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今回紹介いたしますのはこちら。

「えんこうさん」 西野マルタ先生 

リイド社さんのSPコミックスリイドカフェコミックスより刊行です。


さて、「五大湖フルバースト」で圧巻のマルタワールドを見せてくださった西野先生。
そこから数えて実に7年半ぶりの単行本となる本作は、西野先生が階段系の漫画を集めた雑誌「コミック特盛」やその系列誌で発表してきた読み切り三本を集めた作品となっております。
その実力は確かながら、独特の味がある故かなかなかブレイクに繋がらない西野先生作品、今回も大衆には寄せず、全作品がその独自の味を活かす「河童×相撲」をテーマにしたもの!!
今回は雑誌で発表してからこちらも6年ぶりに日の目を見ることになった表題作、「えんこうさん」を紹介させていただきたいと思います!!



山奥で道に迷ってしまった四人組の男女。
幸い親切な老人の家にたどり着き、一晩の宿と、亡くなりかけていたガソリンを分けてもらい、翌日無事帰るメドを立てることができました。
燃料の心配がなくなり、日も登ってくると余裕も出てくるというもの。
一同はその山中で見つけた池で、すこし遊んでから帰ろうと言う事になったようです。

昨晩はみんな疲れてきっていてすぐ眠りこけてしまったのですが、たった一人、紅一点のマリだけはせめてものお礼に老人のお話にきちんと耳を傾けていました。
それはこの山奥に伝わる昔話で、「猿猴さん」と言う妖怪の話でした。
猿猴さんは相撲好きで、誰かれかまわず相撲を挑み、人間が勝利を得ることができれば魚を毎日届けてくれたり、河童の秘薬をくれたりするのだとか。
ただ、相撲に負けてしまうと、「尻子玉」を取られてしまう……

そんな昔話を毬が思い出していると、ふいに今は誰も乗っていないはずの、一同がここまで来た車のクラクションが鳴りました。
慌てて車に戻ると、突如として内側から車のドアが蹴破られました!!
弾けるようにそこから飛び出した何か!!
それは目にもとまらぬ動きで、一同が釣っていた魚を鷲掴みにすると、
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頭から呑み込み始めたではありませんか!!
……その姿は、どう見ても河童です。
まさか本当に河童が存在しているとは。
驚く一同ですが、どこか愛敬のある表情、そして人間の子供ほどしかない体格から、恐怖心は湧いてきません。
マリが興味を示し、おいでと手を伸ばしてみるものの、河童は無視!
そしていきなり後ろに駆け出し、平らな地面を見つけるとそこに木の枝で大きな円を描きました。
そしてその縁の中に立つと、河童は大股を開いて足踏みをはじめ……四股、を踏むです!!
老人の言っていた相撲好きの猿猴さんと言うのは、この河童のことなのでしょうか。
つまりはこの円は土俵で、今まさに勝負を挑まれているようです。
そこで、四人の中で一番の巨漢であるタケオが前に出ます!
昔から相撲で負けたことはないと言うタケオ、胸を貸してやる、と土俵の中に入って手招き。
すると猿猴さんは、歓喜の声を上げて跳びかかってきました!!
が、そこは体格で圧倒的に勝るタケオ。
跳びかかって来る猿猴さんの首根っこを片手でつかみ上げ、完全にその動きを封じ込めたのです。
このまま地面にたたきつけるなり、土俵の外に放るなりすれば勝負は終わり。
あっさりと勝つことができた……と思いきや、猿猴さんは口から大量のよだれを流し、体中から汗を流し始めました。
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そのぬめりでタケオは猿猴さんの首をつかみ続けることができなくなり……猿猴さんはその掌から滑り抜けてしまうのです!!
瞬間、猿猴さんはタケオの片足をつかみ上げ、そのままさらに残った足を払って逆転の投げを決めたのでした!!
まぐれで負けただけだと悔しがるタケオ。
猿猴さんは両手を叩いてコミカルに喜びを表します。
タケオに勝ててうれしいんだ、ここは素直に負けを認めて許してあげよう。
そう話し合う一同だったのですが、その直後のことでした!
タケオが奇妙な声をあげて、大笑いを始めたのは!!
一体何が起こったのでしょう。
気が付けば、猿猴さんがタケオのパンツの中に腕を突っ込み、お尻の中の「なにか」をつかみ……
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引っこ抜いたのです!!
尻子玉、と言うのは……内臓の事……!!
猿猴さんは喜び勇みながら、
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タケオの内臓にかじりつくのでした!!!

一転して恐怖にかられた、残りの三人は一目散に逃げだします。
とりあえず猿猴さんの姿の見えない場所まで逃げてくると、あの車を用意したヒロシが突然、車に戻ろうと言いだしました。
あの車は父親のを無断で借りてきたから、河童にいたずらされて壊されでもしたら困る、と言うヒロシ。
実際猿猴さんは「相撲に勝ったら尻子玉を抜く」と言うのですから、そもそも相撲勝負を受けなければいいじゃないか、とこう言う主張をするのです。
確かにそうかも……と思う間もなく……ヒロシが、あのタケオのような笑い声をあげたではありませんか!!
いつの間にか追いついていた猿猴さんが、ヒロシの尻子玉をつかんでいたのです……!!
あの老人の話は、ひとつだけ間違っていました。
相撲勝負に負けたら尻子玉を抜かれるのではない。
相撲勝負に勝たなければ、尻子玉を抜かれてしまう……!!
残されたマリとトオルは、猿猴さんの魔の手から逃げることができるのでしょうか。
それとも……!!



と言うわけで、西野先生節を心行くまで堪能できる本作。
表題作である「えんこうさん」の他、薄毛に悩む大関・禿鷲山が河童の秘薬で禿を治そうとしたことからとんでもない大一番が始まってしまう「小銀杏譚」、そしてある河童とそれによく似た少年一平が入れ替わって相撲を取る「怪奇腕白相撲伝」が収録されています。
どの作品も共通するのは「河童」と「相撲」。
とかくコミカルな印象のある河童ですが、西野先生はそんな河童のコミカルさとともに、人とは違う妖怪であるが故の恐ろしさ、不気味さもしっかりと描写!!
かといって単純な妖怪ホラーにならない味付けを施した、流石のストーリーで楽しませてくれるのです!!

コミカルとシリアスを織り交ぜた西野先生独自のストーリーは相変わらず冴えわたっておりますが、西野先生のもう一つの魅力である、ダイナミックでありながらも緻密に描き込まれた絵力も見逃すことは出来ません!!
小さなコマに至るまで気を抜くことなく描き込まれ、物語を彩るその画力、もう言う事なしでしょう!!
劇画調と言いますか、昨今流行の絵柄ではないがために敬遠してしまう方もおられるかもしれませんが、読み進めて行けば間違いなく引き込まれていくことでしょう!!

さらにこの三本の他、カバーを外した本体の方にもう一本、読み切り「地獄のリサイタル」のQRコードが掲載されております!!
河童も相撲も出てこないため、統一感的な問題で収録されていなかったのでしょうか……
それでもクオリティ的にはこちらも相当レベルが高いものになっています!!
ある昔話を題材にした本作、どんでん返しに西野先生らしいオチにと楽しめる必見の内容ですよ!




今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!