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今回紹介いたしますのはこちら。

「東京昆虫ムスメ」第1巻 石川秀幸先生 

小学館さんのビッグコミックスより刊行です。

石川先生は14年にデビューした新人漫画家さんです。
今から20年ほど前にスピリッツで漫画賞を受賞した後、サラリーマン生活を経て13年から本格的に漫画を描きだしたとのことで、新人さんながら様々な経験を積んでおられるようです。
そんな石川先生が描く本作は、製薬会社を舞台にした、女性の日常ものと言った作品。
そしてタイトル通り昆虫をフィーチャーした作品になっているのですが……!


イザナミ製薬。
そこに、新入社員である島城夏帆がやってきました。
夏帆は母親と電話をしているようです。
難しい病気の治療薬の開発を手掛けている、と言うようなお話の内容だったのですが、まだその部署には強配属されるところ。
第3研究部第7開発室の勤務を命ずる、という辞令を受けた夏帆なのですが、そんな彼女を待ち構えていたのは、なぜか箒を持ったスレンダーな女性一人でした。
彼女は離すよりも見たほうが早いから、と言って夏帆に声をかけながらどんどん進んでいってしまいます。
わけもわからないまま彼女についていくと、やがてその開発室にたどり着いたようです。
パスワードを打ち込んでドアのロックをはずし、さあ中へ……と思いきや、手にしていた2本の箒のうち一本が夏帆に手渡されます。
女性は、その箒でこの開発室のドアをたたいて、とよく分からない指示をして来たので、夏帆は恐る恐るはたきでほこりを払うように扉をパタパタ叩いてみました。
ですが女性は、それじゃだめだとばかりに扉の前に立ち……振りかぶって、思い切り放棄を扉にたたきつけたのです!!
もっと強くドアに衝撃を与えないと、外に逃げちゃうでしょ。
そう言って、ドンドンと机をたたき続ける女性……
あっけにとられ玉真夏帆がそれを眺めていますと、しばらくしてからようやく女性は扉を開けて中に入っていきました。
それに続いて中に入る夏帆ですが、部屋の中は真っ暗。
ですがその耳に、何かが……這いまわるような音が聞こえるのです。
その音の出所、そして「何が」外に逃げるのか。
それを、夏帆はすぐに知ることとなりました。
女性が電気を付けると、部屋は途端に明るくなります。
ようやく全容が見えたその部屋の中には……
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数えるのも馬鹿らしくなるほどの、膨大なゴキブリがあふれかえっているではないですか!!
あまりの光景に絶句する夏帆。
そんな彼女に、女性はさらにとんでもないことを言い出しました!
第3研究部は殺虫剤を研究する部署で、第7開発室は時期試作殺虫剤用のゴキブリを50万匹放し飼いにしている部屋。
ゴキブリの飼育と、下半期の新薬検証用に追加で3万匹増やすこと。
それがあなたの仕事よ。
……難病の開発なんて夢のまた夢。
思い描いた夢とのあまりのギャップに……いや、もしかしたら大量のゴキブリを目の当たりにしたショックかもしれませんが……夏帆は固まってしまうのでした!!

お昼休み、夏帆はやり場のない怒りを抱えながら食事をとっていました。
あの後、課長に自分が提案した新薬の企画はどうなったのかと尋ねてみたのですが、アレは新人に毎年書かせている提案書で、研修の一環でしかない、入って半年のお前に新薬開発なんてやらせられるはずがないだろう、とあっさりと現実をつきつけられてしまったのです。
地元の小さな薬局で薬剤師をして、静かに暮らす道もあった。
それなのに東京に出てきたのは、こんなことをするためじゃないのに……!
うっすら涙を浮かべながら、ハンバーガーにかぶりつく夏帆。
そんな彼女の心の中を見透かすように、お母さんから電話がかかってきました。
ですが夏帆は、新薬の開発は順調だ、となぜか見得を張ってしまい……
そんな自分に自己嫌悪しながら、それでも帰りたいなんて言わない!と決意を新たにする夏帆!
まぁそれは、そんなことしたらカッコ悪いという……やっぱり見得ゆえなんですが!
ところがそんな時、その見得すら吹っ飛ばしかねないとんでもない出来事が巻き起こってしまいます。
袖の中に、一匹のゴキブリが潜んでいまして。
それが、
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今まさに口の中に運ぼうとしていたハンバーガーの上に乗ってしまったのです!!

