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今回紹介いたしますのはこちら。

「それでも町は廻っている」第16巻 石黒正数先生 

少年画報社さんのYKコミックスより刊行です。


さて、丸子商店街を舞台に、歩鳥があれやこれやと事件に巻き込まれたり事件を起こしたり、何もしなかったりする本作。
独特の雰囲気が多くのファンを生み、10年を越える長期連載となり、アニメ化もする大人気作となりましたが……今巻にてとうとう完結!
そんな最終巻となる今巻の中で、最終回直前のお話「嵐と共に去りぬ」を紹介したいと思います!!



なんだか最近は雨ばかり続いています。
天気予報では明日も明後日も傘マーク。
テレビでは台風の接近の報道もありまして、まだまだ雨は続いていきそう。
そんな中でも、歩鳥はいつもの様に紺先輩の家を訪ねて、いつもの様にとりとめもない話をしていました。
折しもその日は9月6日、あの語呂合わせでおなじみの紺先輩の誕生日直前。
ですが当日はどうも台風が直撃する日のようで、台風が去ったら、今年こそは誕生会をしようと約束して歩鳥は家に帰るのでした。

翌日。
台風はまっすぐに日本に向かってきておりますが、嵐山家は……いや、世間の大半は台風の被害にある程度警戒はしていながらも、それでもたいしたことはないだろうとたかをくくっていつも通りの生活をしておりました。
歩鳥たちもいつものように生活をして、お昼休みにはタッツン&針原さんといっしょにお弁当を食べていたのですが、そこに紺先輩から電話がかかってきました。
どうやら台風に関しての忠告のようで、歩鳥はわかっている、8日は紺先輩の家にはいかず家で大人しくしている、と返答するのですが……
紺先輩のテンションはただ事ではありませんでした。
紺先輩のお父さんは、気象庁で研究員をしていらっしゃるのですが、そちらの方から今回の台風はそんなレベルではない、と言う情報が入ったのだとか。
紺先輩は真剣に、頑丈な建物の3階以上に逃げろ、と念押しして電話を切りました。
が、やはりそれほど危機感というものはわいてこないわけで。
タッツンはうちは3階建てだからセーフ、と笑い、針原さんはウチもマンションの5階だからと平気な顔。
気象庁はいつも大げさに言うから、などと真剣にはならず、台風が行ったら紺先輩とタッツンの誕生会をやろう、と次なる話題へと移行してしまうのでした。

とはいえ、なんだかんだとしっかりしているところもある歩鳥。
しっかりと防災リュックなどの準備をして、いざと言う時の事態への備えをしてから、床につきました。
明日は休校になるかななどと考えながら電気を消しますと……その電気を消した、と思った瞬間から、とんでもないことになってしまったのです!
なぜか自分の部屋ではなく、何もない空間にいる歩鳥。
そして、その背後には……何とも形容しようのない、ザラブ星人のような体形の何かがたたずんでいたのです!!
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仰天し、これは夢だと眠ろうとする歩鳥ですが、その何かは歩鳥に話しかけてきます。
ビビりながらもやむなくその話を聞いてみますと、なんでもその何かは、歩鳥たち普通の人間には知覚できない高次元の存在なのだと言います。
その高次元の存在が、なぜ歩鳥にこうして接触してきたのかと言いますと……
明日の大災害で被害をこうむる人間の中からランダムに一人を選び、その一人にある選択を促すため、だというのでした!

まずその高次元の人は、歩鳥に明日上陸する台風のもたらす被害の映像を歩鳥に見せてきます。
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その台風の被害は想像を絶するもので、町は濁流にのまれ、車も、家すらも押し流されてしまうすさまじいもの。
高次元の人によれば、雨が続いていた中で、東京湾に向かう形で台風が上陸するという悪条件の重なりと、住民の台風に対する認識の甘さから被害はより一層拡大してしまったとのこと。
約6000人が死亡、400万人が被災して関東の一部が壊滅する……
その被害を聞かされた歩鳥は、皆に伝えようとするのですが、この場での記憶は目覚めればすべて忘れてしまうとのこと……
そこまで聞かされた歩鳥は、このことを教えてくれた高次元の人にぶち切れ!
こんなことになるのがわかってんなら何とかしろよ!!と怒鳴りつけると……そこで、彼は奇妙な円筒状のものを出してきて、こう言うのです。
ここに、台風を消すスイッチがあります、と。
即座に歩鳥はそのスイッチを押そうとするのですが、高次元の人は慌てて回避!
あぶねぇ、話ちゃんと聞けよ!とちょっと切れた後、いよいよその選択を詳しくし始めるのです。

