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今回紹介いたしますのはこちら。

「痩せたいさんと失恋ちゃん」 原作・安田剛助先生 漫画・文尾文先生 

集英社さんのヤングジャンプコミックス・ウルトラより刊行です。


文尾先生は11年ごろから活躍されている漫画家さんです。
13年にコミックガムにて「三番目の月」を連載デビューされました。
ウルトラジャンプにて本作を不定期に読み切りで掲載しつつ、ヤングアニマルにて「私は君を泣かせたい」を連載されていたりと、精力的に活動されております。

そんな文尾先生が「じけんじゃけん!」の安田先生とタッグを組んで描かれる本作。
安田先生と言えば、上記の「じけんじゃけん!」では鳴りを潜めておられるものの、百合を得意とされている漫画家さんです。
実際現在もそっちの色を前面に押し出した「草薙先生は試されている」を連載中でして。
そんなわけで(?)本作もそっち系のお話になっております!
ですが安田先生の描かれる百合は甘いだけのお話にはならないものも多く、本作でもコミカルさや温かさや萌えだけではない、シビアな描写も用意されているようで……?



中学時代、凛子は数学が苦手でした。
そこで来てもらっていた家庭教師が、詩織です。
ある日、凛子は詩織の左手の薬指に指輪が光っているのに気が付きました。
結婚されるんですか?
そう恐る恐る尋ねると、詩織は照れ臭そうに笑いながらこう答えたのです。
実は大学卒業して、私の就職が落ち着いたらすぐにって話になってて。
凛子は眼鏡を外し……そして、先生って案外だらしないから幻滅されて振られなきゃいいですね、と冗談半分の言葉を返すのですが……
凛子の心の中は、激しいショックに襲われていたのです。
数学が好きになったのは詩織のおかげです。
でも、誰が失恋まで教えてくれと頼んだのでしょうか……

あれから時は経ち、凛子は高校二年生になっていました。
中学時代は高校になれば自然と大人になるものだと思っていた凛子ですが、やはりそうではないと言う事が自然とわかってきます。
勝手に変わるのは環境で、その環境が自分に大人になることを強いて来る。
そんな現実を思い知らされる事になったのです。
……主に、体重が。
凛子はランニングをして目標体重まで落とそうと、消費カロリーまで計算して走っていたのですが、そのランニング中に追い越した、同じようにランニングしていた女性に声をかけられたのです。
その声の方を振り向くと……そこにいたのは、詩織でした。
思わぬ再会に驚く凛子ですが、詩織は息も絶え絶え……
詩織の息が整うまで、旧交を温めることはできなさそうです!

詩織と凛子が合うのは中学三年の時以来、二年ぶりです。
最後の授業を終えて、夕食をふるまうことになったその食卓で、凛子は思わず『先生、やめちゃヤダ」と本音をつぶやいてしまいました。
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すると詩織は、困ったような笑顔を浮かべながら、ありがとう、と応え……そして、また顔見せに来るからね、と言ったのです。
それから詩織は一度も凛子の家にはやってきていません。
そのころの凛子は、詩織に対して一世一代の大恋愛をしているつもりでした。
今思えばそれは気の迷いにすぎず、大人の女性へのあこがれに近い感情だったように思えるのですが……

落ち着いてきた詩織に、先生もダイエットで走ってるんでしょう、と尋ねると、詩織は「も」ってことは凛子ちゃんも!?と食いついてきます。
ダイエットの話題と言うのはやはり盛り上がるもので、二人は明日もさぼらずここで一緒に走ろうという軽い約束を交わすのでした。

家に帰り、着替える凛子。
すると自然にほおが緩み、笑顔を形作ってしまうのです。
明日も先生に会える。
それはとても凛子を高揚させました。
それから毎日詩織と公園で会う凛子。
体重の方はすぐに戻ってしまいましたが、詩織に会いたい一心でランニングは続けました。
かといってあって何かをするわけではありません。
ランニングの後、二人で座ってとりとめのない話をする。
先生と二人きり、話をするだけのことが、凛子にとっては特別な時間だったのです。
とはいえもう流石に恋と勘違いはしない、人妻だしね、と凛子は詩織の手に視線をやりました。
ですがその指には、指輪がはめられていないのです。
何故指輪をつけていないのか、と言う事を聞いてみると、詩織は困ったような笑顔を見せるのです。
ダイエットは彼のアイディアで、彼に女として見られないと言われた。
詩織がつぶやいたその言葉に、凛子は強い怒りを覚えます。
なにそれ、ひどくない?
そう呟いてしまった凛子に、いいんです、もう本当に、とまたも寂しげにつぶやく詩織。
凛子はたまりかねて、しなくていいと思いだすけど、ダイエット、と言うのですが……
詩織は困ったような笑顔を浮かべて、ありがとう、と言うのです。
その笑顔は、あの日と同じ緩やかな拒絶を表すものでした。
先生にとって、私の言葉は行動を変えるほどの価値を持たないんだ。
だって先生は一度もウチに来なかったじゃない。
それって、とっても……
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腹が立つ!
我慢できなくなった凛子は、詩織の手を取りこう言うのです。
ハンバーグ食べに行きますよ、と!!

