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今回紹介いたしますのはこちら。

「アビスレイジ」第1巻 成田成哲先生 

集英社さんのジャンプコミックスより刊行です。


成田先生はジャンプの投稿サイト、ジャンプルーキーへの登校をきっかけに、16年ジャンプ+にてデビューした漫画家さんです。
その後17年に「マッチョグルメ」で短期集中とはいえ連載デビュー、そのまま初の単行本刊行となりました。
そして18年より満を持して本作の連載を開始!
こちらもめでたく単行本刊行となりました。



満天の星空の下、少年と少女が星を眺めていました。
いや、実際に星を「眺めて」いたのは少女の方、美琴だけでした。
少年、忍はどうやら目が見えないようです。
杖を抱えて座っている忍は、その星空の美しさを説明してくれている美琴の声を微笑みながら聞いています。
ずっと一緒に居ようね、私、忍の眼になるから。
そう言って隣に座る美琴の手をそっと握りながら、忍はこう答えました。
それなら僕は、命をかけて命を幸せにするよ。

時は流れ、忍は青年に成長していました。
今の忍は、深淵(みぶち)流徒手術と言う武術の次期継承者として鍛錬に励んでいます。
目の見えない忍がどうやって戦うのか?
にわかには信じられない話ですが、今対峙している対戦相手はむしろ気圧されてすらいる様子。
目の見えない相手が自分の位置を捕えているのは、「音」を辿っている。
それがわかっていたとしても、人間がそう簡単に何の音もたてずに動くことなどできるでしょうか?
足音、衣擦れ、風切り音。
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それらはどうしても発生してしまい、忍はその音を鋭敏に感じ取って攻撃を回避!!
すぐさま的確に目つき……の寸止めで勝負を決めてしまうのでした。

光が僕を照らし続けてくれる限り、目が見えないことを苦に感じることはありません。
盲目のハンデについて問われたとき、忍はほんの少し考えた後そう答えます。
その言葉の意味するところは……そう、今も隣に寄り添って立ってくれる美琴の言葉を今も大事に心に抱いているということ。
彼の胸に刻み込まれている約束は今も色あせることはないのです。

忍はこの深淵家に引き取られて10年間、美琴と、そして深淵流の現頭首である美琴の父、拓真とともに過ごしていました。
美琴を守るために深淵流の修行を積み、鍛え上げてきた忍。
美琴も子供のころから変わらず忍を支え続け、将来は結婚する、とまで言ってくれました。
正直言えば可愛い娘が子供のころから結婚すると言っている男がいる、と言うのは父として気が気ではないでしょうが……拓真も忍の頑張り、そして着実についてきた実力は認めています。
いつしか二人の仲はもうほぼ公認と言っていい状態になっていました。
そんなある日、美琴が道場にケーキを手土産にやって来ました。
それを持ってくるだけの予定だった美琴なのですが、なんでも妙な男と会ったのが気になったから伝えておこうと思ったのだとか。
変な口調の大柄な男が、「深淵新陰流」の道場は何処かと聞いてきたと言うのです。
新陰流、と言うのはこの深淵流徒手術の源流。
その名を知るものすら少ないはずなのですが、一体その男は何者なのでしょうか。
「後で伺わせていただく」と言い残して去って行ったらしいのですが……
が、その「後」はすぐやって来てしまいました。
顔に大きな傷のある、スキンヘッドの大男。
現れるなり土足で道場に上がり込み、さらに美琴の持ってきたケーキを踏みつぶしたその男、その上靴が汚れたじゃない、不快だわあ、と無礼極まりない言葉を吐くのです。
男の目的は自分の力をさらに高める為……深淵新陰流頭首、拓真との立ち合うこと。
本来他流試合を禁じている拓真は最初こそこの無礼な男の申し出を断るのですが……
男は、それなら後ろの二人に相手してもらう、と人質を取るようなことを言いだしてくるのです。
やむなく相手をする拓真。
今まで忍と組み手する時には見せたことのない、「本気」で男に立ち向かい、そして……!!
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結果は、傷の大男の辛勝に終わったのです。
大男の目的はもう一つありました。
それは、深淵新陰流の頭首の娘である、美琴の体。
取って食うわけじゃない、私の思い描く未来のためにあなたが欲しいの。
そう言ってほほ笑む男……!!
当然黙ってはいられない忍、到底勝てない相手だとうすうす感じてはいても……命を懸けて命を守ると言う決意は揺らぎません。
連続舌打ちとともに跳びかかる忍。
迎え撃つ男のハイキックをかがんでかわし、跳ね上がりながらの掌底で反撃を狙うものの、それをあっさり膝蹴りで迎え撃たれてしまうのです。
男は、忍の驚異的な周囲察知能力の種をこの一瞬で看破したようで。
「エコーロケーション」。
コウモリやイルカのように、音……忍の場合、舌打ちを撃つことで音を反響させ、それによって相手の位置を把握する行為。
確かにそれをこのレベルで行うのはとんでもない技術ではあるのですが、この男を相手にするにはまだまだ修行が足りないようで……

