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今回紹介いたしますのはこちら。

「くちびるに歌を」第3巻 原作・中田永一先生 漫画・モリタイシ先生 
小学館さんのゲッサン少年サンデーコミックススペシャルより刊行です。


さて、合唱コンクールが近づいてきた中で、ようやく団結し始めた合唱部。
ですがコンクール前日に宿泊した佐世保で事件が起きてしまうのです。
ケイスケとナズナの間に生まれてしまった溝、コトミとその元彼氏である神木の間に起きた騒動……
心の揺らぐメンバーのいる中、無事にコンクールを終えることができるのでしょうか?


コンクール会場に向かうバスに乗り込んだ合唱部の一同。
コトミと神木の騒動に巻き込まれ顔に怪我をしてしまったサトルですが、怪我の功名と言いますかなんといいますか……
うまいことトラブルを隠すためにコトミが付いた嘘によって、サトルはちょっとしたヒーローみたいになっていまして。
今まで割と空気のような扱いだった彼に、後輩たちがちやほや(?)してくれるようになったのでした!

そんな一同の中、ひときわ緊張しているのが部長。
頭の中で何度かシミュレーションしてみても不安が消えきらないようで、少し考えを巡らせたあと、柏木先生にアドバイスを求めることに。
ですがいつも快活な柏木先生が、なんだか上の空でして。
いつもとは明らかに違うその様子に、合唱部一同は違和感を感じまくり。
その違和感を胸に抱いたまま、バスはコンクール会場にたどり着いたのでした。

会場についても、発表のホールを間違えたりとやっぱり普通じゃありません。
そんな柏木では、部長の不安を拭い去ることなどできるわけもなく……
冷や汗を伝わせる部長……
その手をナズナはそっと握り、何があっても指揮についていくから、と力づけるのです。
友人の手から力をもらった部長は、気を引き締めるのですが……

サトルがトイレから帰ろうとしたところ、誰かに名前を呼ばれました。
その声の主は、両親でした。
両親と、兄がサトルの合唱を見に来てくれたようです。
が、実際に会場に入って生で見てくれるのはお母さんだけ。
何かの拍子でスイッチが入って、お兄さんが騒ぎ出してしまったら迷惑をかけるから、ということで……
お兄さんとお父さんは、ロビーにあるモニターで見守ることにしたのでした。
それだけの簡単な会話を交わした後、これから発声練習があるからとみんなのもとへ駆け出したサトル。
ところがその道中で、物陰に隠れるようにして電話をしている柏木を見つけてます。
意識してその電話の内容を聞こうとしていたわけではありません。
ですが、その横を通り過ぎる時に……とんでもない言葉が耳に飛び込んできてしまったのです!!
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ハルコの容態は?と……
産休で休んでいる元々の合唱部顧問、松山ハルコ。
しかし彼女は生まれつき心臓が弱く、出産に体が耐えられるのかと言う心配もありました。
そんな不安が、まさかこのタイミングで現実のものとなるのか……?
その場で柏木に問いただすこともできず、かといって部員全員に事情を明かす勇気もありません。
サトルは不安で押しつぶされそうになりながら、本番を待つことになるのです。

いよいよ出番が間近に迫り、リハーサルの時がやってきました。
割り当ての時間はわずか8分、スタンバイや入室の時間なんかロスをしたくはありません。
そこで段取りを決めようと全員いることを確認した部長なのですが……よくよく見れば柏木がいないではないですか。
……胸をざわめかせるサトル。
ナズナは慌てて柏木を探しに行くと、ほどなく柏木を見つけて呼び出すことはできたのですが、その表情は明らかに浮かないもので……

何とか時間通りリハーサルを終えた一同でしたが、出てきた時のムードは最悪……!
柏木がミスをしまくってしまい、さんざんな結果に終わってしまったのです。
本番では切り替えるという柏木ですが、さすがに部員たちも柏木が普通ではないことに疑問を投げかけずにはいられません。
ちょっと緊張してるだけだと言葉を濁そうとする柏木ですが……そこでナズナは呼びに行ったとき、柏木が電話をしていて、そこから表情が変わったのを見たと言い出したのです。
それだけの情報があれば、部員達にはなんとなくわかってしまいました。
松山先生に何かがあったのではないか?
それでも柏木は力押しでごまかし切ろうとするのですが、そこでとうとうサトルが口を割ってしまいます。
さっき電話しているのを聞いてしまった、すべて話してくれたほうがいいと思う。
このままだとみんなの声も、先生のピアノも、一つになれない気がする、と。

ついさっき、松山先生が分娩室に通された。
体は絶対に大丈夫だ、とは言えない……
その事実を知った部員たちは、やはり動揺してしまいます。
もっときちんと隠し通すべきだったんだ、と反省する柏木、口を出すべきじゃなかったと落ち込むサトル。
ですが一人で抱え込まなくてよくなった分、柏木はある程度吹っ切れて本番に挑むことができそうです。
さらに部長は、松山先生のためにも恥ずかしくない演奏をしないといけない、と強い気持ちを表明!!
女子部員も、さっきのひどいリハーサルが本番じゃなくてよかった、と前向きに考えることができまして。
緊張を集中力に変えよう、頑張ろう!!
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一同はやる気をみなぎらせうのですが、その状況で慶介はとんでもない提案をしたではないですか!
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松山先生に電話をつなげたままステージに出るぞ。
俺たちの声を、島に届けるんだ!!


というわけで、いよいよコンクール本番に挑むことになった本作。
それぞれの思いが交錯する中、大切な先生に思いを伝えるために一つになった合唱部。
コンクールでの入賞、と言うのももちろん目標は目標でしょう。
ですが一同にとっての最大の目標はもはやそこにはないようです!
自分たちのありったけの気持ちを、先生に届ける。
もし携帯をつなげた状態で壇上に持ち込んだことがばれでもしたら、減点どころでは済まないでしょう。
それでも、誰一人としてやめようと言い出すものなんていなかったのですから!!

そんなクライマックスを迎える本作ですが、それは合唱や合唱部全体以外にもやってきます。
あのトラブルから、距離が縮まったと言っていいサトルとコトミ。
そしてコンクール前に心を大きく揺さぶられることになってしまったナズナ……
彼女たちにも、この青春の日々のクライマックスが訪れるのです。
ケイスケのこと、家族のこと。
振り切り切れなかったナズナの心に引っかかった数々のモノ……
そんな彼女に訪れた、暖かな答えとは……?

最後の最後まで、乙……中田先生の持ち味の一つである心を波立てる物語はこびと、その先に待っているさわやかで、どこかせつない読後感は健在!
わんわん泣ける!と言う感じではなく、じわりと胸の中からこみあげる感動を味わうことができるのです!!
そしてそんな中田先生の持ち味を、漫画という媒体にしても十二分に発揮して見せたモリ先生の描写もさすが!
少女たちの心の動きを様々な表情で見事に表現し、限られた(であろう)ページ数でその独特な味わいをしっかりと描写してくれています。
女子たちのかわいらしさは言うまでもありませんし、最後のシーンで姿を見せるサトルも、絵だけでその成長ぶりがうかがえる……
中田先生とモリ先生の周波数がぴったり合っているこの感覚、今回のタッグによる別の作品も見てみたいと思わせてくれるのです!!
……小学館さんから中田先生作品が他に出ていないので、難しいのかもしれませんけど!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!