半ば強引に詩織の家にやって来た凛子。
ここでハンバーグを作るわけですが……入ったその部屋は先生の匂いがするものの、広くて寂しく、本当にここで二人で暮らしているのかと疑問がわくような部屋でした。
ともかく、ハンバーグを作りましょう。
とはいえそれは普通のハンバーグではなく、ダイエットメニューの定番、豆腐ハンバーグです。
それならばと先生の表情もようやく安心の色が見え……二人は並んで仲良く料理を行います。
暖かな気持ちに包まれながら作り上げた豆腐ハンバーグ。
ひっくり返すのに失敗して形が崩れてしまい、納得の出来にはならなかったものの、詩織はおいしそう、と満面の笑顔を浮かべています。
美味しい、凄い凛子ちゃん、ダイエットメニューなのにホントにおいしい!
そう笑う詩織に、凛子は慌てて照れ隠しの言葉で返します。
まあ、そんなの当然ですよ、私管理栄養士目指してるんで。
先生こそちゃんと料理しないと旦那さんに愛想尽かされちゃいますよ!
すると……詩織は、しばらく黙った後……驚きの真実を語ったのです。
凛子ちゃん、あのね。
じつは……結婚、駄目になったんです。
いろいろありまして、半年前のことです。
でも、凛子ちゃんのご飯のおかげで元気になりました、ありがとう。
これはもう、凛子ちゃんにお嫁に来てもらうしかないか……なあんて。
そんな詩織の言葉に、アハハ、なに言ってんスか、と答えた凛子だったのですが……その瞳からは、
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とめどなく大粒の涙がこぼれ出てしまっていて……!
詩織はそっと凛子を胸に抱き、ありがとう凛子ちゃん、私のために、とお礼を告げてきます。
ですが……凛子は気がついてしまっていました。
詩織のためにないているのではなく、自分勝手でうんざりするくらい幼稚な理由で泣いていることに。
自分はきっとこの後、罪悪感で死にそうになるだろう。
この気持ちは、
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恋だ。
私、他にもダイエットの方法知ってます、だから……!!

それから、二人の物語は再び始まりました。
もう先生と生徒ではないんだから、自分のことは「先生」ではなく「詩織」と呼んではどうか、といわれ、しどろもどろになりながら詩織さん、と呼ぶ凛子。
詩織はそんな様子をみて、可愛い、と頭を撫でてきて……
詩織のダイエットと、凛子の恋。
そんな二人の物語が。



と言うわけで、凛子と詩織の物語が描かれる本作。
若気の至りの勘違いだと思っていた恋心が、やはり本物である事に気がついてしまった凛子は、一度失恋した相手にまた恋をすることになります。
そして詩織は、別れてしまったはずの元カレに言われたことを引きずってのダイエットを、そんな凛子とともに続けるのです。
改めて恋をした凛子ではありますが、詩織はこう言った作品には珍しい気がする異性愛者、いわゆるストレート。
凛子の思いが通じることはあるのか、それともまた失恋することになるのか?
詩織のやさしさは、凛子を良くも悪くも揺さぶることとなるのです!

そして二人の物語は、二人の間の恋とダイエットの話だけでは収まりません。
凛子が抱えている家庭や学校の悩み、そして詩織に半年前に起きたことなどが絡み、ドラマを彩っていきます。
コミカルな描写を織り交ぜつつ、切ない恋心と押し潰されそうな悩み、そして確かな胸のときめき。
それらが重なり合って織りなす物語は、全1巻で完結となります。
そのフィナーレは、明確な終わりを当て描かない、これから先への期待や温かさを感じるもの。
シリアスな展開はアリながらも、しっかりと心をほっこりとさせてくれる一冊となっているのです!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!