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本日紹介いたしますのはこちら、「芋虫」です。
エンターブレインさんのビームコミックスより刊行されました。

作者は丸尾末広先生。
丸尾先生は80年にデビューして以来、強烈な個性を放つ作品を発表し続けている漫画家です。
レトロな絵柄と性的にもグロテスクな意味でも過激な描写を得意とし、熱心なファンも多くついています。

本作はかの文豪、江戸川乱歩先生の同名小説を漫画化したものです。
当時から色々と話題になったらしい原作で、さらに丸尾先生が漫画家。
と言うことで非常に刺激が強く、差別的だと感じてしまう描写があるかとは思いますが、こちらではそういった意図は持っておりませんのでご了承の上ご覧くださいませ。

主人公の時子は戦争で武勲をあげる須永中尉の妻です。
彼女は結婚後子宝に恵まれず、養子をとっても病死してしまうと言う満たされない日々を送っていました。
そんなあるとき、須永はシベリアへと出兵します。
時子は夫が今までのように武勲を挙げ、さらに昇進をするのであろうと思っていました。
ですが夫は戦死こそ免れたものの、大怪我を負って帰ってくることになります。

内耳と声帯を損傷して聞くこともしゃべることも出来ず、四肢のすべてを根元から失うと言う惨たらしい姿となって……
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ショックを受けた時子は心神喪失状態になりますが、須永の兄夫婦の経済的支援や、上官から無料で宿を借りうるなどの支えもあって夫の世話を続けます。
食事から下の世話、そしてことあるごとに見せろ要求してくる自身の勲章とそれをたたえる新聞……
献身的に世話をする時子ですが、そんな彼女に須永はまるで動物のように猛烈な食欲と性的欲求をぶつけてくるのでした。

やがて時子は自分の介添えなしでは何も出来ない夫を「芋虫」にたとえ、歪んだ愛情……いや、情欲を浴びせ始めます。
あるとき、誰かが……自分がいなければ額に止まった蚊さえ追い払えない、何も出来ないと須永に侮蔑の声をかけていた時子。
須永はそんな時子を怒るわけでもなく、蔑んでいるわけでもなく、どこか遠いところをみるかのようなまなざしをたたえているのみ。
そんな瞳に時子は言いようのない憤りを感じ、
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驚くべき凶行に走るのでした。
この凶行をきっかけとして須永と時子の運命が大きく動くことになるのです……


原作が短編と言うこともあり、本作も140Pほどにまとめられています。
発表当時である1929年と言う時代を感じさせる、淫猥で背徳的、退廃的なムードをそのままに丸尾先生がその個性的な絵柄で更なる異様さを加えて新たな世界を作り上げられた本作。
なんとも言いようのない後味の悪さや不快感が充満しているストーリーもさることながら、丸尾先生の描くおぞましくも美しい幻想的な作画もすばらしいの一言!
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エログロ描写が激しい物が多いのでウチではちょっと紹介しづらいのですが……
とにかくその美麗作画を楽しむにふさわしい豪華なハードカバーに216x152の大型サイズ!
圧倒的存在感を有するカラー口絵も収録した豪華な一冊です!
読み手を不思議な世界に引き込んでくれることでしょう!

巨匠の問題作を現代の奇才によってさらなる領域へと踏み入れた「芋虫」は全国書店にて発売中です。
癖、と言う一言ではいえないほど好き嫌いの激しく出るであろう世界観ですので、万人にはとてもとてもお勧めできません。
それでも丸尾先生作品でしか味わうことの出来ない味を持っているこの作品、苦手な方でなければ抑えておきたいところではないでしょうか!
さぁ、本屋さんにいそぎましょう!!


芋虫 (BEAM COMIX)
エンターブレイン
江戸川 乱歩

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