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今回紹介いたしますのはこちら。

「シライサン オカルト女子高生の青い春」 原案・乙一先生 漫画・崇山崇先生 

扶桑社さんより刊行です。


崇山先生は、18年に「恐怖の口が目女」で商業デビューした漫画家さんです。
「口が目女」は70年代的な絵柄で不条理ギャグを繰り広げるホラーコメディで、その圧倒的な世界観に仰天した方も多いことでしょう。

そんな崇山先生が、乙一先生が監督・脚本を務めた映画「シライサン」を原案として描くのが本作。
原案があるだけに崇山先生のいつもの作品のようなはっちゃけぶりは鳴りを潜め……きってはいない、独特の味わいのあるホラー漫画となっているのです!


オカルトちゃん。
そんなあだ名で呼ばれている女子高生、トリコは古書店で見慣れない民俗学の本を購入しました。
クラスで目立たず、一人そっと暮らし、趣味であるオカルトの知識を蒐集する。
一般的にはあまり明るい高校生活とは言えないかもしれない毎日、本人もこれでいいのかと悩むこともあるのですが……
これが私の青春だ、と思い直し、早速買ってきた本を開くのでした。

その本は、どうやらトリコの町に伝わる伝承を記したもののようです。
伝わる、と言ってももはや現代にまでは伝わっておらず、トリ子は初めて見るその伝承を食い入るように読み進めて行きます。
その伝承はこんなものでした。
この地にかつてあった目隠村。
この村には強力な祈祷者がおり、政府と繋がって調伏の祈祷が行われていました。
そこに生まれた、強大な力を持つ少女。
彼女の力はあまりにも強かったため、太平洋戦争ではどれだけ自分が祈祷をしようとも、日本が負ける未来しか見えませんでした。
その結果に軍関係者は激怒し、少女の母を人質に取って強引に祈祷させようとしたのです。
ですが結果は失敗。
反動で少女の霊能力は失われてしまいました。
その上少女の母はひどい拷問を受け、目を、指を、舌を奪われてしまい……
祈祷の失敗による反動なのか、戦争ではあまりにも多くの死者が出ました。
その凄惨さに少女は精神に異常をきたし、村を徘徊するようになり……そんな少女を村人は蔵へと閉じ込めました。
少女の母は孤独の中で死に、残された少女もまたこの世の全てを憎み、死んでいったのです……

そこまでならばよくある怪奇な伝承の一つと言えた来あも知れません。
ですが、この後にもまだ伝承は続いたのです。
その後、村では数名の若者たちが同じ夢を見るようになったのだと言います。
「シライサン」と言う女が現れる夢を。
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その男たちに共通していたのは、少女が閉じ込められていた蔵に忍び込んで、密かに乱暴をしていた、と言うこと。
男たちはそのシライサンの夢を見続け……そして最後には、眼球を破裂させて死んでいきました。
そして……村は全滅します。
少女が死ぬ直前に取り戻した呪いの力で、村全体を呪ったために……

翌日、トリコは柄にもなくクラスメイトに自分から話しかけてしまいました。
たまたまクラスメイト達が話していた階段があまりにぬるかったため、あの古書に記してあった「シライサン」の話をしてみたくなってしまったのです。
鬱蒼とした森の中を歩いていると、どこかでチリンと鈴の音が聞こえた。
振り返ると遠くに異様に目の大きな女が見える。
速足で逃げるように歩くものの、女はどこまでもついてくる。
たまらずどうしてついてくるのかと聞いてみれば、お前が私を知っているからだ、と答えた。
女は自分を「シライサン」と名乗った。
シライサンは、自分を知っている物を追いかけて殺すと言う。
たまらず、だったら俺じゃなくて他にもお前の名前を聞いた奴のところに言ってくれよ、俺達の話に耳を傾けてシライサンを聞いた奴がいるだろう、と持ち掛けた。
シライサンはこう答える。
ああいるね。
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次は、お前だ!!
……と言う、話の聞き手を指名する「お前だ系」のお話を。

トリコの話は好評でした。
そんな成功体験も一つの理由になったのか、彼女はオカルト研究会を立ち上げることになったのですが……
そんな時、トリコからあの階段を聞いたものの中の一人、沙也加の身に異変が起きていたのです。
夜、コンビニのバイトをしていた沙也加ですが、突然コンビニの電気が消えてしまいます。
すると着物の女性が現れ、音もなくコンビニの中に入ってくるのです。
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鈴の音を鳴らしながら、着物の女性は沙也加の前へと近寄ってきて……
恐怖のあまり沙也加が踵を返して逃げ出そうとしたその時でした。
沙也加の
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眼球が破裂し、吹き出す鮮血とともに絶命したのは……!!
これはまさか、あの「シライサン」の呪いなのでしょうか。
トリコの好奇心が、シライサンの呪いを掘り起こしてしまったのでしょうか……!?



と言うわけで、乙一先生の「シライサン」を下敷きに、祟山先生が大胆に自分の世界のホラー漫画を作り上げて行く本作。
原案があることもあり、「口が目女」のようなホラーギャグではなく、しっかりとしたホラー漫画になっています。
が、物語が進んでいくにつれて筆が乗ってきたのでしょうか、ギャグマンガにはならないまでも、そこかしこに崇山先生のエッセンスが加わっていきます!
それがどんなものなのかは皆様の目で確かめていただくとしまして、そんな少しコミカルな要素を交えつつ、物語はあくまでホラーとして進行。
ですが通常ホラーと言えば、徐々に被害者が出て、徐々に謎が明かされ、徐々に呪いから逃れる術を探っていく、と言う段階があるのが普通でしょう。
しかし本作は中盤に差し掛かるあたりでキーマンとなる人物が出まして、そこからちょっとホラーバトル的な色合いが付き、一気に本書の6割近くを裂いた決戦へとなだれ込んでいくのです!!

ホラー要素にコミカルな色をふんだんに盛り込んだ本作。
本作……と言うよりも、崇山先生でなければ描けない内容になっております!
乙一先生の味わいや、映画の副読本としての楽しみはほとんどありませんが、そこはそれ!
本作ならではの味をご堪能ください!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!