさっきみたいに先回りすれば未然に防げる。
未来は未来でも修正可能な未来よ!

……そんな突拍子もない話、おいそれと信じることはできません。
できませんが……彼女のしてきた行動を見て、そしてあの駅前の惨劇の写真を見て、遼太の心はざわついたまま収まらないのです。
何の変哲もない街だと思っていた高幡。
変わり映えのない日常が続くと思っていた自分。
ですがそれは、彼が確かに見たものによって、そうではないこのではない、と思い知らされることとなってしまいました。
彼が見た、駅前の事件の写真。
そこには
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首だけになった自分が、しっかりと映っていたのですから!!



と言うわけで、予想だにしなかった死の宣告で始まる本作。
未来がわかると言う写真を手掛かりに、一人で少しでも多くの命を救いだそうと奮闘する絢女。
その孤独な戦いを知った遼太と照彦は、彼女を手伝おう、と自然に思ったかもしれません。
ですがそれは、その写真によって一気に色合いが変わることとなってしまうのです。
このままでは、この平和な街に数十人の死者を出すとんでもない大事件が起こってしまう。
しかも、その犠牲者の中には自分も含まれている……!
そうなれば、もう他人事などと入っていられないでしょう!!
しかしその活動が夜遅くになることも多く、ざっくりした時間しかわからないと言うことは、怪しい時間十ずっと気を貼って見張り続けないといけないわけで。
その大変さは想像を絶するものになるのです。
そして物語が進んでいくにつれ、一つ一つの事件を解決していくつもりだった一同に驚きをもたらすある事実が見え隠れし出し……!?
運命に抗う少年たちの奮闘を描いていくお話と思いきや、驚くべき急展開が待っている、本格的なドラマが幕を開けるのです!!

本作の主人公三人は、それぞれ違った性格ではあるものの、内に強い情熱を秘めていることは共通しています。
熱い気持ちを持つ主人公たちの、青臭く頑張る姿はせきや先生の持ち味が存分に発揮されていまして、今巻のうちに明かされる絢女の孤独な戦いに至るまでのドラマなども明かされ……その奮闘ぶりを思わず応援してしまうことうけあい!
先生の力のこもった線は、そんなキャラクターたちをパワフルに彩ってくれ、ドラマ部分だけでなく絵の部分でも一層の感情移入をさせてくれるのです!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!