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今回紹介いたしますのはこちら。

「望郷太郎」第2巻 山田芳裕先生 

講談社さんのモーニングKCより刊行です。


さて、大災害で文明が滅んだ世界で目覚めてしまった太郎。
自分が目覚めてから500年もの時が経っており、ほかの家族はみな死んでしまっていました。
太郎はせめてこのまま死ぬ前に日本に戻りたい、と、遠い中東の地から日本へ向かうのです。



太郎は旅の中で、崩壊後の文明人であるパルと出会い、彼に助けられながら日本を目指していました。
その旅の最中にも様々なことがありましたが、太郎はパルとともに彼の故郷に向かうことに。
パルの故郷にはすんなりつくことができましたが、パル本人は久しぶりに故郷の村に来たというのに浮かない顔。
それがなぜなのかといえば、パルは故郷の風習がどうしても受け入れられなかったから。
その風習の最たるもの……「大祭り」に、太郎も参列することになったのですが……

大祭りというのは、お互いの村が贈り物を贈りあう、というもの。
それだけ聞くと和やかなイベントに見えますが、その実、村の力を比べあい、村の核が決まってしまうとんでもないイベントなのです。
とにかく大事なものを贈りあうのですが、大事な「物」がなければ、大事な「者」を贈る……ということで、かつてはパルの妹や母親も「贈られて」しまったそうで……

そして、パルの故郷、西の村と、隣村である中の村の大祭りは始まりました。
太郎とパルが持っていくことになった最初の贈り物は、白ヒョウの毛皮。
これを取るのに二人係で10日間もかかった品です。
それに対抗して中の村が持ってきたのは、虎の皮でした。
現代の価値観からすると白ヒョウのほうが明らかに貴重なモノですが、この世界では虎の皮のほうが気等とのこと。
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これでは対等ではなく、中の村の勝ちになってしまう、とパルは言います。
次に西の村が出したのはゴルフクラブとフェンスか何かの一部。
対する中の村は、チタン製の鍋と鉄パイプでした。
これも中の村の物のほうが貴重……
そのあとも中の村は、すべての品物で西の村を上回るものを出してきます。
普段ならば一つか二つくらい貴重さの低いものが出されて対等に収まるのに、今回は様子が明らかに妙です。
このままだと人を出さなければならなくなるのか、とパルに尋ねる太郎。
ですが西の村は、なんと赤ちゃんを含めても5人しか村民がいないとのこと。
これ以上人が減るようなことになれば、村は滅びるしかありません。
これ以上負けることはできない西の村、今度は馬5頭を贈りました。
西の村の馬は全部で10頭、その半分を差し出すのですからこれもまたかなりの痛手です。
対する中の村は……
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自分たちが乗ってきた丸木舟5艘を、自分たちの持ってきた燃料をかけて燃やしてしまうではありませんか!
丸木舟を作るにはかなりの手間がかかります。
それを燃やすのがどれだけ大変なことなのか……
これも相当な「贈り物」になり、馬5頭ではやはり勝てないようです……
これでは西の村は中の村に負け、メンツをつぶされてしまうでしょう。
そこで……西の村の村長、パルの叔父が苦渋の決断で絞り出した贈り物は
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村民が暮らす家を燃やす、というものだったのです!!
大切な大切な自分の家を燃やすなんて、あまりにも……
太郎は思わず、馬鹿げてる、とつぶやくのですが……パルもそれには同調せざるを得ないようです。
ですが、馬鹿げていてもこれが「大祭り」であることも、わかっているのです。
一旦度が過ぎると際限なく過ぎていく。
それを止めるには、どちらかが折れるしかないのですが……
西の村の村長は、何故中の村がこれだけの贈り物を贈り続けてきたのか想像がついているようです。
贈り物でプレッシャーを与え続け、村長を死へと追い込み、その混乱をついて西の村を乗っ取ろうとしたのだろう、と!
それがわかっている以上、大祭りの継続は無意味です。
戦争する気もない、舟を貸すから帰れ、と中の村の物を追い払おうとする西の村の村長。
脂汗をだらだらと流し、顔面は蒼白になる中の村の村長ですが……
そこで、中の村のナンバー2らしき男が口を開いたのです。
そうはいかないここで西の村を奪わないと、東の村に中の村のすべてを奪われる。
……どうやら中の村は、西の村とは逆隣の村の脅威にさらされているようです。
このままでは彼らの村も乗っ取られ、奴隷のように扱われてしまう。
何もかもなげうってでも、西の村を奪わなければならない。
中の村の誇りを持つその男は、まっすぐに西の村の村長を見つめながら……
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自らの首を、描き切ったのでした!!


というわけで、とんでもない「祭り」が描かれる本作。
どうやらこの崩壊後の世界でも人々の争いというのはなくならないようで。
村の存亡をかけて、ほかの村を奪う、というやりきれない決意を秘めた戦いが繰り広げられるのです。
この大祭りですが、人の命を贈るということは、逆にこちらも人の命を贈らねばならないわけで。
村の人々はこれ以上減らせない。
ならば、西の村が贈ることのできる命は、余所者であるあの人物の命……!?
とんでもない事件に巻き込まれてしまった太郎は、どうなってしまうのでしょうか!?

この事件の後も村編は続きます。
東、中、西、三つの村の物語になるかと思われたこのお話ですが、さらにまた別の名前も出てきます。
様々な問題のある村々ですが、太郎はその争いの渦中に巻き込まれてしまうものの、所詮は余所者。
あくまで日本に辿り着くのが目的である太郎は、冷たくドライな選択を選ぶこともできるでしょう。
文明の失われた世界でただ一人の文明人となった太郎。
果たして彼は無事に日本に辿り着くことができるのでしょうか?
その道中でどれだけの人物と出会い、見捨て、あるいは助けていくのか?
更なる激動も巻き起こる本作から、目が離せませんよ!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!