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今回紹介いたしますのはこちら。
「スーサイドガール」第1巻 中山敦支先生
 
集英社さんのヤングジャンプコミックス・ウルトラより刊行です。


さて、中山先生の最新作となる本作。
再び集英社さんに戻って来まして、「こっくりマジョ裁判」のあと、ウルトラジャンプで連載を開始されたのが本作です。
そんな本作はバトルアクション系の作品、ではあるのですが、中山先生が単純なバトルアクションを書くはずもありません!
タイトルからしてちょっぴり不穏な空気の漂う本作、気になるその内容はと言いますと……?



元気が取り柄の高校一年生、青木ヶ原星(きらり)は、食パンを咥えながら走っておりました。
今日はとっても大事な日なのに遅刻しちゃった、と大慌てでどこかに向かっています。
まるでべたべたの少女漫画の主人公のような行動ですが……
彼女がたどり着いた場所に待っていたのは、そんな少女漫画とはかけ離れたものだったのです。
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陰鬱な表情を浮かべた、年頃も性別もばらばらの三人……!!
星が場所を間違えたわけではありません。
それを示すように、よかった、間に合った、と彼女はにこやかに笑います。
その手の中に握られたケータイの画面には、こんな案内が躍っていました。
自殺カフェ「SUISIDE CAFE」オフ会、当日は下記指定の喫茶店、「シーサイドカフェ」にお越しください。

そのオフ会は、最期の見送りをしてくれると言う、殺サイトの管理人であり、この店のマスターでもあるらしい流汐という老紳士が主催しているようです。
ひとり妙に元気な星は置いておきまして、暗いムードで始まったオフ会、早速流汐は全員の「遺言」を聞いてきました。
それが流汐の、自殺幇助という罪に手を染める唯一の条件なのだそうです。
彼にそれを言うだけで自分達の自殺の手伝いをしてくれるのならば安いものなのでしょう。
自分の中に溜めたものを吐き出したいと言う気持ちもあったはず。
彼らは口々にそれを語り始めました。
俺をいじめて鷹栖ども、見て見ぬふりしてた閃光ども、皆地獄に落ちろ。
永遠の愛なんて抜かしやがってゲスヤロー、呪ってやる。
来世は美少女になりたい、いや、なる!
暗い雰囲気の三人は口々にそう語りました。
そして最後に残った星は、鼻息も荒く立ち上がり……
あたしは夢をかなえるために来ました、だから残す言葉なんてありません!とgんきよく応えてのです!!

一同はバンに乗り込みました。
そして練炭に火を点け、睡眠薬を口にする4人。
流汐は恭しく頭を下げ……
それでは皆様、行ってらっしゃいませ、良い夢を。
アーメン。
そう言い残して、去って行くのでした。

夕暮れの駅のホーム。
4番線に電車が通過のために入ってくるその時、眼鏡をかけたセーラー服の少女が突如フラフラと体を揺らし始め……
背中に七芒星が浮かび上がったかと思うと、少女は電車の前へと落下して……!!
……と、そこで星は目を覚ましました。
今の奇妙な風景は夢なのでしょうか。
そして、自殺したのに目が覚めたと言うことはここが天国なのでしょうか?
バッと跳ね起きて盤の外に出て行きますと、そこには弾けるような笑顔を浮かべた、先ほどの三人がいるではありませんか!
彼らは憑き物が落ちたように生き生きとして、流汐にお礼を言って新たな人生を歩むために立ち去って行きます。
何が起きたかはわかりませんが、三人は幸せになった様子……
納得できないのは星です!
どういうことかと説明を求めますと流汐は、やはりあなたには効かなかったようだ、あれはただの練炭ではない、私が独自に長どうした特別な……と、何やら説明を始めます。
そこまで聞くと星、あたしは自殺できないんですか、と泣き叫び……そして冷静さを取り戻すと、遠出するなら1人よりたくさんの方が楽しいと思ってきたけど、これなら家で首を括ればよかった、帰って死に直します、とがっくりと首を落として立ち去るのでした。

自宅に帰ると、気を取り直して死に直すことにした星!
ですがどうしたことでしょう、首を括っても一向に気が遠くなりませんし、包丁をのどに突きたてようとしても包丁が折れてしまいます。
さらに火に頭を突っ込んでみても火が避けてしまい……
星は思い切ってアパートの屋上から飛び降りてみるのですが、
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地面に着地寸前でピタリと止まってしまうではありませんか。
まったく事情が理解できない星。
そこにタイミングを見計らったかのように、流汐が姿を現すのです。
おめでとうございます、あなたは年間3万人もの自殺志願者の中から選ばれました。
もう自分の意思で死ぬことはできません。
しかしそれではあなたの望みはかなわない。
チャンスをあげましょう、あなたは昼間夢を見たはずだ。
その夢は現実になります。
彼女の命を拾って見せなさい、自分の命を捨てたいと願うなら。
……言うだけ言って忽然と消えてしまった流汐。
何が何だかわかりませんが、今実際に自分に奇妙なことが起こっているからには、彼の言うことを試してみる以外に道はない気もします。
とはいっても、あんな夢で見ただけの少女をどうやって探せと言うのでしょう。
都合よくあの子が見つかるはずがない、とほとほと困り果てておりますと……
なんと星の横を夢の彼女が自転車で走り抜けていくではありませんか!!
これは大チャンス!
星はすぐさま走って追いかけながら、もしかして今から自殺しようと思ってます!?と尋ねました!!
が、自転車を全力疾走で追いかけながら、笑顔で自殺するかと尋ねてくる怪しすぎる少女と関わり合いたいと思う人はあまりいないでしょう。
自転車の少女はそのまま逃げ出してしまうのでした!!

