今回紹介いたしますのはこちら。
「普及版 屁のような人生 -水木しげる生誕八十八年記念出版-」 水木しげる先生
KADOKAWAさんより刊行です。
さて、15年11月に惜しまれつつお亡くなりになった水木先生。
本作は、09年に水木先生の生誕88年記念として出版された作品を、普及版として再刊行したものです。
水木先生の幼いころの写真から、子供時代に描いた絵、先生自慢のコレクションなどをふんだんに掲載し、縁の方々のコメントなどの生地などを充実させた読み物としての読み応えとともに、節目となった漫画作品も併録しているまさに水木先生の人生をぎゅっと詰めた内容となっています。
漫画作品は水木先生の三大代表作、「鬼太郎」「悪魔くん」「河童の三平」の第一話や、水木先生が一台メジャーとなった出世作と言える「テレビくん」、そして自伝的作品など多数収録されているのですが、今回はそんな中から1999年、水木先生の喜寿に合わせて発表された「余生」を紹介したいと思います!!
水木先生の奥様、布枝さんは仰天しました。
鼻息を噴き出しながら布枝さんの口から出た言葉は……
あれま!!お父さんが死んだ!!というショッキングなものだったのです!!
あまり起きてこないので寝床に行ってみたら、死んでいた……
そう言いながら、事務所にいた娘さんや弟さんなんかに報告する布枝さん。
あまりに突然の言葉に、本当かな?信じられない!と口々に騒ぎ始めます。
ですが死んだと決めつける前に、一度名医に見てもらおうということになりまして……
一同は、早速名医の名高い山田博士に電話をかけ、見てもらうことにしたのです!!
あくる日、山田博士がやってまいりました。
これこれしかじかと山田博士に事情を説明しますと……山田博士は妙なことを言い出しました。
わかりました、ガイコツに電話してみましょう。
……何のことでしょう。
当然の疑問を山田博士にぶつけてみますと、山田博士はこともなげにこういってのけるのです。
ガイコツとは、死神さんのとこです、と!!
死神と聞いては黙ってはいられない弟さんですが、山田先生は至って冷静。
驚かんでもいい、日頃見えないだけで電話すれば姿を現すんです、と当然のように言ってのけまして。
山田博士がこれこれしかじかと電話先に説明をしていますと……
いつの間にか、すぐ近くに死神が現れ、
死んでます。と断言しちゃったのでした!!
が、死んだとは言ってもホントに死亡確定していたのではないようで。
死神は水木先生のことをご存じでして、ちょっと待ったをかけているのだそうです。
そんなちょっと待った状態の描けられている水木先生の死因は何なのでしょう。
死神によれば、過労だそうです。
が、弟さんが最近を振り返ってみても、過労というほど仕事をしていなかった気がするのだそうです。
その言葉を聞いた瞬間、死神は「バカ者!!」と一喝!!
彼は喜寿、七十七歳だろう。
こういう高齢なものにとって、普通の労働というものはかなり堪える、じーっと我慢して働いていたんだ。
どんどん海外旅行させて、内地に帰れば美女と戯れると行った生活が彼には適してるんじゃよ。
……なんだかとっても贅沢な望みな気がします。
が、死神が言うにはこんなところ。
生きながらえてもらおうと思うならば、周りで少しは考えて、なんでも「センセイ!」ではダメなんだ、と……
なんだか水木先生にとって都合が良すぎる気もしますが、ともかくそれが死神の診断なんだとか。
喜寿と言えばそこから先は余剰の人生、余生と言うべきだ。
本人の希望通り、海外旅行に行って、帰ってくれば美女に囲まれた生活、これをしないと悪いけど引っ張っていく……
そんな死神の言葉を後押しするかのように、山田博士は言いました。
大体君たちは正直すぎるんだ、先生を飾りものにして君たちでやればいい!
……医学博士が言うのですから、余の中とはそう言うもの……なのかもしれません。
とにかくその通り従えば、水木先生は再生できるのか?
