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本日紹介いたしますのはこちら、「暗い廊下とうしろの玄関」です。
作者は押切蓮介先生。
メディアファクトリーさんの幽コミックスより刊行されました。

さて、本作は「幽」にて押切先生が発表してきた本格ホラー読みきりを中心に、同人誌や単発で発表された読み切りなどを集めた短編集です。
押切先生といいますと、そもそもが「でろでろ」のような、ホラーな現象を殴り飛ばすホラーギャグからブレイクした漫画家さん。
その後もアクションやスリラーなどを描いていき、本気のオカルティックな、ホラーホラーしたホラーは「サユリ」位なものでした。
その「サユリ」も後半では普通のホラーではなくなっていきましたし、この作品のような真っ向からのホラーと言うのは珍しいものなのです!
たくさんのホラー短編が収録されている本作ですが、やはり今回は押切先生自身の体験を元に描かれたエピソード、「赤い家」を紹介しなければならないでしょう!!

神奈川にそのマンションはあったといいます。
二つの用水路に囲まれた、変わった立地にあるそのマンションは、血のように赤いレンガでできていました。
それだけでも何か不気味なものを感じてしまいますが……不思議とこのマンションの住人には不幸がおこるのです。
自己、病死、離散、自殺……
物心ついたときから18になっているその時まで住み続けている押切少年でも、恐怖以外の何者でもない感情を感じてしまうのです。
その日もまた首吊り事件が起きていました。
ここ数年で首吊りはもう三度目。
ここに住む老婆も、異常なこの場所からはもう離れたい、とうなだれながらあるものを指差すのです。
その指差す先にあるのは、このマンションを囲むように流れている用水路。
あの川が「いいもの」をすべて流してしまう。あれはあってはいけないものだ。
そう忌々しげに呟く老婆……
ヘドロと汚水にまみれたおぞましい色の川は見るだけでも気がめいるもの。
この川のせいか、害虫の数も非常に多く……
老婆の思わせぶりな言葉を抜きにしても、この川には良い印象は抱けないのです。

長年すんできた押切家ですが、流石にもう限界ではないかと引越しを考え始めていたその矢先のこと。
押切家がすんでいた105号室の真上、305号室の住人が首をつりました。
奇しくもその部屋は、押切少年の自室の真上。
なんとも言えない、重苦しい感情に苛まれていた押切少年ですが、まるで追い討ちをかけるかのように不可思議な事件は続きます。
305号室の住人が首をくくったそのわずか3日後……
205号室の住人が、事故死をしてしまうのです!
あまりにも連続する不幸な出来事。
押切家は早くお金をためて引っ越したい、などとぼやく他ありませんでした。
ところが不幸はまだとどまることは無かったのです。
痛ましい事故から一週間もたたないうちに……
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押切少年の父親が行方不明になってしまったのです!!
その出来事はあまりにも突然すぎて、いなくなる理由が家族にすら分かりませんでした。
靴や財布がなくなっていたので、衝動的にどこかへ失踪してしまったのか……?
押切少年の父親は変わり者だったらしく、その可能性も少なくは無かったようで。
納得できるかどうかはともかくとして、残された家族はそれを受け入れて生活を続けていくしかなかったのでした。

家族が一人へり、いっそう家は陰鬱なムードが募ってきます。
「家にいる」恐怖は強まり、ついにはトイレに、ドアが開いたままで無いと入れないほどにまで膨れ上がっていました。
家にたった一人でいたその日も押切少年はドアを開けたまま用を足していたのですが……
開いたドアの、蝶番がある側の隙間に
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小刻みに震える足が……見えたではないですか!!
直感的に、押切少年はその足が父親のものであると感じました。
ですが外に出てみれば誰もいません。
もちろんその後も、父親が帰ってくることはありませんでした。
押切少年はその足を……気のせいだと思うことにしたのです。
関係あるかどうかは分かりませんが、思い起こせば失踪する前に奇妙な言葉を繰り返していたのが思い起こされます。
くさい、部屋が凄くドブくさい。
そんな臭いは、押切少年はもちろんのこと、母も兄も感じていませんでした。
あれはなんだったのでしょうか……?
母は、父親がどこかで生きていると信じているようです。
ですが結局、父親が生きているのか死んでいるのかすらも分からないまま時は流れて行き……
もしかしたら父だけが「何か」を感じ取り、その「何か」につれられてしまって言ったのでしょうか……?

数年後。
マンションを引き払った後、押し切り少年もひとりぐらしを始めて家族がバラバラに暮らし始めてしばらくしたころのことでした。
押切少年の元に、母親から電話がかかってきました。
時間は深夜一時。
こんな夜遅くに、どうしたというのでしょうか?
母親は、ただ事ではないことが感じ取れる声でこう告げてきたのです。
お父さんがね、お父さんがいるのよ。
今、お父さんが窓の向こうにいるの。
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父はもうこの世にはいない。
押切少年は確信したのです。

あのマンションから出て、押切少年は年に二度同じ夢を見るようになっていました。
押切少年と、母と兄を乗せたバスがあのマンションの前でしばらく止まり、父が出てくるのを待つ。
一向に父は出てこず、マンションを後にする……
その何かを暗示するかのような夢を、後になって母も見ていることが分かります。
単なる心残りから来る夢ではないのか……?
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押切少年は、今でも父親があのマンションにいる気がしてならないのです……

というわけで押切先生ご自身が体験した出来事を漫画化したエピソードでスタートする本作。
押切先生は幽霊を見たことが無い、とおっしゃっているわけですが、限りなくそれに近いと言っていいエピソードには出会っていたわけです!!
ちなみにこのあまりにも奇怪で、薄ら寒いものを感じるこのエピソードには、近年になってオチがついたようです。
そのオチに関しては、本作収録の各エピソードの後に収録されている作品解説にて明かされておりますので、そちらの方も必見といえましょう!!
この他にも実話をもとにしたり、完全な創作だったりと、様々なお話が19編収録されています。
幼い日から自分にだけ見える、誰かがのぞいている小さな小窓が、歳を経るに連れて徐々に大きくなっていく「成長する小窓」。
子供向けのトランシーバーのような玩具で遊んでいたときにおこった恐ろしい出来事、「混声」。
父に絡みつくおぞましい霊をきっかけに、知らない方がいい事実を知ってしまう「咎」。
いつものコミカルな印象を完全に覆す、本格的な恐怖を描いた作品が楽しめるのです!!

そして前述した作品解説も大きな見所。
その作品の生まれた由来なんかが記されているのと同時に、ホラー関係作品を描き続けてきた押切先生の、意外な今の心境なんかも描かれていまして。
今後の押切先生の作風も左右しそうなその心境にも注目したいところです!

押切先生の本格恐怖短編集、「暗い廊下とうしろの玄関」は全国書店にて発売中です!
もしかしたら最初で最後になってしまうかもしれない、押切先生の実話怪談系単行本。
「でろでろ」でのホラーを茶化す感じや、「ハイスコアガール」での笑あり涙あり萌えもありの感じの押切先生しか知らない人にこそ読んでほしい作品ですよ!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!