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今回紹介いたしますのはこちら。

「エチカの時間」第1・2巻 玉井雪雄先生 

小学館さんのビッグコミックスより刊行です。


玉井先生は92年にスピリッツの漫画賞を受賞し、デビューした漫画家さんです。
「オメガトライブ」シリーズ、「かもめ☆チャンス」など、スマッシュヒットを多く生み出している漫画家さんです。

様々なジャンルに挑戦し続けている玉井先生ですが、本作は「答えのない問題」をテーマにした作品となっておりまして……?



1967年、女性哲学者フィリッパ・フットが厄介な思考実験を発表しました。
みなさんも一度くらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか。
その思考実験の名は、「トロッコ問題」です。
貨物列車のブレーキが壊れ、このままだと前方で作業している5人の作業員が避ける間もなく轢き殺される。
あなたはたまたま線路の分岐点の前にいる。
あなたがレバーを引いて貨車の進路を切り替えれば5人は確実に助かる。
しかし、切り替えた先の線路上では一人作業しており、その一人は確実に轢き殺されてしまう。
あなたはレバーを引くべきか、引くべきではないか?
……この問題の本質は、引くか引かないかの選択ではありません。
人は何故、していいこと、してはいけないこと、したほうがいいと思われることの区別がつくのか、なのです。
この正体不明の機能の名は、「倫理」。
この物語は、倫理と言う謎に立ち向かう若者たちの物語なのです!!

工事現場でアルバイトしている男、日野尚更。
複雑な家庭の事情を抱える彼ですが、仕事の態度は今一つ。
上司である山中主任はしびれを切らし、君は仕事をなんだと思ってるんだ、と雷を落としたのですが……
尚更は、にぱっと笑って、
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自分のことを究極的には「歩」だと思っている、と答えるのです。
この世には生まれつき桂馬の人や飛車や角の人もいる、その中で俺は歩だと思っています。
歩にできることは並ばされて盾になって殺されること、いわば捨て駒の代表!
山中主任、同じ捨て駒代表として捨て駒人生頑張りましょう!!
茶化すかのような態度を取る尚更に、山中主任が切れないはずもなく。
手にしていたファイルでパシパシと尚更のかぶったヘルメットを叩きながらお小言を本格化させようとしたのですが……
尚更は、そこかしこにある自動販売機を指さし、今の自動販売機にはほぼすべてに監視カメラがついている、パワハラを訴えれば証拠になる、と逆に山中主任に圧をかけてきたではありませんか!!
今のご時世、そんなことになったら手を出してしまった山中主任が不利でしょう。
完全に尚更の方に問題がある気がしても、山中主任は無く無く引き下がるしかないのでした……

仕事と言うのはいかに最小限の労力で時間を潰すかだ。
人類の永遠のテーマはいかに働かないか?じゃね?
つまり「歩」こそが一番、コスパ最強!
そんな持論の下に生きている尚更。
ですが、そんな彼の前にとんでもない出来事が巻き起こるのです。
適当に仕事を終わらせ、事務所に戻って来た時の事。
なんと誰もいないはずの事務所で、
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一人の少女が下着姿になって、床をひたすらに磨いているではありませんか!!
これはセクハラになってしまうのか?と戸惑う尚更ですが、彼女は尚更に気が付くとそのまま、この部屋にある電子機器を片付けさせてもらってもいいか、と尋ねてきます。
彼女は恥ずかしくないわけではないようで……恥ずかしさにぐっと耐えている様子が見て取れます。
とにかくその電子機器の片づけを手伝うことにした尚更。
急いで電波の出るものを片付けて、とせかされ、彼女の体に興奮してしまいながらも慌てていろいろと片づけると……
ほどなくして、部屋に何やらえらそうな男が入ってきました!!
いつの間にか服を着こんでいた女性、姿勢を正して何やらものすごく緊張しているようです。
今入ってきた男、七太郎をみた途端、表情から何からカチカチに固くなった彼女。
七太郎の、電磁波の流れをビンビン感じるんだけど、というつぶやきを聞くと、今度は彼女ぎょっとして……尚更がスマホを持っていることに気が付きました。
そして七太郎に深々と頭を下げると、切って切って、今すぐ、ばか!と尚更を罵倒しつつ、七太郎には申し訳ありませんと謝罪するのでした!

