ni0
今回紹介いたしますのはこちら。

「二兎物語」第1巻 滝沢聖峰先生 
リイド社さんのSPコミックスより刊行です。

滝沢先生は90年にデビューしたのち、空戦モノや時代モノを描いてきたベテランの漫画家さんです。
そんな滝澤先生が今回描くのは、なんとリアルな江戸時代における画業、というあまりない題材!
果たしてその内容は……?


朝早く、筆をおく男がいました。
彼の名は白河。
侍の身でありながら絵で身を立てようとしている彼は、徹夜で仕上げた猫の絵を納品先の旦那のもとへと持っていきました。
今回の絵は猫。
子供たちが遊ぶおもちゃの絵を描いていったのですが、絵を見た旦那は一言こう言うのです。
ありきたりですな!
どこかの師匠のまねで済むのならわざわざ白河にには頼まない、これといった師についたことがないというところを買って頼んでいるんだ、と。
とはいっても期日は今日。
オリジナリティのある作品を今日中に考えて描けというのはあまりに難しいでしょう。
今回は……と言うところで、白川は口を開きます。
やります、やらせてもらいます、と。

侍が絵の内職をするのは一応ご禁制。
そこで白河は、貸本屋の二階に居候して仕事をしています。
貸本屋にやってくると、店番のまりはまだ来ていないようで戸口は閉まったまま。
店を開け、上にいるという札をぶら下げて白河は仕事をしようとするのですが……そこに親子連れが姿を現しました。
どうやらまりが行っている、文字教室の生徒とその親御さんの様子。
彼女は夕方には帰ってくると思うと声をかけると、親子はその頃にまた来ますと立ち去っていくのでした。
いつまでも居候に甘んじているわけにもいきません。
ここはまりの手習い所でもあるわけで、その邪魔にもなるでしょう。
墨をすり、筆を手に取る白河。
そして、お金のためにもと真剣そのものに絵を描き始めるのです。
そのまりが帰ってきて、白川の様子を見て立ち去っていったことに気が付かずに。

一息つくかと下に降りると、そこには握り飯が用意してあります。
なんだ帰ってきているんだ、とその姿を探して声をかけようともした白河ですが、仕事が終わるまでは我慢です。
まりがなにもいわず握り飯を置いていったのも、彼女もまた同じ考えだったからにほかなりません。
思い直し、握り飯を口にしながら「師匠がいないところがいい」という旦那の言葉を反芻する白河……
その瞬間、あるものを見つけて白河はハッとしました。
師匠ならいるじゃないか!!
彼が見つけたのは……本物の猫。
ni1
彼は猫を追いかけ廻し、彼ならではの猫を描き始めたのです!

必死で描き上げた白河、急がないと夜までに帰れないと駆けだします。
息せき切って旦那に手渡した猫の絵は……「影」が付いていました。
当時の絵ではあまり影が描かれたものはないようで、その独自の着眼点に旦那はにやり。
ご苦労様、一休みしていかないかとねぎらいの言葉をかけてくれるのです。
が、白河はそれを断って飛んで貸本屋に帰るのでした。
貸本屋には、まりがまっているのですから!!

家に帰ると、笑顔のまりが出迎えてくれます。
まりは彼女の父親が倒れたという一報を聞いて実家に帰っていたのですが、それは娘を呼びつける口実にすぎませんで。
出戻りの娘が、長屋に一人住まいだから心配しているとはいえ……迷惑な話です。
そんな話をしながら、夕げの準備をしていたまり。
そのまりのうなじを見ているうちにむらむらしてきた白河、襲い掛かるように彼女を押し倒します!
ですが真理はぐるりと逆に上になり、絵を描いているのを見た時は飛び掛かろうかと思った、と返して望むところ状態!
このままご飯が焦げるのも構わずにハッスル突入……と思いきや、そこで先ほどの親子連れが来てしまいます。
なんでも生徒の子供が急に奉公に出ることになり、お別れの挨拶をしに来たようなのです。
ですがまだその生徒、ひらがなを覚えきっていません。
今この機会に覚えておかないと、これから先きっと苦労する。
そう言ってまりは、出発しなければならない翌朝までに教えてやる、と深夜の特別授業を行うことと据えるのでした!

とはいえ、そんな急にすいすい覚えられるはずもありません。
字の形事態は覚えたものの、音と形がつながらないようなのです。
そこで腕を振るうことになるのが白河。
こう言うことはきっかけだ。
そう言うと同時に、文字に何かを描きたします。
ni2
すると「ね」の字は、うずくまった猫の画に早変わり!
「ね」は、猫の「ね」。
一つきっかけができれば、あとはすいすいと行くものでして。
夜が明けることには、生徒は見事ひらがなを習得し、奉公に向かっていったのでした。
……白河からすると、まさかの完徹二日目。
なんてこった、また夜が明けちまったじゃねえか。
そうぼやく白河なのですが、まりは彼の帯をぎゅっとつかんでこういうのです。
ni3
そんなこと言っても逃がさないですよ!


というわけで、江戸の町で絵描きとして大成する日を夢見て暮らす白河の日常を描く本作。
紹介した第一話はいわば序章にすぎません。
この後から、物語はどんどんとなんていいますか、ディープになっていくのです!
第2話から早速、私家版を作って寄合で取引する……今でいうところの同人誌即売会のようなイベントを行います!!
おまけにまりのコスプレ姿まで拝めてみたり、女体化やら衆道やら号深きジャンルまでそろえてみたりと、まさに今のマニアな皆様のアレコレにに近しい風景が……!
この他にも女子同士の衆道の受け攻めでサークル仲間と揉めて脱退を余儀なくされる女子など、生々しい感じの出来事も展開。
時代考証などをしっかり行っている作品を多く生んでいる滝沢先生だけに、本当に江戸時代にこんな光景があったんじゃないか、なんて感じてしまうこと間違いなしです!

そして見逃してはならないのがまりと白河のラブラブぶり!
様々な障害が二人の間に立ちはだかったり立ちはだからなかったりするのですが、基本的にまじめな白河と、気丈で心が強いまり、そして何より二人の間にある確固たる愛の力でそんな障害なんてものともしません!
ある時は小姑、ある時は狐狸の類、ある時は白河と過去関係のあった女性、またある時はこの世のものならざる存在……
どんなものが来ても最後は二人、仲よくほっこりとお話がまとまりまして。
辛いこともないではありませんが、一話一話読後感さわやかに終わる安心の内容にしあがっているのです!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!