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今回紹介いたしますのはこちら。

「煉獄女子」第1巻 室井まさね先生 

竹書房さんのバンブーコミックスより刊行です。


さて、「屍囚獄」を完結させた室井先生が早くも連載を開始した新作となる本作。
本作もまた前作のようなサスペンス系ホラーなのですが、今回の舞台は普通の学校となっています。
そんな普通の学校で巻き起こる、恐怖の事件とは……?



理科室に響く、水のしたたり落ちるような音。
ですが床にしたたり落ち、水たまりを作っているのはただの水ではありません。
……血です。
血がしたたり落ち、血だまりができているのです。
そしてその血だまりを作っているのは……
教室で吊るされ、全身から血液がしたたり落ちる無残な姿となってしまっている女生徒でした。
そしてその女生徒の亡骸の背後には……血のように真っ赤な文字で、こう書かれていたのです。
メメント・モリ。
汝、死すべき運命にある事を知れ、と。

そんな事件が世間を騒がしている中でも、日常と言うのはやってきます。
詩音は今日から高校生になる女子。
彼女は朝ご飯を済ませ、始めていく学校へ向かう前に……こう祈るのです。
どうか、同じクラスになりませんように、と。

ですがそんな祈りは打ち砕かれてしまいました。
詩音は、絶対に同じクラスになりたくない女子、伊島と同じクラスになってしまっていました。
中高一貫校に通っている詩音は、中学時代に伊島と同じクラスになっていて……ずっといじめられていたのです。
高校入学を機に別の学校へ行こうかとも思ったのですが、学力的にも経済的にも頑張って入学したことをふいにすることを父親は許してくれませんでした。
せめて違うクラスになってくれればと思っていたのですが……
その思いもむなしく、伊島と詩音は同じクラスに。
そして、伊島の差し金なのか、高校生活初日からさっそくクラスのほとんど全員からのいじめが始まってしまいました。
たまらなくなった詩音は教室から飛び出して逃げ出すのですが、そこで教室にちょうど入ろうとしていた女子とぶつかってしまいました。
その女子は……
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見覚えのない、ですが同じ女子でも一目で目を奪われてしまうほどの美形でした。
ごめんなさい、大丈夫?
そう尋ねてきた彼女は、そのまま自己紹介を始めました。
私、瀬尾霧恵。
青戸中学から来たの、よろしくね。
彼女に見覚えがなかったのは、別の中学から高校に入ってきた外部の生徒だったからのようです。
詩音も名乗って握手をするのですが、それを見たクラスメイト達は、あいつ握手したぞ、感染決定、などと小学生のような悪口ではやし立てるのです。
霧恵はそれを見て……子供ね、あなた達、とくすくすと笑いました。
馬鹿にされたとも取れるその言葉ですが、クラスメイト達は彼女の美しい笑顔に心を奪われ、その発言に怒ろうという気持ちすら浮かんでこないようで……
霧恵は全く取り合わず、詩音に仲良くしてくれと頼んでくるのでした。

その日の放課後、早速霧恵は詩音に一緒に帰らないかと誘ってきました。
いきなり呼び捨てで呼んでくる彼女にちょっと驚きながらも、断る理由もなく一緒に帰ることにした詩音。
ですが、そこにあの伊島達が立ちはだかり、霧恵に優しく声をかけてくるのです。
知り合いあんまりいないんじゃない?何か困ったときは相談してね、これからカラオケに行くんだけど良かったら一緒にどう?
そうやって霧恵を誘い、囲い込んで詩音を孤立させる……そんな算段なのでしょう。
詩音からしてもその光景は見慣れたもの。
伊島は自分のものすべて、友達も居場所も奪っていく。
また私は独りになるんだ……
楯突いたところでどうにもならないのは今までの経験でわかっています。
詩音は何も言わず、そっとその場を立ち去るのです。
……が、そんな詩音の手首を、ぎゅっと握る手が伸びました。
霧恵です。
霧恵が詩音の手首をとり、伊島達にこう断言したのです。
お誘いありがとう、でも、私今日は詩音と一緒に帰るから。
不満そうな顔をしている伊島達を置いて、霧恵は詩音の手を取ってそこから去っていくのでした。

