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今回紹介いたしますのはこちら。

「呪みちる初期傑作選2 火星高校の夜」 呪みちる先生 

トラッシュ・アップさんより刊行です。

さて、ホラー漫画界で長く活躍をつづけながら、単行本はあまり刊行されてこなかった呪先生。
ですが近年、トラッシュ・アップさんによる作品集の刊行が開始されまして、すでに絶版になった作品集に掲載されていた作品を採録した単行本や、単行本未収録作品を集めた単行本も刊行されました。
今巻は呪先生が過去出された短編集から、前巻「人造人間の怪」に収録されなかった作品を4編と、単行本未収録であった作品4編を収録した作品集となっています。
今回はその8編中から、本作中最悪のおぞましさを誇る一遍、「怪談 乳房榎茸」を紹介したいと思います!


タクシーに乗り、駅に向かっている男。
運転手がこの道20年のベテランと聞き、前々から気になっていたあることを尋ねてみることにしました。
ビルとコンクリートだエア家の街中にポツリと現れる森。
それもかなり深い森が島のように残っていることがある。
地上げの後ってわけでもなさそうだし、あれは何なのだろう、と。
タクシーの運転手は答えました。
地上げで残った土地でなければ、東京には神社や寺やらが結構ありますから。
……そう答えた後、こう続けます。
ただ、中にはわけありで使えない土地もあるって言う話ですよ。
運転手は、そんな「わけ」の一つを話し始めるのでした。

正一は、弓子という美しい女性と浮気をしていました。
その二人の会話で出てくるのは、いつあの土地が自分たちのものになるのか、という話題ばかりです。
正一は依然アルバイトで守衛をしていたのですが、その時勤務先の商社の重役の縁者で、都内に広大な敷地を持つ資産家の娘、ヒル子と知り合い、見初められて結婚をしました。
幼いころ大事故に会い、その後遺症に苦しむヒル子。
母子二人だけの家庭の上、ヒル子は醜く余命もわずか……正一が婿養子となったのは、願ってもないことでした。
うだつの上がらないフリーターであった正一も、ヒル子との縁談のおかげで商社に勤めることもでき、両者ともに得るものが大きかったといえましょう。
やがてヒル子の母親は死去。
正一からすれば、数年我慢すれば商社勤務という仕事はそのままに、広大な土地が自分のものになる……
その日を待ち望みながら、そのあとのパートナーと決めている女生と通じ合っていたわけです。

そんな結婚から、6年が経ちました。
会話一つない朝食を終え、今日も遅くなるから先に休んでいろと言い残して会社にやってきた正一。
何事もなくいつもの一日が過ぎていく……かと思いきや、突然会社に正一宛の電話がかかってきました。
ヒル子が救急車で運ばれた、というのです。
ようやくその日がやってきたのか、と内心喜んでいたのかもしれません。
とにかくその電話に出て、医者に病状を聞いてみると……なんということなのでしょう。
懐妊した、というではないですか!!

とうとう正一は我慢の限界を迎えてしまったようです。
自宅で、ヒル子を絞殺してしまいました!!
病弱じゃなかったのか、余命は3年じゃなかったのか。
挙句に今度は子供だと、ふざけやがって!!
忌々し気に横たるヒル子を見つめる正一。
やがてその場に弓子が姿を現します。
ようやく終わった、この気味悪いところでよく6年も我慢した、でも今年中にはすべて燃えて灰になる、ここには高級マンションかオフィスビルが建つだろう。
そう言いながら、口づけを交わす二人……
その時のことです。
息絶えていたはずのヒル子の目がぎょろりと動き……
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弓子に飛び掛かって左胸に食らいついたのは!!!
お前が正一さんを誘惑してたのね!この胸で、この体で誘惑したんだな!!憎い!憎い!!
ギリギリと食い込んでいくヒル子の歯……
どれだけ弓子が引きはがそうと力をこめても、正一が頭に灰皿を叩きつけても、その食い込んだ歯ははがれません。
そのヒルこの執念は、その身に宿した子供から来ています。
浮気をしていることは知っていたが、自分には子供ができないからとあきらめていた。
でももう違う、赤ちゃんのためにもあんたを許さない!!
……ですが、そのヒル子の希望はすぐに打ち砕かれてしまうのです。
力をこめすぎてしまったのか、彼女の腹の中から……ぼとぼとと零れ落ちてしまったのです。
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それは胎児ではなく……大量の肉の球……奇胎でした。
頼みの綱をうしなったヒル子は、ふらりと立ち上がり……恨めしそうな視線を残し、出ていきました。
このまま放っておけば何が起こるかわからない!
そう考えた二人は慌てて後を追うのですが……見つけた時はもう、歩道橋の上から車が行きかう道路に向かって飛び降りたところだったのでした。

