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本日紹介いたしますのはこちら、「空が灰色だから」第3巻です。
秋田書店さんの少年チャンピオンコミックスより刊行、週刊少年チャンピオンにて連載中です。

作者は阿部共実先生。
本作の紹介は「阿部共実」のテーマにてまとめておりますので、よろしければあわせてご覧くださいませ。

さて、思春期の少年少女達の心の空模様をメインに描く本作。
ホラーあり、トラウマを生むイヤな空気の物語あり、ホッコリいいお話ありの一刻の油断もならないオムニバス作品となっているのです!!

そんな中今回紹介したいのは、
今巻のラストに収録されている「ただ、ひとりでも仲間がほしい」。
中二病といえばこの作品とは切り離せない要素ですが……その行き着く先とは……?

ひたすら自分の机に向かって、ガリガリとペンを走らせている高校一年生、来生。
なにやら一心不乱に絵を描いているようです。
何を描いているのか?と興味を持ったクラスメイトの女子達が覗き込んでみると、そこには
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アバンギャルドといいますか、ドラスティックといいますか……とにかく普通の人が見ると引いてしまいかねない、激しい感じの絵が描かれていたのです。
予想通りクラスメイトの女子はうわっと距離をとり、来生さんって変わってるよね、その絵危ない人っぽいよ、と感想を述べました。
来生は何事もないかのように、そうかな?と返すのですが……

クラスの人から部内人と思われているらしいと言うことは。来生にも充分わかっています。
いじめられることこそありませんが、友人はいないので会話はありません。
ただただ1人で絵を描いているだけ。
その絵が、自分以外にとってはどうも忌み嫌うものらしく、子供のころから気味悪がられていた。
分かり合える人なんていない……
日々そう思いながら生きてきた彼女ですが、そこに声をかけてくるものが。
三人の女子生徒ですが、その中の一人は同じクラスの佐野と言う女子でした。
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佐野は同行している別のクラスの女子2人とともに、アーティスティックな作風を好んで楽しんでいるそうで。
チラッとみた来生の絵が素敵だったから、今度一緒に遊びたい、と言うのです!!
密かにその言葉を鼻で笑う来生。
ですが返答は、「別にいいけど」と言う肯定で……?

4人はホラー映画を見に行きます。
過激な表現を売りにしている監督の映画だそうで、佐野の友達二人は「いかれたサディスティックな表現は一級品」「エログロこそ表現の真髄だ」と非常に楽しんでいるようです。
ですが、佐野に感想を求められた来生はズバッと言うのです。
ギャグじゃないんだから、やりすぎりゃいいってもんじゃない。
人間は玩具じゃないから、シについてもっと真摯に扱うべきだ。
普通の人がサイコぶって作ったスカスカな作品だ、と!!
興奮しちゃったと慌てて取り繕う来生ですが、まあ新入りさんとはある程度最初は穏便にしたいと言う真理を働かせたのでしょうか。
友達二人も、私もそう思った、とあわせてくれてその場は穏便に終わります。
ですが決定的な出来事が、その後よったハンバーガーショップで起こってしまったのです!

ヤスデとかゴキブリを飼いたい、意外にかわいいよね、などと雑談をしながらお絵かきにいそしんでいた4人。
「死をポップに表現してみた」「死んだ恋人をいつまでも抱きしえる男の哀愁の絵」なる力作を披露した友達二人ですが、その絵を来生は「何それ?」と一瞥でこき下ろすのです。
続けて出した佐野の作品は「論外」。
みんなきょう気が足りない、と来生が出したのは、確かにそれを感じさせる凄まじい描きこみの絵だったのです。
友達二人も流石にキモイと漏らしてしまうのですが、来生はかまわず続けます。
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自分を解放しなきゃ。
人間が封じ込めている、不快内側の善でも悪でもない心を。
人と違い理解されない、忌み嫌われ阻害され封じ込まれていた、純真な心を……
汗だくになり、息も荒げながらそう主張する来生。
付き合いきれなくなった友達二人は、自分たちが好きなのはアートなんだ、枠からはみ出したいんじゃないんだ、といって立ち去ってしまうのでした。
コイツいつか絶対犯罪を犯すぞ、と言って消えて行った二人。
やはり自分を理解してくれる人なんていない。
普通の人間が軽い気持ちで勝手に来て、勝手に引いて去っていくんだ。
自分にはこれしかないのに、本当の自分を知ると引いていってしまう。
今回もやはり同じなのでしょうか。
……いえ、よく考えてみると、来生の様子に一切引いているような発言をしていなかった人がいるのです。
そう、最初に声をかけてきた佐野。
落胆に暮れる来生にこう声をかけてきたのです。
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来生の話を聞いて、来生に自分を解放して見せたくなった、と。