ふたりきりになったところで、詩音は切り出しました。
伊島さんには逆らわないほうが良いよ、彼女たちに目をつけられると大変だから。
私と一緒にいると、瀬尾さんももしかすると……
言いづらそうにそう言う詩音ですが、霧恵はそんな詩音の顔を見てこう言いました。
自分の友達は自分で決める、あの人たちにとやかく言われる筋合いないわ!
霧恵でいいよ、そう呼んで……友達なんだから。
そっと詩音の顔に手をやる霧恵。
その今までずっとかけてほしかった言葉を聞いた詩音は、自然と笑顔になってしまうのですが……
その時、見てしまったのです。
霧恵の手首に、
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多くの傷跡があるのを……!!
見られたことに気がついた霧恵はさっと手を隠し、行こう、と傷のことに会えて触れないようにして歩き始めました。
その傷は、詩音にとっても覚えのあるもので。
毎日のように続くいじめの辛さから、カッターを自らの手首に当てることもあった詩音。
彼女も自分のように……?
詩音は思わず自分の手首を握りしめ、息をのみました。
その様子を見て、霧恵がどうかしたのかと尋ねてきたのですが、流石にいきなりそんなことを尋ねることもできません。
別に、とはぐらかすことしかできない詩音ですが……
そこで視界の端に、とんでもないものが飛び込んできてしまい、それどころではなくなってしまったのです。
それは……車に轢かれてしまったのか、無惨な姿になって息絶えてしまった猫の死骸!
思わず叫び声を上げてしまった詩音、その叫び声でようやく霧恵は猫の死骸に気がついたようなのですが……霧恵がその時とった行動が、驚くべきものだったのです。
流れ出ていた血液を踏んでしまっていた霧恵。
霧恵は靴を何度も地面にこすりつけてその血を拭い取り……
そして、なんの影もない、やれやれと言った感じの笑顔で
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やあねぇ、と一言だけ言って、クレープでも食べていかないかとまた歩き始めたのです!
その異様ともいえる反応。
詩音はその表情にいいしれない不安を感じるのですが……
その不安が的中することになるとは、思いはしなかったでしょう……



というわけで、謎多き少女、霧恵との出会いから物語が始まる本作。
陰湿ないじめを受けていた詩音の救いの神のように姿を現した霧恵ですが……
時折見せる不気味な貌が不安を掻きたてるのです。
そして巷を騒がしている学生の変死事件。
その事件と彼女には、あるつながりがあるようで……さらにその事件は、詩音のみの周りにも起き始めてしまうのです!

展開の速かった「屍囚獄」ですが、本作も次々と事件が巻き起こっていきます。
ですが同時に、霧恵周りのあれこれはじっくりと進めていく印象で、彼女が本当に事件と深いかかわりがあるのか、と言うことはぼかしたまま進んで行きます。
大小さまざまな被害の起きる事件はもちろんの事、霧恵自身にも驚きの事態が起こるなど、物語は混迷……!
そしてそんな事件の様子と同時に、霧恵と詩音の関係をじっくりと掘り進めていくのです!
スピーディーかつじっくりと進んでいく物語は、霧恵の得体のしれなさ、詩音の揺れ動く心をしっかりと表現してくれます!
これからどうなっていくのか、何となく想像はできるものの、それが本当にそうなるのか、そしてそうなってしまったらどんなに恐ろしいか……
これからの展開が楽しみでなりませんね!!


ところで、いじめられっ子の元に美女がやってきて救ってくれ、そしてその美女を中心に事件が起きる……と言うのは、ことらも少し前に完結した「サエイズム」と近いものを感じます。
感じますが、室井先生と内水先生の作風の違いから言いまして、「サエイズム」ほどはっちゃけたお話にはならず、「煉獄女子」のほうはもっとシリアスで陰惨なお話になるでしょう!
スタート地点の近さから、終着点はどレだけ離れているのか、と言う……ちょっと設定の近い作品があるからこその楽しみ方をするのもよろしいのではないでしょうか!?


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!