ヒル子の死は、流産のショックによる自殺ということで片が付きました。
万事うまくいった。
そうほくそ笑む正一は、弓子に迫るのですが……なぜか弓子はそれを拒むのです。
釈然としないものを感じながらも、正一は弓子を連れて進行を始めた工事の様子を見に行くことにします。
工事現場に行くと、工事の業者さんが突然二人を呼び止めました。
導かれるままついていくと、そこにはなめこや榎がびっしりと生えた神社がありました。
茸は木の子と言って、粒がそろってたくさんできるから縁起がいい、熱心に信心していらっしゃったんでしょうと説明してくれた業者さん。
ですが正一と弓子には、そのびっしりと生えた茸があの夜にヒル子の中から出てきたものと重なって見えてしまい……
何が子宝だ!こんな気味の悪いもの、冗談じゃない!!
そう言って正一は現場にあったスコップをたたきつけ、茸をめちゃくちゃにかき回すのです!!
その時、突然正一の鼻から血が流れ始めました。
……流れ出る鼻血は止まらず、ぽたぽたと地面を赤く染めていって……

病院から帰ってきた正一は、顔中包帯だらけの酷いありさまになっていました。
病院に行くと、鼻の中にできるポリープ、通称鼻茸ができていると診断され、簡単な手術で治るからとさっそく治療をする子よになりました。
ですがなぜか手術中麻酔が効かなくなったり、医師の手先が狂ったりとトラブル続きてで手術が長引き、とうとう4日間も入院することになってしまったのです。
その間、弓子も会社を休んでいたのだとか。
何かあったのか、と由美子に尋ねてみると……弓子は顔面を蒼白にして、服をはだけて胸を見せながらこういうのです!!
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アイツに噛まれた傷が治らないのよ、見てよ……これ!!
その胸には、まるで茸が生えたようにできものがびっしりとできていて……!!
とってもとっても生えてくるの、まるで茸みたいに!!
これはヒル子の呪いなんだわ、どうしよう、私の胸が茸に食われちゃうよ!!
正一さん、私がヒルコのように醜くなっても見捨てないでよ!!
……それが……正一が弓子を見た、最後でした。


というわけで、自業自得とはいえ、悍ましい呪いに苛まれることになる正一。
恐怖はこれで終わりではなく、ヒル子の呪いはまだまだその手を緩めずに襲い掛かってくることになります。
ここでもがき苦しんで死ぬのが普通の怖い話。
ですが本作は、そうではない一味違った展開を迎えることになるのです!!
形となったヒル子の呪いを前にした正一はどうするのか!?
恐怖と驚愕の待つこの後の展開も必見です!!

そしてこの他の作品も注目作ぞろい。
トラウマに悩む才女に迫る、怪しげな女生徒の狙いとその真相を描く「呪いのグレートハンティング」。
人を引きつける怪しい色を生む地獄虫に来るわされる男の物語、「地獄の色」。
開かず美術準備室に大量に残されている不気味な絵、「顔のないデッサン」。
奇妙な噂の堪えない学校の真実、「火星学校の夜」。
この他にも、どれも毛色の違う作品ながら、それぞれとんでもなく強烈なオチの効いた「暗黒深海」「ジグ・ザグ・ボックス」「夜空に消える」といった名作ばかりが収録されているのです!!
ホラー好きならば間違いなし、そうでなくともこの気味悪くも美しい筆致に惹きこまれることでしょう!!

こうなると、他のみ収録作品や、最近の作品を集めた更なる単行本の刊行も期待せざるを得ません!
先生初となる現在連載中の最新作、「エレノイド・ミッシェル」がまとまるのも楽しみですし……
続巻を早く!!と声を大にしてお願いします!!各出版社の皆さま!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!