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本日紹介いたしますのはこちら、「劇画 プロレス地獄変」です。
作者は原田久仁信先生。
宝島社さんより刊行されました。

さて、本作はプロレス・格闘技に関するゴシップ的な裏話を漫画化した作品です。
12年に同じく宝島社さんから原田先生の「劇画 プロレス夢十夜」が発売されていますが、本作はその収録作品を完全に再録した上に、その後別冊宝島にて発表されたプロレス劇画を追加収録した、いわば完全版になっています!

収録内容は「夢十夜」の7編に単行本初収録の作品を加えて全13編14話。
今回紹介しますのは前後編で描かれる、あの伝説の団体「WJ」を取り上げた「地獄のど真ん中」です!!

水道橋のある中華料理店で、プロレス界に明るいものなら知らないものはいないほどの有名人達が集結していました。
東スポで実績を作ってから新日本プロレスに入社し、UWFとの対抗戦を仕掛けるなど、「背広レスラー」の異名も取った永島勝司さん。
そして、12年に惜しまれつつもなくなられた「ゴング」記者にしてプロレス解説者、竹内宏介さん。
そんな二人が待っていたのが、あのジャイアント馬場の奥様であり、当時の全日本プロレスオーナーの馬場元子さんだったのです!

元子さんは永島さんに対して、あまりいい印象は持っていないようです。
それならば何故わざわざ会談の場を持ったのでしょうか?
理由はただひとつ、この時に起きていた全日本プロレスの窮状ゆえです。
ジャイアント馬場、そしてジャンボ鶴田と相次いで亡くなったあげく、川田・淵・馳・モスマン以外のレスラーすべてが離脱してしまうと言う、まさに団体消滅も時間の問題かというほどの大ピンチに追い込まれていた全日。
そこで意外にも、当時新日本プロレスの取締役に就任していた永島さんが救いの手を差し伸べようとしていました!
いくら離脱した選手が新団体をつくろうとも、真の全日本は残留した淵と川田!
ジャイアント馬場こそ全日本、王道の歴史はここに残っている!!
永島はそう考えていまして、永島は新日本と全日本の対抗戦をぶち上げたのです!
実はこの対抗戦、かのアントニオ猪木は反対しているんだとか。
元子さんもその理由は理解できます。
このまま放っておけば、潰れる。
猪木だけでなく、大概の人間はそう思っていたのでしょう……
ですがそれでも永島さんの決意は揺るぎません。
新日本が戦う相手は、あくまで馬場の全日本!
猪木が何を言おうが、離脱選手の団体にテレビがつこうが関係無い、と断言したのでした!!

全日本と新日本の対抗戦は、スーツでバッチリきめた淵の紳士的かつ大胆な宣戦布告を、長州力が受け入れる形で始まりました。
川田、淵、モスマン(この頃改名して太陽ケアに)の奮闘は、スタイルの違いから不安視もされていたバトルを予想以上に熱く盛り上げました。
結果として、対抗戦は大成功。
特に武藤敬司の華のあるファイトは元子さんも甚く気に入られたようで、この調子のよさに永島さんに対する態度も軟化してきまして……
遂には長島さんにこんなことを言うまでになったのです!!
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全日本の社長をやってみない?と!!

もちろん新日本の取締役を勤めている上、盟友の長州なんかもいる新日本をおいそれと袖にすることはできません。
ですが冗談と言う可能性も否定しきれないながらも、贔屓目に見てもしっかり感じられる信頼に思わず永島の顔は緩んでしまいまして……
ニヤニヤしていますと、それを見た長州から突っ込まれでしまいました。
今の会社の状況をわかってるか?と。
確かにこの頃新日本プロレスは迷走期に入りつつありました。
飛ぶ鳥を落す勢いの総合格闘技やキックボクシングに触発され、新日本プロレスも格闘団体化を視野に入れ始めていまして。
長州を現場監督から解任し、永田裕志を総合格闘技に出場させる、なんて企画も動いてまして。
しかもこの頃、橋本真也は会社との確執の末新日本を解雇。
そんな会社の動向に、純プロレスを愛する武藤敬司は心に不安を溜め込んでいたのでした……
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その後、永田は総合格闘技出場も惨敗し、新日本プロレスによくない空気が流れたまま年が明けました。
今年のプロレス界は大変ですよ、という景気の悪い話を枕にして元子さんに新年の挨拶をする永島さん。
ですがどうしたことか、あれだけ心を許してくれていた元子さんが妙にそっけない態度を取るのです。
その上、悪いわね、急にいろいろあってね……と意味深な言葉を残して去っていくではないですか!!
その言葉の真意は程なく明かされることとなります。
新日本の格闘技路線に反発した武藤が、同調した小島聡、ケンドー・カシンと幹部社員数名をつれて全日本に移籍!!
新日本に新たな動乱の風が吹き荒んだのです!!

