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今回紹介いたしますのはこちら。

「衛府の七忍」第6巻 山口貴由先生 

秋田書店さんのチャンピオンREDコミックスより刊行です。


さて、徳川幕府に激しい恨みを抱く、怨身忍者が生まれて行く本作。
戦いに倒れるもの、人ならざる鬼と化した怨身忍者を倒したもの、その行く末が描かれるのはもう少し先になるようです。
今巻では前巻から描かれているツムグ編の決着、そして思いもよらない人物が主役となるシリーズが始まるのです!!



慶応四年。
新選組隊士、永倉新八と原田左之助は病の床につく沖田総司を見舞っていました。
その片手には、土産と称した犬の肉をぶら下げています。
見舞われる方の沖田は、
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そうですかそうですか、通りすがりの犬を殺して見舞いの品にしちゃいますか、と皮肉の言葉とともに迎え入れるのですが、永倉たちは悪びれもせず。
血抜きしてあるから、とさっそく鍋の支度をするのでした。

長命寺の桜餅が良かったとぼやく沖田でしたが、店なんてどこもやっていない、と永倉。
江戸は討幕軍に包囲され、将軍は避難して山へ。
260年続いた三つ葉葵もいよいよ落日だ、と現在の状況を説明するのでした。
もはや幕府は風前の灯火。
「薩長を見たらとりあえず斬れ、理由は斬ってから考えろ」。
京にいた時の新選組はそんな言葉と、土方の命に従い、深く考えることなく刀を振るっていました。
凄春(せいしゅん)だった。
沖田のその言葉に、二人は力強く同意します。
ですがそんな輝かしい時代も今は昔、このまま討幕がなされれば、新選組は賊軍、後世に悪名が残る、と沖田。
ですが永倉と原田は、世が世ならお前は剣の腕で大妙になれた、と沖田をほめたたえるのです。
ようやくお見舞いらしくなってきた、と漏らす沖田……その視線の先には、名刀、菊一文字則宗が静かに鎮座していました。
そんな沖田を、二人はさらに持ち上げます。
お前の突きの威力はすごい、竹刀で畳四枚をぶち抜く!
池田屋の時に見たぞ、俺と総司と近藤さんと、たった5人で30の不逞浪士の群れに突入した!
あの時お前は喉が破れて吐血したことになっているが、本当は喉を鳴らして敵の熱い血を飲んでいたんだ!
まさしく魔刀菊一文字、血をすすって補給するのは鎌倉の世の合戦作法!!
……そこまで褒められますと、流石に沖田も弱り顔。
持ち上げ過ぎだなぁ、重すぎるんです、今の私に菊一文字は。
沖田は顔を伏せ、そう呟くのでした。

そんな沖田が菊一文字とともに忽然と姿を消したのは、江戸城無血開城がなされた明治元年。
沖田は……見覚えのない街の中に放り出されていました。
そこにやって来た三人の帯刀した男。
官軍の見回りか、と思ったものの……その風体は旗本奴、沖田の時代にはとっくに滅び去った昔の流行。
困惑する沖田に、男たちはお前が旗本狩りの鬼か?と尋ねてきました。
新選組はむしろ守る側、そんなことはあり得ないときっぱり答えるのですが……
男たちは、知んねーし、と全く話を聞く気を見せません。
彼らを守るために、仲間たちは死んだ。
だと言うのに、何故知らないなどと言うのか。
沖田は、「誠」の旗が泣いている、と涙を流すのですが……
男たちは、そろそろ無礼討ちで良いだろう、と有無を言わさず沖田に斬りかかってきたのです!!
が、流石に相手が悪すぎました。
沖田は刀を抜かんとする男の手を膝で押し止めて抜刀そのものを阻止。
そして続けざまにひじ打ちを放ち、一人の頭蓋を叩き割りました。
続けて刀を振り下ろしてきた男には、刀を抜きすらもせず柄で迎撃!!
肉を裂き、骨を砕きながら、顎の下から頭頂部まで突き破ったのでした!!
残った一人はさすがにひるんだようで、やっぱりお前は旗本狩りの鬼だな、正体見せろや、と油汗をしたたらせて立ち止まります。
沖田はとうとう刀を抜きながら、こう答えたのでした。
鬼じゃない、鬼より怖い壬生の狼だ。

最後の男は、改めて大上段に刀を構え沖田を迎え討とうと覚悟を決めました。
熱い、と思った瞬間に刀を振り下ろす、そうすれば必ず相打ちにはなる。
……しかし沖田にはそんな男の心中も見透かしていました。
ひらめく三つの光。
気が付けば男は、胸に三つの風穴を開けられ、絶命していたのです!!
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相打ちにはならない。
沖田総司を前にしたら瞬きするな。
沖田は物言わぬ躯と化した男に、そんな言葉を送るのでした。

結果だけみれば圧勝ですが、沖田からすればこの男たちは強敵でした。
沖田が対峙してきた侍たちは、徳川の身分に甘えて平和ボケしたものばかり。
だと言うのに彼ら、まるで会津か薩摩のような精悍さを持っていたのです。
ここは自分のいた江戸ではない、人も、風も……

自分の知っている匂いを求め、沖田は愛宕神社にたどり着いていました。
社殿を目指す階段を登っていると、そこであまりに面妖なものとすれ違います。
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霓鬼(げいき)。
……怨身忍者です。
沖田が言葉を失っているうちにそのまま通り過ぎようとする霓鬼ですが、流石に黙っては通せません。
旗本狩りの犯人ですね、260年続いた幕府は終わった、放っておけば滅ぶじゃないですか。
そう声をかけると……霓鬼は言うのです。
汝はこの現世の住人か。
江戸城には二代将軍秀忠、駿府には家康がのさばっておる。
……一体何を言っているのか。
絶句しているうちに、霓鬼は姿を忽然と消していました。
家康って言ったよね今、と沖田は階段を駆け上がり、あたりを一望できる場所に行くと……
そこに見えたのは、堂々と聳え立つ江戸城!!
沖田はここで信じられない現実を知ることとなるのです。
明暦の大火で焼失したはずの江戸城天守閣……!
ここは、幕末じゃない!!



と言うわけで、まさかの沖田総司編が幕を開ける本作。
二つ前のエピソードで宮本武蔵が登場したため、実在の剣豪が鬼をも凌駕する存在として描かれるのはそれほど驚くことではありません。
ありませんが、ここでまさかタイムスリップまでしてくるとは……
さすが山口先生、面白くなりそうだと思ったら何でもしてくださいます!!
しかも今までの物語の構成とは違い、いきなり怨身忍者となった状態の鬼とすれ違い、因縁めいた物を作ってからお話を進めて行くと言うのも興味深いところ。
沖田が幕末とは全く違うこの世界での剣士の在り方に何を思うのか?
そして怨身忍者と対峙するのか、ひょっとすれば協力するのか?
そんなこれからの展開が楽しみになる構造となっているわけです!!
さらに沖田はこの後この時代にいるあるビッグネームと出会うことに。
そんなビッグネーム同士の邂逅と言う目玉も用意されていて、読者をさらに興奮させてくださいます!!

前半に収録されたツムグ編の決着も見逃せないところ。
諏訪頼水にさらわれたテヤンはどうなるのか、虐げられてきたツムグたちの一族はどうなるのか?
過去作のキャラクターも登場する本作、このシリーズにまさかのあんなキャラが出てくるとは……
と、こちらも見どころ満点!
ますます必見の内容となっているのです!!




今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!