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今回紹介いたしますのはこちら。

「静さまは初恋である、浪漫斯はまだない。」第1巻 石川秀幸先生 

集英社さんのヤングジャンプコミックスより刊行です。


さて、全3巻で完結を迎えた「夜明け後の静」。
その完結後の物語を描くのが本作です。
連載誌をヤングジャンプから、ウェブコミックのとなりのヤングジャンプに移し、さらにテーマを浪漫斯(ロマンス)に絞りまして、本作は幕を開けるのです!!



静は厠……トイレに向かっていました。
それは、内臓の中を空にして、綺麗に死ぬために、です。
今は山手女学院の量に住む静、トイレは洋式です。
少し前に起きた維新で静の家の武家もおとりつぶしになり、こうして普通の生活をするようになったのですが、それまで武士の娘としての教育を受け続けてきた静は、あまりに常識を知らな過ぎました。
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洋式トイレの便座の上に立ち、その場で和式のように屈みこんで用を足す、と言う事からも何となくうかがえるでしょう!!
一通り「内蔵の中身」を出し終えると、静は担当を構えます。
恥の多い人生じゃった、齢14にして子をはらんでしまうとは。
そう呟く静……
彼女は武家に生まれ、きっちりとした縁組が行われる前に家がおとりつぶしになってしまったため……
まったく男女の行為についての知識を持ち合わせていなかったのです!!
男女が手のひらと手のひらを合わせれば懐妊。
そんなとんでもない嘘の常識を、本気で信じ込んでいたのです!
未婚のうちに子をはらんでしまうなど、武家の娘として恥ずべき行為。
自ら命を絶たざるを得ない、と彼女はそう考えたのでした。

……その男性と手のひらを合わせた行為と言うのは、転んだところを優しく引き起こしてもらったと言うシチュエーションでした。
ほとんど繰り返しになりますが……静は今まで、男性と隔離された状況で生きてきたと言っても過言ではありません。
その為……生まれて初めて、男性に親切にされたことで……早くも恋心のような感情を抱いてしまっていました!!
その男性と触れ合った手のひらを見ると、高鳴る胸。
静は武家に伝わる安産のお守り、腹帯を巻き……
宿した命に罪はないのじゃ、と自害を思いとどまるのでした。

そんなおかしな状況の静を見たのは、彼女を教える教師であるキャロライン。
まるでそっちの知識のない静、医者を目指しているのですから……これはちょっと問題です。
そこで、キャロラインの姉が開業しているという医者を紹介し、そこで週一回の女学校の休みに医学を学ぶようアドバイスするのでした。

で、そのキャロラインの姉のいる病院では。
いままさに、腹を切ろうとしている男がいるではありませんか!!
キャロライン先生の姉、ラビニアがどうしてそうなったかを聞いてみますと……
見知らぬ女子をはらませたから腹を切る、と言うのです。
なぜそうなったのかを聞いてみますと、女子の手を握ってしまった、とのこと。
……どこかで聞いたような……
自分のせいで女子に恥をかかせた、これは万死に値する。
真剣にそう言う彼に、ラビニアは言うのです。
これは始まっちゃったんだ、「恋愛」が、と。
そのタイミングで、病院の呼び鈴が鳴らされました。
その男性……凪がそこに向かいますと、玄関には三つ指をついて深々お辞儀をする女性……静がいたのです。
キャロライン先生に消化され参った、小此木静と申す、何卒……と静が顔をあげ、凪と目が合うと……
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ハッとするのです!!
そう、手のひらを握って子供ができたと言う相手は、この二人だったのです!!

瞬間、凪の脳裏には幼い日に叩き込まれた教えがよみがえります。
殿方より前に決して口を開いてはならない、殿方の言葉には「はい」以外の答えを返してはいけない。
だと言うのに、凪に向かって先に口を開いてしまった。
さらに、淡いと思っていた恋心は大分膨らんでいたようで、初めて体験する嬉しさや焦りや不安、恥ずかしさや期待といったあれこれがないまぜになった「恋愛」と言う道に戸惑い……倒れこんでしまうのです!
ですがそれは、凪によってしっかと抱き留められました。
そして凪はこう言うのです。
自重せよ、うぬ一人の体ではなかろう。
……さらに膨らむ、恋愛の感情。
どうしていいかわからない静は、自分の感情を……
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即興の生け花で表しました。
当時も今も、花を送ると言うのは親愛の印。
凪の方もそんな局面に出会うのは初めてのようで、これまたときめいてしまい……!!
そんなときめきを振り払い、懐妊後の体調不良で来たのか、息切れは、めまいは、むくみは?と医者の卵らしい質問をする凪。
静は、「殿方の言葉」に「はい」と答えるしかなく……
完全に、静が懐妊している、と診断せざるを得なくなってしまうのです!!
がっくりと肩膝をついた凪。
すぐに何とか立ち上がり、こう言いました。
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拙者は武家の男子、静殿をかかる羽目に陥れた責任、必ずや取り申す!



と言うわけで、なぜか子供ができてその責任を取る、と言う話になってしまう二人。
当然その考えの誤りはすぐラビニアによって正されるわけですが……
二人が同じ病院で、西洋医学を学ぶわけですから、すんなり物事が運ぶわけがありません!!
14歳の静、15歳の凪。
二人はともに武家の子供で、何の知識もなく世に放たれてしまった二人。
しかもその世と言うのは、「恋愛」と言う言葉が生まれたばかりと言う難儀な時代!
そんな時代で異性と初めて触れ合い、お互い意識しまくっている状態で物語は始まりまして……二人の恋愛がどうなっていくのか、と言うお話になるわけです!!
放っておけばなんだか変の方向に行きそうな二人を、こう言うお話が大好きなラビニアが面白半分でけしかけ、なんとか感とか前進していく……
そこに、静を慕うかつての使用人、茅や女学校の学友なんかがなどが絡み、独自の味わいのラブコメディに仕上がっているのです!!
前作でも見られた静のポンコツぶりも健在なうえ、凪もなかなか引けを取らないアレっぷり。
それでも二人とも真面目で誠実、根はやさしいため、ほっこりできるやり取りが楽しめます。

……が、本作は前作と違い、それだけでは終わらなそう。
静の姉が何やら気になることを言いますし、明治の世でも起こってしまう戦乱の影がちらついて……
ゆっくり歩むポンコツラブコメ、と言う物語だけではない、不穏な影がこれからどう動いてくるのか、そちらも気になるところです!!




今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!