そう尋ねてみますと、それはすべて水木プロの考え次第だ、とのこと。
今までのように何でもかんでも先生の意見をうかがうということはやめて、大事なことだけ報告してあとは遊んでもらうようにしろ、そう言う条件ならば再生させてもよい。
……釈然としないものはありますが、水木先生を返してもらうにはわかりましたと言うほかありません。
わかりましたととりあえず答えますと、死神は「再生」ということにいたしましょう、と言い残して去っていったのでした。
水木先生の寝かされている布団のもとへ向かってみますと、水木先生がちょうど目を覚ました時でした。
あっ、現世か!おめでたいことだ。
目覚めたかと思った瞬間そう口走った水木先生。
生き返ったことがめでたいというかと思いきや、そういうわけではないようです。
先ほどの皆さんと死神のやり取りの一部始終を知っている様子の水木先生、こう言うのです。
いや、今日から遊んで暮らせる「余生」というものにありついたらしい、と……
というわけで、水木先生が喜寿を迎えた記念(?)に、自らの死をモチーフに描かれたこの作品。
布枝さんの最後のコマのセリフ、あんたそれ夢じゃないの、という言葉が描かれています。
水木先生に働いてもらうためにすっとぼけていったようにも、冒頭の死んだ!という言葉の後がひょっとしたら本当に夢だったのかというようにも取れる本作ですが……
どちらにしても、水木先生の「余生」に対する意気込み、そして水木先生の名言オブ名言「なまけものになりなさい」を現して見せた果のような作品になっています。
本作でも示唆されているように、後年の水木先生の作品はおそらく水木プロがその仕事の大部分をしていたと思われます。
ということは、本作で描かれたように水木先生は余生を楽しんでいたはず。
喜寿のあとに続く余生16年、きっと思う存分満喫したことでしょう……!
ちなみに水木先生、ご自身の死をネタにした漫画を他にも描いていらっしゃいます。
本作を超える奇天烈さを誇るそのお話「太歳」は「水木しげる漫画大全集 不思議シリーズ」の紹介記事で紹介しておりますので、よろしければそちらも併せてごらんください。
水木先生の死に関しての考え方の一端に触れられるこのお話を読めば、水木先生がお亡くなりになった今も楽しく暮らしているんじゃないかなぁ、という考え方ができるかもしれません!!
さらにこのほかの様々な著作で、「死」に関して描かれておりますので、探して触れてみるのも一興でしょう!!
もちろんこの他にも見どころは満点です!
前述したように水木先生の作品発表遍歴の節目となる代表作の収録の他、貸本時代の短編「鬼軍曹」といった貴重な作品、妹の死の後に主人公が何度も不思議なものに遭遇する「丸い輪の世界」、現代の行きすぎた倫理統制を予見したかのような「ハト」、鬼太郎の一話としてアニメ化され、後年荒俣宏先生の作品だったことが明らかになった「イースター島奇談」、水木先生の徴兵されるまでのままならない時代を描いた「落第生」などなどマンガだけでもおなかいっぱい!!
その上、妖怪人類学フィールドワークと題した記事の他、読み物もたっぷり!!
水木先生ファン意外でも必見の内容になっているのです!!
今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!
「普及版 屁のような人生 -水木しげる生誕八十八年記念出版-」 水木しげる先生
KADOKAWAさんより刊行です。
さて、15年11月に惜しまれつつお亡くなりになった水木先生。
本作は、09年に水木先生の生誕88年記念として出版された作品を、普及版として再刊行したものです。
水木先生の幼いころの写真から、子供時代に描いた絵、先生自慢のコレクションなどをふんだんに掲載し、縁の方々のコメントなどの生地などを充実させた読み物としての読み応えとともに、節目となった漫画作品も併録しているまさに水木先生の人生をぎゅっと詰めた内容となっています。
漫画作品は水木先生の三大代表作、「鬼太郎」「悪魔くん」「河童の三平」の第一話や、水木先生が一台メジャーとなった出世作と言える「テレビくん」、そして自伝的作品など多数収録されているのですが、今回はそんな中から1999年、水木先生の喜寿に合わせて発表された「余生」を紹介したいと思います!!
水木先生の奥様、布枝さんは仰天しました。
鼻息を噴き出しながら布枝さんの口から出た言葉は……
あれま!!お父さんが死んだ!!というショッキングなものだったのです!!
あまり起きてこないので寝床に行ってみたら、死んでいた……
そう言いながら、事務所にいた娘さんや弟さんなんかに報告する布枝さん。
あまりに突然の言葉に、本当かな?信じられない!と口々に騒ぎ始めます。
ですが死んだと決めつける前に、一度名医に見てもらおうということになりまして……
一同は、早速名医の名高い山田博士に電話をかけ、見てもらうことにしたのです!!
あくる日、山田博士がやってまいりました。
これこれしかじかと山田博士に事情を説明しますと……山田博士は妙なことを言い出しました。
わかりました、ガイコツに電話してみましょう。
……何のことでしょう。
当然の疑問を山田博士にぶつけてみますと、山田博士はこともなげにこういってのけるのです。
ガイコツとは、死神さんのとこです、と!!
死神と聞いては黙ってはいられない弟さんですが、山田先生は至って冷静。
驚かんでもいい、日頃見えないだけで電話すれば姿を現すんです、と当然のように言ってのけまして。
山田博士がこれこれしかじかと電話先に説明をしていますと……
いつの間にか、すぐ近くに死神が現れ、
死んでます。と断言しちゃったのでした!!
