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今回紹介いたしますのはこちら。

「剣術抄」第1巻 とみ新蔵先生 
リイド社さんのSPコミックスより刊行です。

とみ先生は実兄である大物劇画家、平田弘史先生のアシスタントを務めたのち、64年にデビューをした大ベテランの漫画家さんです。
平田先生と同じく、時代劇画を得意とされているとみ先生、本作ももちろん(?)時代劇画。
ですがとみ先生ご自身が最終作とおっしゃられているらしい本作は、先生がご自身の経験してきた物をすべて詰め込みまくったかのような、なんだかものすごい作品になっているのです!!


物語は、一人の青年が、老人に斬りかかる所から始まります。
自宅で横になっていた老人に斬りかかるものの、あっさりと受け流され、地面に転がされてしまう青年。
成年の名は吾作と言いまして、この老人が日本一の剣術使い、辻月丹の孫、辻月探だと聞きつけて訪ねてきたらしいのです。
こうして切りかかったのも、月探の腕前を身をもって知るため。
そしてその剣術の腕が確かだと確認したうえで、「悪人どもを殺す」為に剣術を教えてもらいに来たというのです!
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当初は相手にしていなかった月探。
しかし、もし弟子になれなければ死ぬとまで決意していること、そして月探の家にたまにやってきてはキャッキャウフフする女性、蘭の口添えしたこともあって何とか吾作は弟子入りすることとなりました。
この欄という女性、なんか羽衣のような服を着ていますし、空を飛んだりふっと消えてみたり、主食は霞だとか630歳くらいだとか言いまして……なんかあれです、天女的な人です。
もちろん不思議に思う吾作ですが、月探は気にするなの一言。
盛んなお年頃(なんと18!)の吾作は気になって仕方ありませんが、ともかく今は剣術!
月探に教えられ、今までほんの少しかじっていた剣術の認識ががらりと変わる教えを受けるのでした。

修行の続くそんな日々の中、一人の男が月探を尋ねてきました。
宍戸梅軒の子孫と名乗るその男、名高い月探に挑みたいとやってきたのです。
男の使う武器は鎖鎌。
相当の腕前を持っているようで、自信をみなぎらせているのですが……月探はそんな彼に対してとんでもないことを言い出すのです。
鎖鎌は「外物」で、戦場では使えない、邸内への討ち入りでも、林の中の敵へも使えない、と!!
ですが男は、自分は忍びの技に命をかけている、とそんな言葉にも動じません。
相手に惹く気がないと感じた月探、ようやくやる気になったようなのですが……刀を吾作に預け、木刀を構えるではないですか!
これではなめられていると思うのも無理はありませんで、男は怒りをあらわに。
しかし月探は、木刀でも骨は砕ける、と意にも返さず構えをとるのです。
男は怒りのままに、まず分銅で足を狙いました。
が、月探は苦も無くそれをひょいとかわし、続けて放たれた肩口への攻撃も、身をかがめて木刀で受け流して見せたのです!
分銅は速く見えるが、剣先よりも遅い。
月探はそう言い切って、徐々に間合いを詰めはじめました。
その言葉が嘘でないことを示すように、次は顔面を狙って飛んできた分銅を一歩大きく右前に踏み出すだけで回避!
そのまま一気に距離を詰め、袈裟切りを仕掛けました!
しかし相手もさるもの、鎖で木刀を受け止めて見せました!
逆に鎌で月探の腕を掻こうとしたのですが、月探は左腕を木刀から話して藩身になることでそれをすかし……木刀を男の首筋へと突きつけたのです!
真剣ならば首の動脈を切られて終わっていたでしょう。
これ以上ないくらいの完敗。
男は素直に負けを認めてすごすごと帰っていく……かに見えたのですが、突然踵を返してこんなことを言い出すのです。
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実はわしは、手裏剣の術こそ歴代伊賀者の中で随一でないかと自負いたしやす。
男は懐から手裏剣をとり出し、構えました。
期せずして始まる第2ラウンド。
さしもの月探と言えど、飛び道具相手に無事勝利することができるのでしょうか!?
月探は全く慌てていないように見えるのですが……


というわけで、吾作の修業が始まる本作。
吾作の剣術修行と、名声狙いの武芸ものとの戦いが本作のメイン……ではなかったりします。
なんとこのあと、月探と吾作は……タイムスリップ!!
様々な時代、様々な土地の様々な猛者と戦っていくことになるのです!!
と言ってもそれはあくまで吾作の修業の一貫。
あくまでも吾作の目的である、悪人を倒す力をつけるための場数増やし的なものなのです。
が、読み手としてはこちらこそがメインと言っていいかもしれません!
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古代ローマ闘士と日本剣術が戦ったらどうなるのか?
西洋のフェンシング+銃と戦ったら?
そんなドリームマッチがガンガン繰り広げられてしまうのですからもうたまらないわけですよ!!
しかも登場する人物の中には、捜索・実在問わず有名な人物も登場!!
ダルタニアン、座頭市、そして本格登場は次巻に持ち越されるもの、あの呂布までも……!!
達人、月探とその弟子である吾作がそんな猛者たちと戦って、どんな戦火を残していくのか?
もうわくわくが止まりません!!

そしてそんなバトル面だけでなく、見逃せないのは剣術の薀蓄!!
よく描写されているあんなことやこんなことが無駄だと言い切ってみたり、あの武器にはあんな弱点があると解説してくれたり。
今までの常識(?)を打ち破るあれこれに感嘆すること間違いなし!!
とみ先生ご自身が剣術をされているということもあり、説得力も抜群なのです!

さらに、月探なんかには割とスルーされているものの、吾作の過去も気になる所でして。
死を賭して悪人を殺す力が欲しい、と泣きついてくるまでに至ったその過去は凄惨極まりないもので。
命を描けた真剣勝負を頻繁に行うのに、どこかとぼけた描写も多い本作。
シリアスなお話の展開も気になる所です!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!