このスイッチを押した瞬間、台風は消滅する。
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同時に、あなたの存在も消滅する。
……高次元の人は自分が体験していないからわからないとのことですが、最初からこの世界に生まれていなかったことになる、とのこと。
歩鳥が消えたことは誰にもわからず、つまり災害を消した歩鳥に感謝するものもいない。
ただ何事もなかったかのように、台風の来ない9月8日を迎えるだけ……
それでもスイッチを押すのか?
これは、そういう選択なのだとか……
災害に関して、細かいことは教えてもらえませんでした。
死ぬ6000人の中に、自分やその知り合いは含まれているのか、と言うことも。
……ですが一通り説明を聞くと、歩鳥は不思議と落ち着きを取り戻し始めます。
一度死にかけた経験があるからでしょうか……?
歩鳥の胸をざわつかせるのは、自分が死んでしまうという恐怖よりも、お父さんやお母さん、丈由、由紀子、ジョセフィーヌ、婆ちゃん……みんなが、あの災害に巻き込まれてしまったらどうなるか、と言う恐怖です。
自分が消えるということよりも、みんなの「これまで」と「これから」を壊されることのほうが怖い……気がする。
ですがそれは本当に自分の本心なのかと自問しても、答えは出ず。
しばらく考えた後、歩鳥は憑き物が落ちたかのように穏やかな表情で言いだしました。
すげー楽しかったんだよ。
あんたはいつも楽しそうだってよく言われた。
こりゃあこの時のために、短くてもたくさん楽しくしてくれたのかもしれないなぁ。
神様か何かが……いや、みんながだな!
サッとボタンに背を向け、歩鳥は本当に台風は消えるんだろうねと高次元の人に念押し。
間違いなく、と言うその返答を聞くと……
歩鳥は涙をぬぐい、再びボタンへと振り返り……!!



というわけで、完結を迎える今巻。
とんでもない展開を迎える子の最終回前話ですが、一体その結果はどうなってしまうのか!?
この後繰り広げられる最終回と合わせて、注目の内容となっています!!

完結を迎えはする本作ですが、日常ものと言うことで、最終回に向けての特別なお話と言うのは存在しない……というわけではなく、もろもろの出来事にある程度の決着的なものはつけられていきます!
タッツンの真田に対する想いとその真っただ中にいる歩鳥。
森秋先生の色恋にまつわるあのお話。
いつもでも続くわけがない、メイド喫茶シーサイドの終わり……!
そんなあれこれがあるものはふんわり、あるものはかっちりと描かれ、いつにもまして心に残るお話となっているのです!!

最終回までを収録している今巻ですが、最終回はよくもわるくも最終回らしくないと言えばらしくない、とも言えるものでした。
自分としてはこれはこれで良いと思うのですが、最終回は最終回らしくしんみりしたい!という方もおられることでしょう。
そんな方の留飲を下げる(?)、その後を描いたエピローグがなんと13P描き下ろされているのです!!
本作である意味一番気になるかもしれないあの人物とあの人物の関係の決着を描いたこのエピソード……まさに必見!!
本作の今までを見てきた方ならば、こみ上げるものがあるこのエピローグのためだけでも購入の価値ありですよ!!!

ちなみに同日に初となるファンブックも発売されています。
今までのカラーイラストを一挙収録しただけでなく、全話の時系列を並べた年表、単行本未収録話や各種特典などのために描かれたスペシャルなエピソードを収録!
その中で特に目を惹くのが、先生自身による再読の手引きでしょう!!
とんでもない文章量を誇るこの再読の手引きとともに、もう一度読み返してみるのもたいへんよろしいのではないでしょうか!
ちなみにこの再読の手引きで、紹介したエピソードや最終回の仔細な解説もされていますので……合わせて楽しむのが大変オススメです!



今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!