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今回紹介いたしますのはこちら。

「ある設計士の忌録」 鯛夢先生 

朝日新聞出版さんのHONKOWAコミックスより刊行です。


さて、実話怪談系漫画の名手・鯛夢先生の最新作となる本作。
本作はある設計士、「先生」にまつわる恐怖譚を集めて一冊にした短編集となっています。
建築業界の中でもとりわけ深い闇を描く作品となっている本作、その中から今回は「あかずの間」というエピソードを紹介させていただきたいと思います!


とある工務店を営む男は、関東のとある有名な温泉地にやってきました。
観光旅館の工事と言うことで、男としては一度やってみたかった本格和風建築かと意気込んでやって来たのですが……もともと不動産業を営んでいる資産家だと言う施主はそうではないと手を振ります。
施主が男に作ってもらいたいのは、旅館内のある一風変わった施設。
連れてこられたのは宴会場で、そこを取り壊してあるものを作ってほしい、というのです。
そのあるものを作るために関わるのは、男の工務店だけではありません。
今回の仕事の以前にも何度か一緒に仕事をしたことのある、「裏」の仕事も行う設計士の男、通称「先生」も一緒なのです。
本人が必要なだと思ったこと以外は陸に説明もせず、ぶっきらぼうでドライ、金銭面でもかなりシビアな……偏屈と言ってもいい先生。
ですが先生は、こう言った仕事では絶対的な信頼を得ている、本物の「裏」の仕事人なのです!
先生は男に人手を集めてさっさと仕事に入ってくれ、と指示。
取り急ぎひとでを集め、宴会場を解体すると……そこから妙な仕事は始まったのです。

ただの建築現場であるにもかかわらず、入り口にはガードマンが立っています。
出入りは厳しく管理しろと言われているとのことで、入場には先生が事前に全員に配っていた通行証が無ければ入れません。
そんな厳重に警戒した現場で作るのは……
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出入り口の無い、三重の回廊に囲まれた和室!
まるでひかりも入らず、中に入ることもできない。
こんな部屋を一体何に使うのでしょうか……?
そもそもこんな密閉された空間を作ろうなんて、建築許可が下りるのでしょうか。
先生は、「誰にものを言ってるんだ」とのこと。
裏の仕事を無数に手掛けてきた先生、その相手には官公庁の仕事も少なくなかったそうで。
当然そっちの方にもコネがありまして、先生はあっさりと許可をとってきてしまうのです。
そして今度は、男に何枚かのお札を渡してきました。
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それはよくある仰々しく何かがぎっしりと書いてあるようなお札ではなく、梵字の様なものが一時書いてあるようなシンプルなもの。
これは部屋の中に貼る……と言うわけではありません。
燃やした後残った灰を、部屋の内装に使う塗料に混ぜ込め、というのです。
今一つ陰と来ない子の行為ですが、やはり「裏」の仕事ならではの何かがあるのでしょう。
指示通り、四方の壁と天井、床と灰を溶かした塗料を使って塗装していくのですが……
その作業が進むにつれ、男の体調は悪化していきました。
「見える」体質である男、日々強まって行く「何かの力」に体が負けて行くような感覚を覚えたと言います。
他の霊感の無い作業員たちも、なぜか疲れが取れづらい、というような感想は抱いていたようでした。
とはいえそれ以上何かが起きることもなく、三週間がたつ頃にはほぼ完成という状態になっておりました。
すると突然、先生は作業員にこう言ったのです。
皆ご苦労さん、ここらで二・三日休暇取ってくれ。
このタイミングで休暇の要請。
実質後は出入り口を塞ぐだけという不可解なタイミングで与えられた休暇に驚きを隠せませんが……とにかく先生の言う事には逆らわない方がいいでしょう。
大人しく三日休んだ後、やっと最後の工事に取り掛かることになったのです。

が、そこで先生はこう言うのです。
いよいよ壁を塞ぐ作業だ、一番大事な作業だと思って完璧に塞いでくれよ。
……その話を聞いている、男をはじめとした作業員は……何も言えないまま、頷くばかり。
三日前とは違い、男以外でもはっきりわかるほど……その部屋には、異様な圧力が立ち込めていたのです。
そして壁を塞ぐ……その前に、部屋の中で最後の仕上げをするとのこと。
その仕上げは男の仕事ではなかったのですが、最終仕上げ担当の老人が、男に一緒に来てくれないかと持ち掛けてきたのです。
確かにこの空間に一人入って行くのは勇気が必要でしょう。
先生の方をちらりと見て入っていいかどうかアイコンタクトで確認すると……
先生は、くれぐれもふすまの向こうは覗くんじゃねーぞ、とだけ答えました。