三か月が立ちました。
こういう仕事だからおしゃれしてみようとも思ったものの、ゴキブリは15分に一回の割合でおならをするため、50万匹のおならによってすぐに香水が台無しになってしまうため、すぐにそれは断念しました。
しかも、オスとメスをきっちりと分けて管理しないと、繁殖が上手くいかないため一匹一匹肉眼で腹部を確認してより分けなければいけなかったり、子供はいじめられやすいから子供だけを集めて飼育しないといけなかったりと、とんでもない大変な仕事が連続するのです!
そんな日々を過ごしていく間に……なんといいますか、愛着のようなものがわいてきてしまいました。
夏帆本人はそんなわけないとも思っていましたが、街中で自分の袖の中からまたゴキブリが顔を出した際も、パニックになった町の人々をしり目に、そっと掌の中に隠し、街の中に逃がしてあげてしまうなど、錠がわいてきているのは間違いないようです。
そんな夏帆の中に、ある感情がわいてきてしまいました。
このゴキブリたちは、殺虫剤の試験のために育てている。
と言うことは、殺すために増やしている。
そんなことはわかっていたはずなのに、いざその試験が明日に迫ってくると、彼女の心の中に大きな動揺が生まれたのです!
自分の感情に戸惑いながら、レポートを書いて帰ろう、と第7開発室……ゴキブリ部屋を出ていく夏帆。
ですが……その動揺は本人が思っている以上に大きかったようで。
絶対に戸締りを忘れてはいけないゴキブリ部屋の扉を開いたまま、隣の研究室でレポート作成を始めてしまったのです!!
……不幸中の幸いは、そ部屋もきっちり密閉されているということでした。
しかし、4時間にも及んでしまったレポート作成の後、匂いに気が付いて部屋の電気を恐る恐る付けた時の光景は……目に余るものだったのです。
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研究室じゅうにあふれかえった、数万はいようというゴキブリの姿!!
明日使うゴキブリが、部屋中に……!!
その瞬間、夏帆の心がおれたのでしょう。
膝から崩れ落ち……まず上司に報告をしなければならないところを……実家への電話番号を選択してしまったのです。
何もかもがどうでもよくなってしまった夏帆。
ですが、その時彼女の脳裏をよぎったのは……!!


というわけで、夏帆の虫とのあれこれを描いていく本作。
この第一話でもなんとなくお判りになりますように、本作における「昆虫」と言うのは、なんていいますか……虫の中でも特に嫌われやすい感じのものばかりがとり上げられているのです!
しかも昆虫、と言うよりは虫のカテゴリ全般を取り扱っておられまして、このゴキブリ以外にも好き嫌いがはっきりわかれる、と言うか好きな人なんているのかと言う種まで登場しちゃいます!
この後に出てくるのは、サナダムシ、ケジラミ、シロアリと言った寄生虫や害虫、それらに比べるとややマイルドなミツバチ、そして一部の方には根強い人気を誇るダイオウグソクムシと、実にいろいろな意味で色とりどり!!!
そんな虫たちに対して、夏帆がこのゴキブリのお話で目覚めさせた(?)母星を発揮し、虫たちのために体を張って奮闘していくお話となっているのです!!
そんな夏帆の母性、そしてグロテスクな虫とのギャップが本作の最大の売りなわけですが、それ以外にももちろん見どころが用意されております!
夏帆以外にも登場する個性豊かなキャラクターたち、そしてそんなキャラが巻き起こすコミカルなトラブル……
取り扱う虫が虫だけに、ものすごく好き嫌いが分かれる内容と言わざるを得ませんが、それを乗り越えられればきっと楽しめる作品になっていますよ!!

今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!