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今回紹介いたしますのはこちら。

「リバースエッジ大川端探偵社」第6巻 作・ひじかた憂峰先生 画・たなか亜希夫先生 

日本文芸社さんのニチブンコミックスより刊行です。

さて、川沿いにある小さな探偵社に舞い込む、小さな事件を描いていく本作。
今回は果たして、どんな風変わりな小さな仕事がやってくるのでしょうか?


どう考えても「怪談」なの。
依頼者の髪の長い女性は、そう言いだしました。
怪談、ホラー、オカルト……
普通に考えれば探偵の出る幕ではないのかもしれませんが、村木はその手の話は嫌いじゃない、と話を始めるよう促しました。
その事件が起こったのは、昨日のことだそうです。
近くにある神社の縁日が有名だから言ってみよう、と急に思い立ち、バイトを終えた夕方に慌てて着替えて家を出たのだそうです。
今考えると、もうその時から何かがおかしかったのだとか。
まるで自分が自分ではないかのような……
着ていく服は縞模様の浴衣。
メイクはいつものような今風のものは避け、白塗り。
髪の毛は後ろで団子にまとめ、垂れたお下げは前に下げる。
そんな恰好で縁日に向かうと……やはり有名な縁日、様々な出店と客とがごった返していました。
彼女の目についたのは、骨董品を売る出店でした。
小皿でも買おうか、と彼女がその骨董品の吟味を始めると……彼女の目が、大きく見開かれました!!
その骨董品の中に、絵があったのです。
そしてその絵には、一人の女性の姿が描かれていたのですが……
縞模様の浴衣、白塗りの顔、髪形……どれをとっても、今の彼女の姿そのままだったのです!!
さらに奇妙なことに、その骨董店の店主らしい老人が、こう話しかけてきたではありませんか!
来たね。
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早く子供のとこへ帰ってやんなよ。
女性は、思わず後ずさりし、その場から離れます。
そんな様子を、絵の中の彼女はただただ見つめ続けているのでした。

翌日同じ場所に行くと、もう出店はなくなってしまっていました。
自分がなぜあんな化粧をしたのか?
そしてあの言葉は何なのか?
それが知りたくて、彼女は今回の依頼を持ってきたのでした。

裏の世界にコネのある所長の情報網を使い、香具師のローテーションや縁日のスケジュールを洗うと、思いのほか早くその骨董の出店の店主は見つかりました。
すぐに村木がその店主のもとに向かい、その絵のことを聞きたいと話しかけました。
最初は何も話すことはないと冷たくあしらう店主ですが、そこは想定内。
ある筋から紹介状をもらっていまして、無事その情報を聞くことができました。
場所を変え、飲み屋のカウンターで酒を酌み交わしながら店主は話し始めます。
あれは自分の父親から受け継いだもので、バチが当たりそうで処分できないんだ。
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だって、毎年あの神社の夏の縁日の最終日に、あの絵の女とうり二つの女が現れるんだぞ。
……どこに出しても恥ずかしくない、怪奇現象じゃありませんか。
村木の頬を冷や汗が伝いますが、店主はもう慣れたとのこと。
そして、こんな話をしてくれたのです。

今から80年ほど前のこと。
あの神社の縁日で、母子が金魚すくいに興じていました。
夢中で掬いあげようとする子供を、母親はやさしく見守っていたのです。
ついに子供の使っていたポイが破れてしまい、振り返ると……そこには母親の姿がありません。
いくら子供が泣こうが、わめこうが、母親が出てくることはありません。
子供を残し……そのまま、母親は帰ってこなかったのでした。
その後成長した子供は、母恋しさのあまりプロの画家に描かせたのがあの絵。
現代で言えばモンタージュ写真のような……そう言う絵だ、と言うのです。

先代の骨董店主が人情家で、快く絵の陳列を引き受けたとのこと。
すると毎年、絵の女性にそっくりの女が、必ず失踪したその日に現れるようになった、とか……
先代の店主も、今の店主も、何度かその現れる女を問い詰めてみたのだそうです。
ところが、そのどれもが「どこにでもいる一般の女性」で、「自分がなぜそんな恰好をしたのか分からない」と口をそろえるのだとか。
全員が、まるで夢遊病者のようにあの絵の前にいた、と。
あまりにも奇妙なその現象ですが、依頼者も実際に体験してしまったのですから信じないわけにもいかないでしょう。
ということは……
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来年もまた別の女の子が……?

どう考えても、オカルトです。
何らかの事情があって子を捨てざるを得なかった女性の情念が、女性に憑依した……?
そう推論を進めるのは簡単。
ですが、安易に解決はやめにして、わからないことはわからないままにしておこう。
依頼者にすべてを明かした後の夜、村木と所長はそんな会話を肴に酒を酌み交わすのでした。


というわけで、今巻も静かに進む物語が全9編収録されています。
この他にも、様々な本作ならではの物語がたっぷり。
店員に罵声を浴びせる店主に対し、頑張っているだろうがと怒鳴りつけた謎の老紳士を追う「アウトな快男子」。
通い詰めた酒場のホステスが、ひいきしてくれたサービスに見せてくれたバク宙をもう一度見たいと依頼する「曲技女の着地点」。
常に右手を握ったまま開かない謎の男の秘密を探る「サクセス」。
顔だけが老人の不可思議な高校生カップルの真意を掘り下げる「老けセン高校生」。
盛り上がった会社の飲み会のカラオケ大会で、地味で内気な女性が突然脱ぎだしたその理由、「脳内快楽物質」……
今巻も、誰も死なない、ダーティなことも起こらない、とにかくちいさな、そしてちょっぴり変わった事件が満載!
今巻も大ベテランのひじかた先生ならではの渋いストーリーまわしを、たなか先生の緻密で迫力ある絵柄でしっかりと描き切ってくれていますよ!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!