また「おままごと」につき合わされるのか。
内心ではそう思いながらも、来生は佐野の後についていきます。
案内されたのは、佐野の別荘だと言う山奥にある小屋。
山奥だから虫が多いと言う佐野ですが、大小問わず多くの虫が飛び回り、壁に張り付いている様子は「山奥だから」の一言では片付けられないような……
挙句に臭いも物凄く、正直とても別荘とはいえない環境です。
佐野はここのことは内緒だといった後、のぞき穴がひとつあけられた紙袋をかぶってくれと来生に差し出してきました。
来生はとりあえず素直にそれをかぶるのですが……その後の光景は眼を疑うしかないものだったのです!!
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「電気が悪影響を及ぼしたら軸が傾く」と言って電気を消し。
「あの二人が違うのはわかっていたが、スパイかと思って泳がせていた」と言って、顔に暗闇でもよく見える何かを塗りはじめ。
「こんな醜い姿が本当の自分じゃないと思っていた」「これじゃマゲラルタ洋館の改造使用人と変わらない」「みんな学校で小テストされて羽をちぎられている」「天使を見破る一番簡単な方法が絵だった」……
わけのわからない言葉を紡ぎ続ける佐野が放った締めくくりの言葉は、「私は私でいたいから本当の絵を描いた」。
佐野の体に描かれた本当の絵は
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びっしりと体中に描かれた丸、両手足にべっとりとぬられた得体の知れない液体、びっしりと集った虫、ウィッグが無造作に取り除かれ頭髪の一本すら見えない頭……
得体の知れない……おぞましい何かとしか言いようのないもので……

恐怖にかられた来生は逃げ出すほかありませんでした。
脳裏には、ヤバイと言う言葉がひたすらリフレインしています。
助けて、絶対普通じゃない。
初めて「本物」を見て、ついには腰の抜けてしまった「普通」の来生ができるのは、もはや息を潜めて恐怖が去るのを待つことだけ。
そこに声が近づいてきます。
来生さん、どこ?何で逃げるの?
私はただひとりでも仲間がほしいだけなのに……

と言うわけで、本物ぶっていた偽者が本物に出会ってしまうエピソードを収録した今巻。
恐ろしさと同時に、寂しさや、ザマァミロ的なカタルシスのようなものもちょっぴり感じさせられるこのエピソードの他にも、読み応えたっぷりの作品が全12編収録されています!
高校退学5年後に魔法少女になった女性のお話、熱血過ぎる新人女性教諭の齎した出来事、格好をつけただけの自分勝手な理屈と子供のころの思い出だけにすがった少年のとある日……
他愛のない出来事であったり、重大過ぎる出来事だったり。
様々な出来事が巻き起こりますが、そのどれもが安陪先生の持ち味である心をかき乱すような味わいに満ち満ちていまして。
不安になったり、安心できたり、怖くなったり……なんにせよ、心に波紋を起こす作品なのです!!

惹きこまれる少年少女の短編集、「空が灰色だから」第3巻は全国書店にて発売中です!!
カバー下本体に描き下ろし漫画が2P収録されている本作。
今回紹介したエピソードとかかわりの深いお話になっておりまして、こちらも見逃せない内容になっていますよ!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!


空が灰色だから 3 (少年チャンピオン・コミックス)
秋田書店
2012-10-05
阿部 共実

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