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今回紹介いたしますのはこちら。

「潮が舞い子が舞い」第1巻 阿部共実先生 

秋田書店さんの少年チャンピオン・コミックスより刊行です。


さて、「空が灰色だから」の阿部先生最新作となる本作。
阿部先生作品といえば、少年少女たちの心の動きを描いた作品ですが、本作もその類の作品となっています。
さらに言いますと、「ちーちゃんはちょっと足りない」をはじめとした、心を抉ってくるような切れ味鋭いタイプの作品と、「ブラックギャラクシー6」のような明るいコミカルなタイプの作品の2パターンがありまして。本作はそのどちらなのかと言いますと……



海辺の田舎町にある、とある高校。
2年生の水木は、小柄な委員長、土上を抱え上げ、委員長離陸しまーす、と土上が空中遊泳するかのようにおどけておりました。
土上もまんざらでもなさげなのですが、そこに友人の風越が声をかけてきます。
俺たちもう高校2年生なんだぞ、しかももう5月だぞ、あほみたいに騒ぐのやめにしないか?と。
高校2年生の5月って人生で最もあほみたいに騒ぐ時期だろう、と妙に冷静に返す水木ですが、風越のその言葉の真意はふざけるのをやめろという事ではないようです。
風越は高2男子らしく女子の好きな部分を言いっこしよー!と続けるのでした。
隣の席に座っていた火川にも、そっちの方がいいよなと持ちかけると、絶対いいと即答。
土上も猥談は嫌ではないとの事なので……さっそく女子の好きな部分言いっこを始めるのです!

一番手は水木です。
たっぷり間を取ってから、水木祐樹17歳、牡牛座、僭越ながら申し上げさせていただきます!と意を決し、それからもう少し照れたりして時間を使いまして……出てきたのは、
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「おっぱい」と言うひと言でありました。
サイズがどうとかじゃないんだ、初期衝動っていうかさ、と謎の補足をしながら、次の日との発表を促す水木。
ですがいざ聞いてみますと、
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風越は「内臓」、火川は「体液」、土上に至っては「原子核」と、ちょっとアレな答えばかりが返ってきました。
男子高校生4人に聞いた結果、体内派が3人、体外派が1人と言うのは……なんだかアンバランスな気がします。
首をかしげる水木の横を、彼の幼馴染である女生徒。百々瀬が通りがかるのですが、そこに風越がこんな風に声をかけるのです。
二人ともそっちに一歩ずつ歩いて。
さっきまで百々瀬の内臓と体液と原子核が存在していた空間に今水木がいるという事実、なんかすごーく興奮しないか水木?
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……思わず顔を見合わせる水木と百々瀬。
直後、百々瀬は水木を睨みつけながら、気持ち悪いんだよ!と罵倒!
気持ち悪いの俺なのか、と理不尽な扱いに不満を漏らすのでした……

いや、そんなことはいいんです。
問題は、女子の好きな「部位」が知りたい、と言う事なんです。
おっぱいとかおしりとか脇とか鼠蹊部とか好きって認めろよ、ずっこいぞ!!
そんな駄々をこねる水木ですが、そんな水木に対し、ヤンキーがさっきからやかましいぞ、ここはみんなの教室だぞ!とものすごくまっとうに叱られてしまいました。
ですがここでへこたれるみんなではありません。
水木が不正を疑っているようなので、アンケートを取ろう!と土上たち皆が教室中を奔走します。
土上が連れてきたのは、さっき水木を一喝したヤンキーの中の一人でした。
何で起こられた後すぐにヤンキー呼べるんだよ!と内心驚く水木ですが、ヤンキーの答えの方にはさらに驚かされてしまいます。
「精神」。
……ヤンキーのキャラに合うかどうかはともかく、体内派がまた増えてしまいました。
続けてアンケートを取るために連れられてきたのは、メガネの似合う前島君です。
ギャルゲームが好きだと言う前島君の答えは……「歯」。
ここにきて、体内とも体外ともいえない第三勢力が出てしまいました。
さらに混迷する中に投下された更なる爆弾は、まさかの女子のアンケート対象者でした!
しかも男子に人気のある犀賀さんです。
なになに、告白ですか、水木ならいいよ、つきあっちゃおつきあっちゃお、と軽いジャブ代わりの冗談を言いながら登場した犀賀さん。
その冗談をまともに受け取ってフリーズしてしまう水木ですが……ともかくアンケートを取ってみますと……「精神」。
まさかの精神2票目!!
女体がエロではない、女体と言う対象にエロを感じている観測者の精神の中でこそ、その時初めて世界にエロが顕在した瞬間なのだ。
そんな感じで、土上がまとめようとしたりしなかったりするのですが、やっぱり小難しいことを言ってまとまる話題ではなくてですね。
水木は胸が好きなんだってよ、と火川が犀賀さんに告げ口しますと、また犀賀さんはおっぱい好きなんだ、触ってみる?水木なら触っていいよ、とまたからかってきまして……
水木は顔を真っ赤にしてフリーズしてしまうのでした。
そんな中火川が水木にこう耳打ちします。
おっぱいでかい子って最高だよな。
……今おっぱい最高って行っちまったじゃねえか!
こいつ今おっぱい最高って言いましたよみなさん!
お前体液派だろ、血とか汗と化眼球の湿り気とかに興奮こいとけよ!
男なら筋とおせ!!
渾身のツッコミをする水木。
ですが
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またまたヤンキーにいい加減にしろと怒られてしまい、あげくにわざわざやって来た百々瀬には全力で気持ち悪いんだよ!と怒鳴りつけられ、さらにじゃあ私も、と犀賀さんにはストレートを食らわされ……
こうして、何事もなく高2の時間は流れて行くのです。
潮が舞い込む海のそばの田舎町。
今日もこの地には潮やらなんやらいろいろ待っている様子。
しょっぱいすわ、しょっぱいっすわ!いろいろ!
そんな水木の心の声とともに……



と言うわけで、「ブラックギャラクシー6」のような明るいタイプのお話となっている本作。
この後も水木をはじめとした水火風土4人衆を中心にした日常が描かれていきます。
基本となるのはやはり思春期の心の動き。
主に水木の、高校生らしい、自分をかっこよく見せたいが故に出た行動なんかの、高校生だからこそギリ許される、思い出すと本人が一番恥ずかしいような行動がたっぷり収録。
ですが水木もただただ痛い男と言うわけではなく、時として学校でしている馬鹿行動とのギャップが大きい「いいところ」を見せてくれたり、百々瀬とのなんだかいい感じのおさななじみ関係を見せてくれたりなど、ただのお調子者ではない所も楽しめるのです。
さらに豊富な登場人物がそれぞれのドラマを展開し、学校はどんどんとにぎやかに!
恥ずかしくも楽しく、甘酸っぱくてちょっぴりほろ苦い、そんな高校生たちの青春群像劇となっているわけです!

本作では終始阿部先生の持ち味の一つであるどくどくな台詞回しによる掛け合いが楽しめるのも売りと言えましょう。
1ページにこめられた台詞量は膨大ながら、読めば読むほど引き込まれていく小粋なやり取りは流石の一言。
時にはほとんど台詞のないページも織り交ぜてメリハリをつけ、そのメリハリでもって油断したところにちょっとしたラブコメ的要素も盛り込んでくる、油断できない(?)構成になっています!
青春の気まずさや輝かしさ、おかしさに甘酸っぱさ、様々盛り込んだ本作も、やっぱり見どころだらけの作品になっているわけですね!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!