が、星の方もあきらめません。
とにかく追いかけ続け、駅のホームまで追い詰めたところで、こんな説得を試みるのです。
ホームから飛び込むなんて自殺の方法としては最悪だよ、死ねる確率が高いから自殺自体にはうってつけだけど、死体はミンチになるし、見ていた人はトラウマになるし、遺族には莫大な損害賠償が要求される、だから考えなおそ?
皆がハッピーになれる自殺の方法、一緒に探そ!
にっこりしながらそんなとんでもないことを言ってくる星を見て、さすがの彼女も毒気が抜かれたようです。
ハッピーな自殺って、自殺を止めたいのかすすめたいのかどっちなのよ、と笑いをこらえながら突っ込んできまして……

ともかくおかげで二人はある程度打ち解けることができました。
事情を聞いてみれば、彼女は猛勉強を執拗に強いてくる母に悩まされていると言うのです。
ママは自分がどんな思いで頑張っているかわからないんだ、私のことをちっとも愛してくれない……
そう言って泣きじゃくる少女。
ですがそれを聞いた星はこう返すのです。
あなたのママはあなたこの都がとっても大好きなんだね!
一緒になってそんなに頑張れるのは、あなたに本気で愛を注いでるからだよね?
愛情の注ぎ方は間違ってると思うけど、本当はあなたもママのことを失望させまいと頑張り過ぎて追い詰められてしまうくらいに大好きなんでしょ?
ここであなたが死んだらあなたの大好きなママはとても苦しむ。
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自殺は残された人の心も殺すんだよ。
星が最後に言ったその言葉は、いつもと同じように笑顔で言ったにもかかわらず……何とも言いようのない、異常なまでの説得力に満ち溢れていました。
星はただものではない……!
少女にもそれはありありと感じられましたが……その事はどうでも言いようです。
確かに星の言う通り。
どうせ死ぬならもう我慢する必要はない、帰ったらママにぶっちゃけてみる!
死ぬほどつらいぞバカヤローってさ。ついでに一発殴ってやる!
困ったような笑顔でそう言った彼女の顔には、もう自殺しようと言う陰気な雰囲気は欠片もありませんでした。
お礼を言って立ち去って行く少女。
もうこれで彼女は、少なくとも今電車に飛び込んで自殺しよう、などとは思いもしないでしょう。
これで夢の実現は防げたはず。
ということは、星はこれで死ねるようになったのでしょうか・
早速電車に飛び込もうか、でも皆に迷惑はかけれないし。
そんなことを考えた、その直後でした。
先ほど別れた少女がふらりと体勢を崩し……ホームから転落したのは!!!
……一瞬後、ホームは血飛沫に包まれます。
あまりの衝撃に絶叫する星……!
握りしめているケータイには、星と、ソルという少年が仲良く並んでいる写真が貼られています。
そして星は、絶望するのです。
なんで、また、こんなことに……?
あなたは生きようとしてたじゃないか。
悲鳴と混乱が渦巻く中、星は奇妙なものを目撃しました。
混沌とするホームでただ一人、冷静なままホームに立ち。
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あまりにも邪悪な笑顔を浮かべる、異形の存在を。
そいつの手のひらには、不気味な七芒星が光っていて……!!!



と言うわけで、「自殺」を巡るあまりにもショッキングな物語となる本作。
この後星は、様々な真実を次々に知ることとなります。
あの不気味極まりない異形は「フォビア」といい、人間を自殺させる力を持つ悪魔だと言うのです。
そしてフォビアは、星が自殺しようと思った原因に深くかかわっていることもわかり……!
全てを知っている謎多き人物、流汐に見込まれた星は、彼にフォビアと戦う力をもらい、奇妙な戦いに身を投じることになるのです!

そんなこんなで、人を自殺へと導くおぞましき悪魔、フォビアとの戦いを描いていくわけですが、そこは流石の中山先生、中山先生でなければ出せない独特の味わいを見せてくださいます!
自殺という非常に重いテーマを描いているにもかかわらず、中山先生の得意とするポップで明るい作風はきっちり健在。
それでいてもう一つの中山先生の持ち味である、迫力とおぞましさに満ち満ちたショッキングな描写もしっかりと行われているのです!!
そしてフォビアと戦うための力というのもまた一風変わったものになっておりまして。
激しいバトルと個性豊かなキャラクター、眩いばかりのエネルギッシュなシーンと垣間見える闇、そしてどんでん返しの連続する物語。
様々な要素がたっぷり詰まった、ザ・中山先生ワールドが楽しめますよ!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!