七太郎はさらにその後、自分が嫌いなのは電磁波の次に埃だ、と言って埃を指で掬い取り、その埃をなめろととんでもないことを言ってきます。
しかも彼女、その指先をためらいなく口にして……!
あまりにも横暴な七太郎に、歩であるはずの尚更も堪忍袋の緒が切れました!
罵倒や命令をしながら指を突っ込む七太郎。
誰が見ても人としての限度を超えている、だから俺も歩の立場を越えさせてもらう!
そう言って、尚更は思い切り七太郎を殴りつけたのですが……
その拳は、
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七太郎を通り抜けてしまったのです!!
手を……かけたな?ママンにも手をかけられたことないのに。
何故かな来そうな顔になる七太郎……直後、ふっとその姿が消えてしまうではありませんか!!
そこでようやく、彼女、百上瑠衣は七太郎の正体を教えてくれます。
七太郎は、国産型公共AI、「七太郎」。
今までの男の姿をしていた七太郎は、ただの立体映像にすぎなかったわけです!!
とはいえそんな正体を明かされても、それが何なのかはわからない尚更。
瑠衣はそんな尚更の腕をつかみ、姿を消している七太郎にこう言いました!
お願いします、彼とエチカプレイやります!

……エチカプレイとは何なのか。
状況を飲み込めない尚更に、再び扉から入って来るところから始めた七太郎が「問題」を出しました。
典型的な「トロッコ問題」を。
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渋谷区道玄坂2丁目付近の道路から150メートル離れた坂野上ビルの屋上に設置されている地球型ネオン、通称「鉄玉」が落下。
6秒後地面に到達、センター街交差点ハチ公口に向かって転がり落ちる。
その時刻のスクランブル交差点内の平均人口が約3000人。
少なく見積もって250人の死者が出る。
その一方で、2丁目交差点の敷き鉄板をクレーンでずらすことにより、鉄玉はそこに落下。
その際の死者数は3人。
さて、そこで君たちエチカノーツに、どちらを選択するか決めてもらう。
エチカを戦わせて!
……渋谷を舞台にしたトロッコ問題。
当然尚更は知らない事ですが、七太郎はこう言ったトロッコ問題の様なものを出題し、人間に議論させてその様子を見ることでAIとしての完成度を高めようとしているようで。
この事業は、国も関わっている国家規模のプロジェクトなのです。
そしてもう一つ、まだ尚更が知らない、重大な事があります。
それはこの七太郎が出してきた問題は……七太郎の高性能AIを駆使してはじき出された、ほぼ確実に現実に起こりうる問題だ、という事なのです!!




と言うわけで、トロッコ問題を取り上げる本作。
七太郎のAIの育成、と言うことで行われるこのエチカプレイですが、最初こそ事情を良く知らない尚更はノリで答えてしまうわけですが……話が進むにつれ、様々な事実が明らかになっていき、どんどんとシリアスにならざるを得なくなってしまいます。
この問題がもう間もなく現実に起きると言う事。
そして、巻き込まれるものの中に、ある人物が含まれていること……
尚更と瑠衣は、それぞれ別の選択をして意見を戦わせる、エチカバトルをすることに。
そのエチカバトルに正解はないだけに、その議論の間には多くの苦悩が生まれます。
その苦悩を七太郎が見て……「楽しむ」のです!
七太郎は楽しむだけ、どちらの選択をするかは二人に委ねる。
倫理的にどうなのか、と考えてしまいますが、まさしくそれこそがこのプロジェクトの狙い。
AIに倫理を学ばせるプロジェクトなわけです。
ただひたすらに二人の苦悩する姿を見て、時に嘲笑い、時にあおる。
そんな七太郎の下で、尚更と瑠衣が導き出す答えは……!?
同時発売となるこの第1・2巻で、この最初の問題編が完結!
二人の導き出した答え、七太郎の興味の行方、そしてその先に待っているもの。
まさしく見どころたっぷりとなっております!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!