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今回紹介いたしますのはこちら。

「ムシヌユン」第1巻 都留泰作先生 
小学館さんのビッグスペリオールコミックススペシャルより刊行です。

都留先生は03年に四季賞の佳作を受賞し、デビューした漫画家さんです。
06年にアフタヌーンにて「ナチュン」を発表し、その独特の世界観で人気を獲得、3年半にわたる連載となりました。
本作はそんな都留先生の待望の新作となります。
そんな都留先生ですが、漫画家であると同時に文化人類学者さんでもあるそうで。
学者でありながら漫画家という二刀流で生み出される漫画は、まさしくならではの味わいを持っているのです!!


幼いころから昆虫博士になることを夢見てきた上原。
ですが彼の前に立ちはだかったのは残酷な現実でした。
「昆虫博士」などという職業はない。
尊敬する教授のいる研究室に入ろうと。院生入試を受け続けてはや五年。
昆虫が好きなだけではどうにもならない、それなら趣味でやれ、と面接をしている研究スタッフに冷たくあしらわれ、当の尊敬する教授にも身にならない研究をしても仕方がない、とやんわり彼のことを否定するのです。

仕送りは止められ、いよいよ電気まで止められてしまいました。
何とかしようと働き口を探しますが、今まで昆虫博士になることだけを考え、昆虫としかまともに向き合ってこなかった上原は「普通に生きていく」方法を知りません。
八方ふさがりになったその時、滞っていた家賃を回収しに来た大家に言われてしまった言葉が決定打となりました。
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向いてないんじゃない?
都会の空気があっているようにも見えないし、田舎があるなら帰ったほうがいいよ絶対。
……その言葉で、もうほとんど折れて皮一枚しか残っていなかった上原の心は完全にへし折れました。
上原は、小学3年生から6年生というごく短い間しか住んでいなかったものの……田舎ではあることには間違いない日本最南端の島、与那瀬島に向かうのでした……

ところがやってきた与那瀬島、驚くほど多くの人でごった返しています。
人口5000人程度の小さな島であるこの与那瀬島、本来ならば港にもぽつぽつとしか人がいないはず。
だというのになぜ……?
その理由は、上原以外のだれもが知っているものでした。
「タンゴ星団」などと呼ばれている天体ショーが、日本ではこの最南端の島でのみみられるというのです!
超新星の爆発なんかで作り出されているらしいそのタンゴ星団ですが、最大のポイントは「丸い」ということ。
普通では考えられないほどの、完全な球形をしているというのです。
作為的なまでのその完全な球形に、一部の研究者までもが「宇宙人のメッセージではないか?」と言い出していまして。
さらに一部では、宇宙人同士の大戦争によってもたらされている光ではないか、とも……
そんな喧噪から逃れようとする上原ですが、小さな島はどこへ行っても人だらけ。
おまけに3年間しかいなかったこの島の記憶がほとんどない上原のことを、覚えている人までちらほらいるようで……
上原はむしろその話しかけてくる人物よりも、当時追いかけていた虫のほうが鮮明に覚えているくらい。
もともと社交的ではない上原ですから、そんな相手と打ち解けられるはずもなく。
「ある場所」だけ聞いておくと、居場所を求めてさまよい始めます。
ですがどこに行っても居場所がないことを確認させられるだけ。
上原はやむなく先ほど聞いた「ある場所」に向かいました。
そこは、女性が肌も露わなビキニ姿で接客をしている飲食店。
そして上原はそこにいる一人の女性に会いに行ったのです。
その女性とは……上原の母親でした。
上原とは比べ物にならないほどエネルギッシュな彼女は、14歳でお前を身ごもってから必死で働いて必死で生きたんだからお前もできるはずだ、いい加減自分の翼でとびたてとまくしたててきました。
実は彼女のおなかの中には子供がおりまして……
要するに今自分を頼ってここに来られても邪魔なだけだ、と追い払いたいようです。
彼女は当座の食べ物だと弁当の類の詰まった袋を上原に押し付け、もうお役目を果たしたから、頼ってくるなと吐き捨てるのでした。

八方ふさがりとなった上原は、絶望の中でとても珍しい虫を発見します。
その巣が発見できれば学術的にもものすごい発見だ、と夢中になって後を追うと、今まで誰も見つけたことのない兵隊アリも発見。
そして史上空前の大発見となりうる、巣まで発見してしまいました!!!
これで女王アリを採取できればもうすごいことになります。
ですが今の自分がとてつもなく怪しい行動をしていることにも気が付いている上原は、人目につかないことを祈りながら採取に挑むのですが……
そこに思いがけない人物が現れるのです。
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かつての同級生にして、初恋の人……新城かなこが!!

かなこはかつてと変わらない輝きを放っていました。
ですが、だからこそ……彼女の「現在」を見た時の衝撃は耐えがたいものでした。
ショックのあまり、完全なる自暴自棄になる上原。
首をつって自殺をしようとするものの、それもできず……
またしても何もできない自分にやり切れない思いを抱くばかりになってしまったその瞬間。
タンゴ星団がはじけたのです。
そしてそこから、無数の流星が降り注ぎます。
そのうちの一つが、頭を抱えてうずくまる上原のもとに落ちてきて……
その流星は、まるで虫のような姿をしていました。
見たことのない虫を間近にして、引き寄せられるようにふらふらと歩を進めます。
弱っているように見えるその虫に恐る恐る手を伸ばすと……その虫は振り向き、上原の指に食らいついたのです!
その瞬間
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上原の後頭部はミカンの皮をむいたように剥け。
そして噛みつかれた指先から体がチーズのように散り散りに裂けててしまい……!!


というわけで、思いもよらない展開へ突入する本作。
前半は、虫が好きすぎるために生きる手段を知らないまま、追い詰められてしまった上原の苦悩を残酷に描いていきます。
都留先生ならではの、いい意味で圧迫感を感じさせる筆致によって描かれるそれは、作中の蒸し暑さを増幅して感じさせ、上原の行き場のない辛さをしっかりと感じさせてくれるのです!!
虫とばかりふれあっていたために、うまく人と接することができない上原。
初恋の人や母親を前にしてもそれは変わらず、完全に追い詰められてしまう……
そんな状況で巻き起こる、奇怪な出来事!!
単行本一冊の半分ほどを使って息苦しい日々を描いたかと思うと、今度はとんでもない異変。
謎の虫に触れたことでさく裂してしまった上原ですが、ここで死んでしまっては物語は終わっちゃいます。
とんでもない目にあった上原に起きる異変。
そしてその異変にさらされたのは上原だけでなく、この島そのものに……!?
異常な事態を滑稽に、そして悍ましく描いていく後半。
物語はまさにここから始まるのでしょう!!
いったいこの物語はどんな展開をして、どんな結末を迎えるのか……?
予想一切不可能のこの作品、ぜひとも着地点まで見守りたいところです!!


今回はこんなところで!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!