男はその後、忍を痛めつけます。
美琴を守ると言い張る忍から、自分の命だけは助けてくれと言う言葉を引き出すために。
ですが忍は弱々しくお願いするような口調にはなるものの、美琴を連れて行かないでくれ、という主張を曲げることはありませんでした。
男はしびれを切らした……と言うよりも、その表情が気に入ったようで……忍の「体」を毒牙にかけようと舌なめずり!!
そこでとうとう美琴は、自分からついていく、と男に申し出るのです。
ずっと一緒にいたいって言ったけど、嘘だから。
誰かほかにいい人見つけてね。
涙ながらにそう言って、美琴は……ケーキではない、小箱を置いて、男と共に去って行ったのです。

残されたその箱の中に入っていたのは……二つの指輪。
……嘘だった。
忍はつぶやきました。
ずっと一緒にいたいって言ったけど、嘘だから、という美琴の言葉は嘘。
そして……命を懸けて命を幸せにする、と言うかつての自分の言葉もまた、嘘……
体の中を駆け巡る、やり場のない激情……!!
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忍は、暗闇の中一人、言葉にならない絶叫を上げるのでした……

それから忍の生活はがらりと変わります。
ただただ自分を追い込む鍛錬を重ね、あの男の幻を見てはさらに怒りと恨みを募らせる。
そうして時間は流れ……三年の月日が流れました。
三年前とは別人のように変わり果てた忍。
その忍の元に……明らかに不審な集団が押し掛けてきます。
銃を含めた武器で武装した危険な集団ですが……それこそが、この三年間忍が待ち焦がれていたものだったのです……!!



と言うわけで、目の見えない忍が復讐鬼と化す本作。
師を痛めつけられ、共に歩み、将来を誓い合った恋人を連れ去られる。
全てを失ったと言ってもいいこの状況で、忍はその激情をすべてあの大男、真神へと向けていきます。
今まで以上に訓練に打ち込み、全てを注いで体を鍛え治してきました。
その実力はどこまで上がっているのでしょうか。
そして、真神にその力が通用するのでしょうか?
忍の元にやって来た、武装した怪しげな集団が、忍を思いもよらない場所へと連れて行きます。
その場所は誰も予想していなかった場所、ではあるものの……忍が求めてやまなかった場所でもありました。
そこで、忍は戦いに巻き込まれていくことになるのです。
美琴を取り戻すために命を懸けた、本当の戦い……サバイバルバトルに!!

本作の売りはやはりテンプレート的な展開ながら滾るもののある復讐劇と、盲目ながら襲い来るものをなぎ倒すアクションシーン。
マッチョグルメで見せつけてくれた厚みのある肉体同士がぶつかり合うバトルは見どころ満点!!
登場する敵もまだ数は少ないながら、曲者ぞろいのようで目が離せません!!
エコーロケーションと言う、「シンシア・ザ・ミッション」の宝を思い起こさせる能力だけではない、それ以外の力もこれからたっぷり見せてくれそうですしね!!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!