が、死んだとは言ってもホントに死亡確定していたのではないようで。
死神は水木先生のことをご存じでして、ちょっと待ったをかけているのだそうです。
そんなちょっと待った状態の描けられている水木先生の死因は何なのでしょう。
死神によれば、過労だそうです。
が、弟さんが最近を振り返ってみても、過労というほど仕事をしていなかった気がするのだそうです。
その言葉を聞いた瞬間、死神は「バカ者!!」と一喝!!
彼は喜寿、七十七歳だろう。
こういう高齢なものにとって、普通の労働というものはかなり堪える、じーっと我慢して働いていたんだ。
どんどん海外旅行させて、内地に帰れば美女と戯れると行った生活が彼には適してるんじゃよ。
……なんだかとっても贅沢な望みな気がします。
が、死神が言うにはこんなところ。
生きながらえてもらおうと思うならば、周りで少しは考えて、なんでも「センセイ!」ではダメなんだ、と……
なんだか水木先生にとって都合が良すぎる気もしますが、ともかくそれが死神の診断なんだとか。
喜寿と言えばそこから先は余剰の人生、余生と言うべきだ。
本人の希望通り、海外旅行に行って、帰ってくれば美女に囲まれた生活、これをしないと悪いけど引っ張っていく……
そんな死神の言葉を後押しするかのように、山田博士は言いました。
大体君たちは正直すぎるんだ、先生を飾りものにして君たちでやればいい!
……医学博士が言うのですから、余の中とはそう言うもの……なのかもしれません。
とにかくその通り従えば、水木先生は再生できるのか?
そう尋ねてみますと、それはすべて水木プロの考え次第だ、とのこと。
今までのように何でもかんでも先生の意見をうかがうということはやめて、大事なことだけ報告してあとは遊んでもらうようにしろ、そう言う条件ならば再生させてもよい。
……釈然としないものはありますが、水木先生を返してもらうにはわかりましたと言うほかありません。
わかりましたととりあえず答えますと、死神は「再生」ということにいたしましょう、と言い残して去っていったのでした。
水木先生の寝かされている布団のもとへ向かってみますと、水木先生がちょうど目を覚ました時でした。
あっ、現世か!おめでたいことだ。
目覚めたかと思った瞬間そう口走った水木先生。
生き返ったことがめでたいというかと思いきや、そういうわけではないようです。
先ほどの皆さんと死神のやり取りの一部始終を知っている様子の水木先生、こう言うのです。
いや、今日から遊んで暮らせる「余生」というものにありついたらしい、と……
というわけで、水木先生が喜寿を迎えた記念(?)に、自らの死をモチーフに描かれたこの作品。
布枝さんの最後のコマのセリフ、あんたそれ夢じゃないの、という言葉が描かれています。
水木先生に働いてもらうためにすっとぼけていったようにも、冒頭の死んだ!という言葉の後がひょっとしたら本当に夢だったのかというようにも取れる本作ですが……
どちらにしても、水木先生の「余生」に対する意気込み、そして水木先生の名言オブ名言「なまけものになりなさい」を現して見せた果のような作品になっています。
本作でも示唆されているように、後年の水木先生の作品はおそらく水木プロがその仕事の大部分をしていたと思われます。
ということは、本作で描かれたように水木先生は余生を楽しんでいたはず。
喜寿のあとに続く余生16年、きっと思う存分満喫したことでしょう……!
ちなみに水木先生、ご自身の死をネタにした漫画を他にも描いていらっしゃいます。
本作を超える奇天烈さを誇るそのお話「太歳」は「水木しげる漫画大全集 不思議シリーズ」の紹介記事で紹介しておりますので、よろしければそちらも併せてごらんください。
水木先生の死に関しての考え方の一端に触れられるこのお話を読めば、水木先生がお亡くなりになった今も楽しく暮らしているんじゃないかなぁ、という考え方ができるかもしれません!!
さらにこのほかの様々な著作で、「死」に関して描かれておりますので、探して触れてみるのも一興でしょう!!
もちろんこの他にも見どころは満点です!
前述したように水木先生の作品発表遍歴の節目となる代表作の収録の他、貸本時代の短編「鬼軍曹」といった貴重な作品、妹の死の後に主人公が何度も不思議なものに遭遇する「丸い輪の世界」、現代の行きすぎた倫理統制を予見したかのような「ハト」、鬼太郎の一話としてアニメ化され、後年荒俣宏先生の作品だったことが明らかになった「イースター島奇談」、水木先生の徴兵されるまでのままならない時代を描いた「落第生」などなどマンガだけでもおなかいっぱい!!
その上、妖怪人類学フィールドワークと題した記事の他、読み物もたっぷり!!
水木先生ファン意外でも必見の内容になっているのです!!
今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!
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