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今回紹介いたしますのはこちら。

「忘却のサチコ」第8巻 阿部潤先生 

小学館さんのビッグコミックスより刊行です。



さて、当初は俊吾さんのことをつかの間忘れるためにおいしい食事を求めていたものの、最近はすっかり食事そのものを楽しんでおられるサチコさん。
今日も今日とて、仕事とお食事に全力で打ち込むのです!


ある日の事。
いつものように、美酒乱先生がサチコさんを呼びつけ、取材旅行の提案をしてきました。
なんでも今度は、俳句を詠みながら事件を解決していく、バイクに乗った謎の仮面男「俳句ライダー」なる作品を構想しているのだそうです。
そこで、俳人・松尾芭蕉が句を詠んだ場所に実際に足を運び、実際に体感することで物語に厚みを出そう、と言うことのようですが……
美酒乱先生の本当の目的は、サチコさんと二人っきりで旅行すること、なわけで。
毎回毎回こうして適当な理由を作りだしては誘っておりまして、毎回なんだかんだと断られたり、トラブルに見舞われたりでサチコさんの一人旅になってしまっていました。
美酒乱先生も今回は正直ダメもとで提案してみたようなのですが、意外にもサチコさん、今回は色よい反応を示します。
ここぞとばかりに、一冊のお手製の冊子を取り出す美酒乱先生!
有名な句が集中している山形を美酒乱先生とサチコさんの二人でめぐるための、様々な情報が記されたこの冊子、名付けて「美酒乱ガイド」!!
サチコさんはさっとそれを受け取って中を見てみますと、ざっと見ただけでもわかるほど綿密に構成されたプランがぎっしりと詰め込まれております。
自信作だと笑う美酒乱先生ですが……サチコさんはむしろ、この力作を作り上げるのにどれだけかかったのかが気になってしまいました。
率直に尋ねてみますと、なんでも3日がかりの対策なのだとか。
……ちなみに、今月の締め切りは5日後です。
こんなガイドを作っている時間があれば……!!
こうなればもういつもの展開です。
美酒乱先生には執筆に集中していただきまして、サチコさんはこのガイドを活用して山形へと向かうことになったのでした!!

準備は万端、いざ山形へ……と言うところで、いきなり出だしから躓いてしまいます。
なんと、天候不順の影響で山形に向かう新幹線の運転が見合わせられていたのです。
一刻も早く山形に向かわなければならないと考えたサチコさんは、すぐにほかの交通手段を検索。
どうやら2時間後の飛行機に乗ればそれほどスケジュールの狂いなく山形に行くことができそう……なのですが、そこでサチコさんは見逃せないものを発見してしまいました。
明らかに道に迷っている様子のおばあさんを……
今は急いでいるときですから、スルーして飛行機へ向かうことも一瞬脳裏にはよぎりました。
ですが……やはりサチコさん、そんなことはできませんで、おばあさんの道案内をする決意をします。
ちなみにおばあさんが探し求めていたのは……京葉線のホーム。
……サチコさんは思いがけないタイムロスをしてしまうのでした!!

なんとかかんとか山形にたどり着きました。
悪天候と聞いてはいたものの、驚くほど晴れていまして……これならばプラン通り各地を巡ることができそうです。
最初に向かったのは、天童市の公園にある句碑。
ここではあの誰もが知る「古池や 蛙飛び込む 水の音」の名句が生み出されました。
芭蕉が句を呼んだその場所で、その時の芭蕉の気持ちに思いをはせる……
思いの他その体験は興味深いもので、サチコさんはこの旅の楽しさに気付くのでした。

次に焼てきたのは、山寺駅。
目の前の山に立石寺がありまして、そこであの「閑さや 岩にしみ入る 蝉の声」と言う句が詠まれたのですが……
いざ山に登ろうと言うところで、サチコさんの腹の虫が騒ぎ始めます。
朝からバタバタしていて、何も食べていなかったのですから仕方がないでしょう。
サチコさんは美酒乱ガイドを参照し、駅前にあるお店に向かいました。
ここで一押しなのが……山形名物、「芋煮」!!
入店前から決めていたそのメニューを、サチコさんはすぐに注文するのでした。

暖かな湯気とともに運ばれてきた芋煮を早速いただくサチコさん。
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芋煮の芋とは里芋なのか、と考えながら口に運びますと……里芋特有の、ほくほくでありながら口の中でとろけるあの感覚が口の中に広がっていきます!
これなら何個でも行けそうだ、と口に運んでいきますが、だからと言って里芋だけが芋煮のすべてではないのです。
牛肉、ゴボウ、ネギ、シメジ……それらのわき役もいい仕事をしてます!
牛肉の柔らかさ、ゴボウとねぎのシャキシャキ感、それらが食感に変化を産み、それぞれのおいしさを一層際立てていて。
そんな食材の数々をまとめ上げるスープの味と言ったら……!
甘口のしょうゆベースの口当たりのよさに、具材の味が染み出すことで独特のコクと深みも生まれているのです!!
きっと芭蕉さんも芋煮を食べて創作のインスピレーションを高めたのだろう、などと考えていると、自然にサチコさんはこんな句を詠んでいたのです。
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芋煮かな ああ芋煮かな 芋煮かな。
……すぐに、山形なのに宮城の句を詠んでしまった、と頭を抱えるサチコさん。
お腹も膨れ、これで何の憂いもなく山を登れると思ったその直後、サチコさんが再び頭を抱えることになろうとは……!!
お店を出ようとしたサチコさんの前に襲い掛かる、
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大雨!!
このとんでもない大雨では……山は登れない……!?
サチコさん、またも大ピンチです!!



というわけで、山形編が大ピンチを迎える今巻。
美酒乱先生のおぜん立てに従い、山形のあちこちをめぐる旅をしなければならないところでしたが、いきなり襲い掛かってきた豪雨……
しかも困難はこの豪雨だけではありませんで、また思いもよらないトラブルに襲われてしまい……!
そんな苦境の中でも、サチコさんは仕事に一生懸命!!
彼女の奮闘も見逃せないところですが、やはりその試練の旅の中の清涼剤となる食事こそが必見です!
鮎の塩焼き、金華豚のとんかつと、食欲のそそられる料理が登場し、サチコさんはいつものステキな表情でそれを召し上がってくれますよ!!

このほかにも山形編と同クラスの中編となる北海道編や、京都へ行ってみたりと遠距離の旅を収録。
お近くの美食ももちろんありまして、そちらでは担々麺やかき氷と言ったものをお召し上がりになっています!!
前巻などで大きな事件があったせいか、今巻では俊吾さんがらみのお話の展開はなし。
素直にお食事を楽しんでいるサチコさんや、ちょっぴりいつもと違うサチコさんの姿を見られる一冊になっていますよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!