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今回紹介いたしますのはこちら。

「いぬやしき」第5巻 奥浩哉先生 

講談社さんのイブニングKCより刊行です。

さて、機械の体となってしまった壱郎と皓。
壱郎はその力を人のために使うことにしますが、皓は自分が生きているという実感を得るためだけに、いたずらに人々の命を奪っていきます。
そんな皓の唯一のよりどころは母親だったのですが、ある時ついにすべての犯行が自分のものであることが公式発表されてしまい、平穏が崩れてしまいます。
そんな中で皓は、以前自分に告白してきた女子のしおんと出会い……?


全国指名手配された皓。
クラスでも、当然そのことが話題になります。
教師は、皓の情報を何か知っているものがいれば自分のところに来いと告げますし、生徒たちも暇さえあれば皓の話題で盛り上がっていました。
女子たちは、皓がそんなことをするはずがない、ショックだった、などと言っていますし、男子たちは未成年でももう完全に死刑だな、日本の警察も甘っちょろいななどと面白半分に話しております。
そんな中、顔面を蒼白にしているのが直行でした。
全てが白日の下にさらされれば、追い詰められた皓は開き直って何をするかわかりません。
警察が高速でもしようとしたらそれこそ最後、タガが外れて皆殺しにし、そのまま他の罪もない人も虐殺していってしまうかも……
直行は唯一対抗できるであろう人物、壱郎に相談することにしたのでした。

その頃、当の皓はと言いますと……
食卓で、おばあさんに大福もちを勧められていました。
水だけで良い、と言いながら、部屋の片隅で腰を下ろす皓。
その頭の中では、インターネット上やテレビなどで飛び交う自分に関する情報の収集をしています。
その瞳はうつろで……何を考えているかうかがい知れません。
そんな家に、一人の人物がただいまと帰ってきました。
それは……しおんです。
どうやら、しおんが皓のことをこの家にかくまっているようなのです。
部屋の片隅で座っている皓に、何してたのと尋ねるしおん。
別に何もしていないという皓、逆にしおんにいくつか質問しました。
ここにいてもいいのか?両親はどうしたのか?
しおんは最初の問いにうんと肯いた後、こう答えます。
両親は、どっちもガンで亡くなった、だから私も長生きしないんだ、と。

しおんのおばあちゃんはテレビをほとんど見ないためあまりよく事情を知らないようで、皓が家出か何かをして家に転がり込んだのだと思っているようです。
夕食を振るまいながら、あんまり両親を困らせちゃだめだよ、早く帰ってあげなさい、私が電話してあげようか?
そう世話を焼いてくれるおばあちゃんのほうに、視線だけやりながら、やんわりとそれを断る皓。
時間はゆっくりと、静かに過ぎていき……夜は更けていくのでした。

深夜。
むくりと皓が起き上がりました。
そしておもむろにおばあちゃんのベッドの脇に立ち、手を銃の形にして人差し指を向け……何もしません。
続けて今度はしおんの枕元に立ち、同じように指を向けるのですが……

朝は何事もなくやってきました。
静かに朝食が始まり、しおんは学校に行き、皓は部屋の片隅に腰を下ろし、情報を収集します。
が、その時ふいに皓の瞳から涙があふれ、とめどなく流れ始めたではありませんか。
その時皓が見ていたのは、ニュースの映像でした。
そこでは、
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報道陣に囲まれた皓の母が、涙ながらに謝罪をしている様子が映し出されています。
涙を流し、言葉を詰まらせながら、息子が、人としてやってはいけないことをしてしまって、親としてどう責任を取っていいのか、本当に申し訳ありません。
ネット上では、そんな様子を見てどう錠をするどころか、お前のせいだろ、どう責任を取るんだ、人として失格だななどと好き勝手なことばかり言っていて……
自分の行動が母親を追い詰めてしまった。
ここに来て、ようやく皓は自分の行動を悔いたのかもしれません……

その後のニュースで、母親の姿が消えた、夜逃げのような形で出ていったのかもしれない、と報道され、ほっとした皓。
とりあえずこれで、母親の泣き顔を見ずに済む。
悪意ある報道陣から、このまま逃げおおせてくれれば……
祈るように、母さん、逃げて、ごめんね、と皓はつぶやくのです。
……が。
事態は皓が思っていたものとは大きくかけ離れた状況に陥っていたのです。
母が報道陣の質問攻めの矢面に立たなくなったことで少し安心した皓は、テレビのバラエティを見て久しぶりに笑っていました。
ですがその時、突然ニュース速報のテロップが流れたではありませんか。
その内容は、こんなものでした。
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連続民家襲撃殺人事件、犯人の母親が自殺。
その文字を見た瞬間、皓は振らりと起き上がって外に出て……
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空高くに飛び上がり、大きな声で泣きじゃくるのでした……


というわけで、皓が最も恐れていた事態を迎えてしまった今巻。
自分が起こしてしまった事件が引き金となり、母親が追い詰められ、死んでしまった。
全て自分が招いたことであることは、おそらく皓もわかっているでしょう。
ですが、それを大人しく悔い、自らを改めることができるほど大人ではありません。
母親を追い詰めたマスコミ、好きかったなことを書き散らしたネット上の不特定多数。
そんな者たちに、皓は……復讐を決意するのです!!

そしてその後、物語は思いもよらない展開を迎えることとなるのです!!
多くの人々を殺め、そしてさらに復讐に手を染めようとする皓。
そんな皓が好きで、殺人事件の犯人だという報道も濡れ衣だと思っているしおん。
何も知らないおばあちゃん。
そんなそれぞれの思いが絡み合い……予想外の出来事が!
しかもその予想外の出来事を、さらにひっくり返す残酷な現実が降りかかり……
機械の体となってしまった者には、血肉の通う人としての平穏は許されないのか?
今巻も、奥先生の緻密な筆致で描かれる、ままならない現実が描かれることになります……!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!