しかも悪いことに、猪木に元子さんに社長にならないと誘われたんだ、と打ち明けていたことからこの事件の黒幕が永島さんだと誤解されることに。
猪木には必死に違うと主張するものの、確かにこの状況でその言葉を信じるのは難しいかもしれません……
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居場所も信頼もなくした永島さんは心が折れ、新日本を退社。
程なくして同じように居場所をなくした長州も後を追う様に退社したのでした……

その後、なんとあの隆盛を極めていたK-1から永島を通して長州にオファーが舞い込みました。
なんとそのギャラは2試合で1億!!
実際問題、勝敗なんてどうでもいいのです。
なにせうまいルールを作れば勝てないまでも、負けないようにすることは難しくないのですから!!
何をするにせよ、1億円もあれば新団体設立だろうがなんだろうが難しくなくなるはず!
いちもにもなくOKする……つもりだったのですが、なぜか長州がそのオファーは無しだと言い切ったのです!
どう説得しても、俺がダメと言ったらダメだと撮り付く島も無い長州……
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老いを隠しきれない年齢にさしかかってきた自分が、無様な試合をすればブランドがちに落ちる、とでも考えたのでしょうか?
その真意は長州自身にしかわかりません。
ですが今でも永島さんはこのオファーを蹴ったことを悔やんでいるとか……
なぜならこの決断が、あの流れに進む鍵となったと言っても過言ではないのですから。
直後に見つかったタニマチの支援を受け、新団体・ファイティング・オブ・ワールド・ジャパンプロレス……「WJ」の設立へ。
そして、そこで起きたあんまりにもあんまりな悲劇の数々の……

というわけで、永島さんを主役に据えてのWJ旗揚げまでの経緯、そして終焉に至るまでの経緯を描くエピソードを収録した本作。
これが完全なる真実!というわけではないのでしょうが、こういった視点から見る「ど真ん中」の真相はプロレスファンならば興味深く読めることは間違いないでしょう!!
そしてこの他にも同じように興味を引かれること間違い無しのお話がたっぷり!
まずあのアンドレ・ザ・ジャイアントにまつわるストーリーが2編収録。
こちらはあの前田戦の秘密……にこそ迫りませんが、その事件の前後のアンドレの心境の変化を描いてみたり、スタン・ハンセンとの田園コロシアムでの一騎打ちをたっぷり描いたファイトメインのお話が描かれたりしています!!
さらにはぐれ国際軍団の哀愁を描いたエピソード、かつてはプロレス雑誌編集長として輝かしい日々を贈っていたターザン山本さんの「それから」も残酷に描いたお話、あの暴露本も出版された泉田純の見た詐欺事件の真相を描く衝撃の物語……
どれをとっても、(真偽は置いておきまして!)ビックリしたり呆れたりと、心動かされるお話揃いになっていますよ!!

原田先生のプロレスゴシップ劇画完全版、「劇画 プロレス地獄変」は全国書店にて発売中です!!
前巻「夢十夜」を購入された方は、発売1年未満でその劇画全作が収録されている本作の発売はいろいろ複雑なことでしょう!
ですが400Pを優に超えるページ数で「夢十夜」を下回る743+税円のこのお値段、新刊のおまけに前巻が収録だと思えば受け入れられなくも無い……と言うことでどうでしょうか!!
もちろんこの収録内容、「夢十夜」未購入の方ならばより一層満足できること間違いなし!
興味があったものの未購入だった方ならまさにビンゴの一冊ですよ!!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!