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本日紹介いたしますのは「藤子不二雄Aのブラックユーモア」です。
小学館さんより刊行されました。

A先生の日記漫画、「PARマンの情熱的な日々」の紹介は10年9月6日の記事に記載しております。
よろしければそちらもあわせてご覧くださいませ。

さて、本作は「黒イせぇるすまん」「無邪気な賭博師」の全2巻で構成された、A先生の大人向け短編を集めた単行本となっています。
A先生の短編といいますと、大体主人公が何か酷いことをしたりされたりして大変な目に会います!
その題材は他人や物に対して怒ったり恋焦がれたりする、狂気のようなものをはらむ作品も多いのですが、何より多いのはやっぱりギャンブル物!
今回はその両方の要素をはらんでおり、表題作にもなっている「無邪気な賭博師」を紹介したいと思います!

雀荘で卓を囲む会社の仲間たち。
ところが一人が遅刻しておりまして、どうしても4人になりません。
しょうがないから三人麻雀でもして時間をつぶすかなどと話していますと、そこに場違いな人物が姿を現しました。
夜(といっても7時半ですが)の雀荘には似つかわしくない、学生服に身を包んだ貧弱そうな少年。
彼は恐る恐る三人麻雀をしようとしていた会社員に近づき、人が足りないなら自分を入れてくれないか?と言い出したのです。
君は中学生だろう?とここは子供の来るところじゃないよ?とやんわり断る会社員たち。
でも麻雀は知っているし、金なら持っていると一万円札を取り出し、負けたらキャッシュで払うといいだす少年。
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会社員たちは、お金を見せられるとわかりやすいくらい色めきたち、じゃあもう一人来るまで入れてやるよ!と少年をメンバーに加えたのでした。

ところでレートはいくらなんですか?と少年が尋ねると、リーダー格の会社員はあろうことか「100点100円」だなどと言い出します。
もちろんいつもはそんな高レートではやっていないわけで、この少年からむしりとってやろうという考えが見え見えです。
が、少年はそれほど驚いた様子もなくそのレートを承諾するのでした。

その時、雀荘のオーナーらしきおばさんが少年に声をかけてきました。
どうも彼はここへ頻繁に来ているようで、あれほど行ったのにまた来たのか、中学生に麻雀やらせてるなんて警察に知られたらマズイよととがめだします。
ですがせっかく4人になりましたし、何よりカモを逃がすまいとした会社員は彼に抜けられたら困るから、とそれを静止。
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おばさんもお客さん相手には強く言えないのでしょうか、せめて学生服は脱いでくれ、家の人が心配するから遅くまでは駄目だよ、と言い残してお目こぼししてくれたのでした。

早速はじまった第1局。
配牌を取り終えた後、少年はいきなり「十三不塔」は役満か?と尋ねてくるではありませんか。
そんなのやったことないけど、まあ役満で良いんじゃない?と何の気なしに答えるのですが、なんと少年は
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その「十三不塔」であがっちゃうじゃありませんか!
いきなり役満で点をもぎ取られてしまった会社員のみなさん。
このままでは引き下がれん、と遅れてきた仲間が来ても少年を面子にしたまま勝負を続けるのです!!

終わってみれば少年の一人勝ち。
会社員は2~5万円も大負けしてしまいました。
そんな大金を早々持ち歩いているはずもなく、とりあえずツケにしておいてもらい、25日までにこの雀荘に持ってくるということで話はまとまりました。
ですが相手が気弱そうな少年ということで、会社員たちは踏み倒す気満々!
このまま無視しちゃおうということになったのです。

が、少年はちょくちょく催促の電話をかけてきます。
さすがにうっとおしいと、リーダー格の男が十分の一に値切ってやる!と言い出し、
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他の二人から十分の一の金額を預かって例の雀荘へ向かいました。
すると翌日、リーダー格の男が泥酔し、電車に轢かれて死んだというニュースが新聞に載っているではありませんか!
このことで警察に事情聴取されでもしたらめんどくさくなると考えた二人。
おそらくリーダー格の男はあの金を使って飲んだのでしょう。
とにかくさっさと清算しておいたほうがよかろうと、とりあえずのいくらかの金を握って一人の男がそれで手を打たせると雀荘に向かいます。
ところが、今度はその男が消息を絶つのです!
最後の男がいよいよ恐ろしさを感じ始めると、そこに少年からの電話がかかってきます。
言いようのない不安を感じた男は金を無理して作り、指定された場所へ向かいました。
遅くなってすまなかったと少年に金を返そうとする男。
ですが少年は「あなたたちは実に卑劣だ!」と言い出すではないですか!
子供だと思って借金を踏み倒そうとしたり値切ろうとした。
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賭けの負債というのは神聖なものなのだ、それを冒涜した会社員二人には報いを受けてもらった。
そんなことを言い出す少年。
ということは、あの二人が死んだり失踪したのは……!
少年はすさまじい形相で最後の男ににじり寄り、そのまま一切の迷いなくビルの屋上から男を突き落としました!
恐ろしいまでの美学を持つ得体の知れぬ少年。
今まで何人手をかけたのかわからない、その少年は
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異様なオーラを身にまとい、またあの雀荘で麻雀を打つのでした……

というわけで、A先生の大好きなギャンブルネタと理不尽な出来事をミックスした作品を収録した「無邪気な賭博師」。
ぜんぜん無邪気じゃないような気もしないでもありませんが、この作品に代表されるだましだまされ野物語が20編収録されています。
ギャンブルネタが多いこちらですが、71年の時点で大人の引きこもりを描いた「明日は日曜日そしてまた明後日も……」という注目作も掲載され、A先生のきらめく着眼点も再認識させてくれるのです!!
そして「黒イせぇるすまん」のほう。
こちらもギャンブルネタがけっこう多いのですが、もっと人間の狂気を前面に押し出した作品が多くなっています!
もちろん表題作「黒イせぇるすまん」も注目ですが、奇妙な恐ろしさを感じさせる「不気味な5週間」シリーズ、コミカルな絵柄で恐怖を描く「不思議町怪奇通り」なども気になるところ。
更にこれらの作品中ダントツに新しい、「わが名はモグロ…喪黒福造」という笑ウせぇるすまんの誕生秘話なども収録!
喪黒のモデルとなった人物も明かされるこの作品も見逃せませんよ!!

様々な理不尽が襲い掛かる、「藤子不二雄Aのブラックユーモア」、「黒イせぇるすまん」「無邪気な賭博師」の2さつが全国書店にて発売中です!
ブラックユーモアというよりも、とにかく理不尽な狂気が振りかざされるお話が目に付く本作。
まさにA先生節!といえる、実にらしい作品が満載ですよ!
さぁ、本屋さんに急ぎましょう!!