中に入って行く老人と男。
最終的にはここもふさがってしまう、三重の回廊を抜けて中の部屋に入る二人。
中の部屋は二十畳で、その真ん中がふすまで仕切られています。
完全密封して誰も入れない部屋になると言うのに……その部屋はしっかりとした欄間まで作られ、豪華すぎるほど豪華な印象を受けます。
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老人は部屋に入るとそそくさと最後の仕事を始めました。
……男の前にあるのは、異様な圧力を湛えたふすま。
「覗くんじゃねーぞ」ということは、「覗いてみろ」ってことだよな。
男は、そっとふすまを開け……封印された部屋の中を覗きました。
するとそこには……
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4体の人形が、箱然の前に座っている……奇妙な光景が広がっていたのです!!
青い着物の男の人形と、赤い着物の女の人形、そしてそれぞれの前に箱然。
……よくよく考えれば、ほとんど光も入らないはずの部屋の中が、なぜそこまでしっかりと確認できたのでしょう。
後になって考えてみると……ちょうど真ん中から、人形たちを照らし出すようなぼうっとした光があったように感じたのでした。

先生によれば、あの部屋は敢えて作る「あかずの間」なのだそうです。
このあかずの間は、何か恐ろしいものがあったから封印するためにあかずの間にしたものや、隠したいものがあるからそうしたもの、あるいは人に聞かれたくない話などをするために開けないように日ごろから徹底するためのそれ……と言った通常のあかずの間ではありません。
このあかずの間は、「福の神」を住まわせ、その家に繁栄を呼び込むためのものなのだそうです。
この旅館の社長からしつこく頼まれ、報酬も弾むからと引き受けたと言うこの仕事、男たちが休んでいる間に「福の神」を下ろすという大仕事だったようです。
これでようやくひと段落……と思われたところで、突然社長たちが見覚えのない工事人たちをぞろぞろと引き連れて、あの部屋に入ろうとするではありませんか!
なんと社長、最後の詰めを行う前に、先生や今まで工事していた男の作業員たちを帰らせようとし始めるのです!
どうやら社長、予定の工期が数日遅れたことを指摘し、先生をお役御免に。
そして予定の金額よりも安く仕上げようとしたのでした!!

……先生は職人気質ですから、いくら社長が気に入らないとはいえやることは最後までキッチリやりたいのが本当です。
ですが、こうまであからさまに厄介扱いされては、さすがに付き合ってやる義理はありません。
後で詳しく聞いてみると、先生は「3000万」で「30年」福を呼び込む予定で仕事に当たったのですが、社長はそれを3分の1に値切ったのだと言います。
……普通ならば信じられない話ですが、なにせこの先生が言う事。
話が本当であることは、この旅館が開業そうそう大人気になった事と……10年後に巻き起こってしまった、ある事によって証明されることとなるのです……!!




というわけで、「裏」の仕事を数多くこなす設計士、先生にまつわる奇妙な話を描いていく本作。
紹介させていただきました「あかずの間」ですが、この後さらにもうひと展開用意されておりまして、ぞっとするフィナーレを迎えます。
こう言った奇妙な仕事が、7編収録されているのです!
かつてドラマ化もされた、蔵の中に封印されていた怪しげなものを巡る「箱」。
通常考えられない奇妙なものを作る「宗教施設」。
事故物件をリフォームした後に飽きる奇妙な出来事を描く「盛り場のビル」。
とにかく「三角」にこだわったものを作る羽目になる「三角だらけ」。
男の仕事である建築関係の、奇妙な仕事とその裏にある恐ろしいお話がたっぷりと収録されているのです!
どのお話も、普通のホラー漫画にありがち……と言うよりも、なくてはならない要素である幽霊やら怨霊やらと言った要素はほぼ無し!
こう言う建築に付き物の「神様」が多くの話に絡んでくるのですが、神様と言うのは元来祟るもの。
しかも神と祭り上げられるだけあって、幽霊などと違って簡単に祓うなどと言うこともできないわけで……!
それに加え、霊でも紙でもなさそうな得体のしれないものの存在も見え隠れ。
それらと戦う……と言うわけではなく、いわば折り合いをつけて行く、本作ならではの味わいが楽しめますよ!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!